今日はどこから海を見る?複数の窓と、異なる眺望を持つ家「Sun flower house」
筆者の夫はレストランが気に入ると、その店を様々な角度から楽しもうとして、ワイングラスを片手にあちこちの席に座る癖があった。この家を見たときに思わず彼のこの行動を思い出してしまった。やはり美しい眺めを眼の前にすると人はつい欲張りになってしまうのだろうか。
人の欲望に忠実なこの家の建築を手がけたのが、エドワルド・カタバルとクララ・ソラ-モラレスの率いる建築事務所カタバル&ソラ-モラレス(Cadaval & Solà-Morales)だ。スペインやメキシコを拠点に活躍するこの建築事務所は、他にも実にユニークな形状の建築を手掛けている。
キューブを積み重ねた積み木のようなデザインは、建築には決して向かない崖の上で、いかに素晴らしい眺望と太陽の恵みを手に入れるかを考えた結果生まれたものだった。太陽に向かって元気に首を伸ばし、花びらを四方に広げるヒマワリから名を取り、「Sunflower House」と名付けられたこの家が、今回ご紹介するスモールハウスだ。
この家が建てられたのは、バルセロナから北東に行ったところにあるスペインとフランスの国境、ジローナにあるプエルト・デ・ラ・セルバという地中海に面した海沿いの街だ。ここは漁港と観光の街で知られている。
豊かなカタロニアの自然をうまく利用した小さな庭と海側に面した小さなプール。すべてのキューブの部屋の窓から、一切の視界を遮られることのない地中海が広がり、フランスからカプ・デ・クレウス国立公園までを見渡すことができる。外から見るとそれぞれのキューブの窓枠は黒く縁どられ、白いキューブのアクセントとなっている。
国際犯罪法関係の仕事をする施主夫妻がこの家を建てた一番の目的は、ストレスの多い仕事から離れてリラックスする時間を過ごすことだった。ソフトなモノクロームに仕上げられたデザインと心落ち着かせるパノラマビューは、疲れた施主夫妻の心を癒すことだろう。
「施主のメルとジェフは、この素晴らしい眺めを最大限に堪能できる家が欲しいと言っていたのですが、彼らは、この家が建つ崖に吹く非常に強い風と、きつい太陽放射にさらされる環境については、あまり考えてなかったようです。」と建築事務所のチームは振り返る。
家の建つ崖は、北の山から吹く風がトラムンタナ半島の中でも非常に強く、最大風速で180㎞/hもある。
「今回のプロジェクトは、厳しい環境でも素晴らしい景色と太陽の恩恵を十分に受けるためのアプローチが必要になりました。」
一見ばらばらに設置されたように見えるこれらのキューブだが、一日を通して差し込む陽の光や、過酷な環境にも十分に耐えうるシェルターとしての役割も加味して、各階にそれぞれ5つあるキューブの角度が緻密に計算されている。
低層階は、オープンスタイルのLDKエリアとなっており、リビング、キッチン、およびダイニングエリアはそれぞれ部屋の中央から突き出したキューブで区切られ、それがパーティション代わりとなっている。
キューブ部分を花弁とすると、花の中心に当たる部分に位置するリビングエリアは上下二層のキューブがつながり、2階までの吹き抜けとなっている。1階だけだと窓が設置できない家の崖側に位置し暗くなりがちな部分だが、2階に作られた大きな窓から入る光によって明るく開放感のあるスペースとなった。
また、キューブのひとつはパティオ(中庭)として使われ、風が強い日でもガラスに守られながら日向ぼっこができる。
きつい傾斜にありながら、1階部分の基礎は比較的大きくとることができた。このため崖側に玄関を設けることができ、5つのキューブを内部でつなげ、生活空間を広くオープンなスペースにすることができた。
中央のラウンジ部分には2階へ上がる階段が作られた。ダイニングエリアや二つ椅子が置かれた小さなエリアは海側に面した二つのキューブに、またテレビルームやキッチンは家の両脇のキューブに収まっている。
「それぞれのキューブである部屋から見える景色は少しずつ異なり、様々な角度や位置から美しい地中海の海を楽しむことができるのが、この家の特徴です。まるで額で囲った少しずつ違う絵を楽しむようにね。」とは建築事務所の言葉。
2階に5個あるキューブは、それぞれ3つのダブルベッドルーム、2つのバスルーム、そしてひとつのゲストルームに分かれており、ガラス張りのドアからは屋上のバルコニーに出ることができる。
外観から見るとそれぞれのキューブに分かれているように見える家だが、内部はつながり、ひとつの大きな空間を持つ。家の中央からは微妙な角度の違いで視界が広がり、景色を広く見渡すことができる。
屋内と屋外ともにシンプルな材料が選ばれた。内部は、コンクリートの床と壁面は白色で塗られ、外側壁はざらつきのある質感の白レンダリングで塗られている。窓は超高層ビルなどに使用される大型の窓が採用された。この窓は強風や塩水にも耐性のあるもので、この過酷な環境に最適だった。
建築家たちの工夫と柔軟な発想で、メルとジェフの生活はさぞかし快適なものになったことだろう。