海に浮かぶ世界初の水上酪農場「Floating Farm」
欧州オランダは、国土の約3分の1が海抜ゼロメートル未満で、気候変動の影響に弱い国だ。温暖化の影響で海面上昇が起これば、国土が沈んでしまうこともあり得るため、政府・国民共に環境問題には真剣に向き合っているのだという。
そのような中、同国に誕生したのが「フローティング・ファーム」。環境問題に配慮した海に浮かぶ酪農場なのだという。
海に浮かぶ酪農場とは、一体どんなもので、この施設がなぜ環境に良いと言われているのだろうか。一緒にみていこう。
海に浮かぶ酪農場
フローティング・ファームは、オランダ南部の港町、ロッテルダムに位置する。
驚きなのは、農場を水上に作るという発想。オランダに暮らしていると、国民の発想力に驚くことが多々ある。国土は日本の九州ほどしかない小国だが、いち早く農業にも独自の発想力とテクノロジーを導入し、非常に効率よく農作物を生産しているという。そのおかげで農作物の輸出量は、アメリカに次いで世界第二位を誇っているのだとか。
そしてこの酪農場が目指すのは「動物福祉、循環性、持続可能性を重視し、消費者に近い都市で健康食品を生産する。」ということ。確かに都市に近いところで食物を生産出来たら、輸送にかかるエネルギー(ガソリンや輸送中の保冷に必要な電力)を削減できるので良いことばかりだ。
牛たちはずっと水上に閉じ込められている訳ではなく、定期的に目の前の野原に放牧されることもあるという。さすが「動物福祉を重視する」と宣言しているだけあり、乳牛たちの自由や生活の質にも配慮がある。
自然エネルギーで稼働するファーム
ファームのすぐ横に浮かぶのは、このファームの電力をまかなうソーラーパネル。ここで、搾乳機や排泄物処理、1階の事務所の電力を賄っており、環境にも配慮していることが伺える。
そして、乳牛たちがいるフロアの下には、スタッフたちの事務所がある。
ここに、何故フローティング・ファームが誕生したのかといったストーリーが紹介されていた。
この海上の酪農場というアイディアの起源には、アメリカで発生した深刻な洪水をニュースを見たことがあるそうだ。洪水が発生した当時のアメリカは、洪水のせいで物流が混乱し、市内のスーパーマーケットの棚は2日以内に空に。その地で生活を営む多くの人がパニックに見舞われたという。そのような光景を目の当たりにし、海上に農場を作れば、都市の近くでの生産が可能になると考えたのだそう。
地元での循環サークルを
このファームのポリシーとして、「可能な限り循環を作る」ということがある。そのため、乳牛たちは、地元の草、近隣の風車が脱穀した小麦ふすま、ビール醸造所から生産過程で生まれる穀物かすなど、なるべく地元でとれる餌を食べているという。
そのようにして生産されたフローティング・ファームのミルクとヨーグルトは、ファームの事務所で販売されている。どれも濃厚で非常に美味しく、地元の人々に愛されているそうだ。ちなみに1本750mlで1.50ユーロ(2023年9月現在、約240円)。このミルクは、このファームのみの販売ではなく、地元ロッテルダム市内のスーパーにも卸しているということからも、地元の人々の生活に根付いた商品であることが想像できるだろう。
敷地内には、ミルクサーバーの設置も設置されている。近所に住んでいる人ならだれでも、ここのミルクを定期的に購入できるのだ。私が訪れたタイミングでも、地元の方がミルクを買いに来ていた。ファームのポリシー「循環を生む」は、地元の住民にミルクを楽しんでもらうことによって、見事達成されているように感じた。遠くまで運ぶとまた余計なCO2も発生させるので、自転車で買いに来られるくらいの距離のコミュニティでの循環が、一番効率が良いのだろう。
この海上ファームの成功次第では、同じく海上養鶏場や海上農園などの計画も控えているのだとか。
ロッテルダムだけでなく、たとえ規模が大きくなくても、街の中に「小さな循環」を生み出す生産者が増えれば、環境への負担を軽減しながら、豊かに暮らすことが出来るのではないだろうか。
この場所と出会い、そんなことを考えさせられた。
[All Photos by Naoko Kurata]
Via:
floatingfarm.nl