農業しながらイクラが採れる!魚のフンで作物を育てるアクアポニックス農法とは
植物の種は地面に撒いて育てる、海に泳いでいる魚を釣って食べる…これらは、わたしたちが生まれる前からそうなっていた自然の原理にもとづく、ごく自然な行為だ。
一方で、テクノロジーの進化により、これまでには存在しなかった方法で作物や生き物を育てることもできる。土を使わずに育てる水耕栽培や、人工的に管理された環境下で育てる養殖魚などが例に挙げられる。
水耕栽培や養殖魚は十分革新的だが、「土で農作物を育てるのが農業、海で魚を取るのが漁業」という区分は変えてこなかった。そんな「あたりまえの区分」をなくしてしまうかもしれない技術、それがアクアポニックス農法だ。
農業と漁業の境目をなくすとはいえ、これまでの農業や漁業の価値を奪うわけではない。むしろ、アクアポニックス農法は、作り手と買い手の暮らしをよりよくしてくれる、頼もしい技術といえる。
アクアポニックス農法とは、魚のフンで作物を育てる循環型”農漁業”
アクアポニックスとは、魚のフンで作物を育てる循環型システムのことを指す。具体的にいうと、以下のような循環型モデルを続けることにより、野菜も魚も育つという農法だ。
- 魚がフンをする
- フン入りの水槽の水を作物に流す
- 魚のフンが肥料代わりになり、作物が育つ
- 作物がフンやバクテリアを浄化し、キレイな水になる
- キレイな水が水槽に戻る
水槽の汚れは作物の肥料となり、作物が栄養分を吸い取った後のキレイな水は魚の生きる糧になる。このようにして、農業をしながら魚の養殖もできるというわけだ。
無農薬・減農薬野菜を育てやすく、物価高に影響されにくい
アクアポニックス農法は、育てる側の手間が省ける上、物価高の影響を受けにくいというのだから驚きだ。
野菜のなかでも、皮をむかずにそのまま食べる葉物野菜は、表面に付着した農薬や残留農薬が気になるという声も多い。需要があるのなら無農薬・減農薬野菜を作ればよいと思うかもしれないが、無農薬、減農薬栽培は手作業での草取りや虫よけなどたいへんな手間がかかり、収益性に乏しいのが現状だ。
一方のアクアポニックス農法は、室内栽培のため農薬を使用する必要がない。除草や虫よけに手間のかかる無農薬・減農薬と、効率を優先した慣行栽培(註:農薬を用いた栽培のこと)のいいとこどりをしつつ、環境へのダメージを抑えた理想のモデルといえる。
加えて、アクアポニックス農法では魚のフンが有機肥料として機能するため、化学肥料を使う必要もない。ウクライナ危機を機に、輸入成分に頼っていた化学肥料は以前の倍ほどの値段になり、多くの小規模農家が利益減少に困っている。アクアポニックス農法は魚が有機肥料を生み出してくれるので、物価高に左右されず、収益性の高さを維持できるビシネスモデルだ。
副産物の「魚卵」で、農家の所得向上につながる
アクアポニックス農法は、農家の所得を上げるビジネスモデルでもある。有機肥料を生み出す魚として、魚卵を生み出す魚を飼育するのだ。
イクラや筋子のもととなるサケやマス、キャビアのもととなるチョウザメなどを用いれば、農作物に加えて利益の出る商品がひとつ増える。日本で実際に生産に乗り出している企業もあり、天候や作物の出来具合に収入を左右される農家にとって、安定して収穫できるモノがひとつ増えるのは大きな変化だといえるだろう。
環境を守り、農家の暮らしを支えるアクアポニックス農法
アクアポニックス農法は、農業と漁業をシームレスにする。効率化を理由に農薬を使用する必要はなく、農家の人々が手間をかけて草取りや虫よけをする必要もない。副産物でできる魚卵は、農家の所得を底上げしてくれる。
小規模なものであれば、家庭の水槽でも実現可能だ。魚のフンが植物を育て、植物が水を浄化し魚を育てるアクアポニックスセットは通販などで気軽に購入でき、自宅の水槽にはめて使う便利なタイプもある。小さいながらも自然の循環を身近で感じられることだろう。
作る側にも食べる側にもメリットの大きなアクアポニックス農法では、レタスやほうれん草、水菜などさまざまな野菜が作られている。日本では一部地域でしか販売されていないが、見かけたらぜひ手に取ってみたい。食にこだわるあなたと、生産者の暮らし、そして地球環境をも救う第一歩になるはずだ。
参考サイト:
Hearty Harvest FOOD BANK.”How Does Aquaponics Work?”.
THE aquaponic SOURCE.”WHAT IS AQUAPONICS?”