大麦畑で自分を“整える”。マヨルカ島の高床ルーム「Grooming Retreat」
原生林と野生のオリーブの木に囲まれた一面の大麦畑のなかに、現代アートのインスタレーションのような不思議な建物が佇む。
鳥の巣のようないくつもの細い木材の上には、白い繭(まゆ)のようなお椀型のスペースが。このすぐにも壊れそうな高床式の建造物は、一人で自分を“整える”ための休息所としてデザインされたという。
猫や犬などの毛皮をまとった動物たちが自ら毛づくろい(セルフグルーミング)をするのは、心を落ち着かせるためという目的もあるのだという。そのことにちなみ、「Grooming Retreat」と名付けられたこのプロジェクトは、家族の農場を引き継ぐために都会から戻ってきた、若い女性研究者のために設計された。クライアントは、人間にも動物と同じように、セルフグルーミングを行って心が落ち着く場所を望んでいたという。
マヨルカ島南部サンタニーにある「Grooming Retreat」は、スペインの女性建築デザイナー、マリアナ・デ・デラス(Mariana de Delás)と、ノルウェー・オスロの建築スタジオ、ガートナーフグレン・アーキテクツ(Gartnerfuglen Arkitekter)によるコラボレーションプロジェクト。乗馬の前後に馬をグルーミングする儀式にインスピレーションを受けて、心と身体を“整える”ためのユニークなデザインが考えられた。
「Grooming Retreat」は、乗馬の到着から始まる。馬用の水タンクと飼いばおけのある場所で、最初に愛馬のグルーミングの儀式が行われる。
そして、平均台のような細く長い木板の小路を、地上のリズムを感じながらゆっくりと歩いていく。
3 x 3mのフットプリントの一人用グルーミングルームには、はしごを伝ってフロアのハッチを開いてアクセスする。「Grooming Retreat」では、馬のグルーミング、木の板でのウォーキング、はしご登り、人間のためのグルーミングが、一連の儀式としてセットになっているという。
地元の木材フレームで作られた構造の上には、半透明の白いネットフレームで囲まれた、繭(まゆ)のようなフローティングルームが。
内部には、ランドスケープを感じながら心を整えるアウターコーナーや、身体を整えるインナーコーナーが、障子のような薄いレイヤーでゆるやかに区分されている。ここで瞑想やストレッチなどを行い、早朝に顔を洗ったり、農作業のはじめや合間に朝食やランチをとる。
眠れない天候の良い夜には、フローティングルームにこもって、穏やかに一夜を過ごすこともできる。
「Grooming Retreat」のデザイナーのデ・デラスのドローイングは、まるでアートのような素晴らしい美的センスだといえるだろう。
「Grooming Retreat」の内向的で壊れやすい要塞は、現代の都市生活者の心を薄いベールで包みこむ。地中海のバレアレス諸島と、広大な大麦畑を一望するパノラマビューのプライベート空間は、日常生活のストレスから解放されて、人に自信を回復させてくれることだろう。
ウェルビーイングを、動物のセルフグルーミングから捉え直すというアプローチは、考えてみるとごく自然なことのようにも思えてくる。忙しい都市生活者は、心や身体の状態にもっと素直に耳を傾ける必要があるかもしれない。自分自身の状態をていねいに“整える”ことができれば、人に対しても自分に対しても、今より少し、優しくなれそうだ。
Via:
archdaily.com
(提供:#casa)