焦りや不安とサヨナラ。今を生きるヒントとしてのデジタル・ウェルビーイング

「夜なかなか寝付けない」「いつも疲れている」

日々の暮らしの中で感じる悩みや疲れ。その原因は、過去や未来に縛られる脳のクセにあるのかもしれない。

例えば、会社で大きなミスをしたとき。あなたは迷惑をかけた人に謝罪し、取引先や上司への説明を終え、事態は解決したとしよう。

ところが、あなたの脳はあなたのミスを終わらせない。夜ベッドに入ったとたん、「あのときこうすればよかったんだ」と過去の行動を悔んだり、「もう出世できないだろう」と未来を悲観したりし、終わりのない焦りや不安に駆られることになる。

結果、枕元のスマートフォンに手を伸ばし、インターネットを通して不安や焦りを解消しようとしてしまう。

「会社 ミス 落ち込む」「部下 ミス どう思う」といったキーワードで検索し、終わりのない不安と焦りの解決策を探すのは、つらい。

進化しすぎたデバイスと古代のままの脳

ここ十数年で一気に進化したデジタルデバイスやSNSは、脳の特性を知ったうえで、私たちの行動に大きな影響を与えている。

例えば、ユーチューブショートを数時間続けて見てしまったり、インスタグラムのハートマークの数を異常に気にしてしまったりするのは、脳の特性(次々と現れる新情報や、誰かに評価されることが好き)を利用した中毒とも呼べる現象。

対する人間の脳は、1万年前と同じ。脳の特性を利用した刺激をデバイス越しに受け取っても、その通りに動いてしまい、デバイスに影響されていることにも気づけない始末。

スウェーデンの脳科学者、アンデシュ・ハンセンは、私たちがデバイスに合わせるのではなく、デバイスが私たちに合わせるべきだと主張している。
数あるテック企業が、私たちの脳に合わせたデバイスを作るのを待つのも手だが、情報を受け取る側の私たちにもできることがあるはず。

例えば、デジタルデバイスの電源を切ってみる。デジタルデバイスと私たちの間に物理的な距離を置いてみる。

このような取り組みで目指す先にあるのが、デジタル・ウェルビーイングだ。

デジタル・ウェルビーイングを実現するマインドフルネス

デジタル・ウェルビーイングを実現するには、小さなことを習慣化させることが大切。なかでも、場所を選ばず、お金もかけずにできるマインドフルネス(瞑想)がおすすめ。

マインドフルネスとは、瞑想などを取り入れた脳の休息法のこと。マインドフルネスでは、未来や過去に触れず、今この瞬間に注目するのが特徴だ。

例えば、椅子に座ったとき。何も考えずに座るとき、その後にすべきこと(書く、読む、食べるなど)に気を取られていることがほとんど。

一方、マインドフルネスでは、椅子に座っていることに集中する。背筋が伸び、足の裏が地面についていて、息を吸ったり吐いたりしている感覚に浸かり、雑念を無くす。

このように、意図的に今を意識する習慣付けをすることで、過去や未来の不安や焦りに対応できる心をつくるのがマインドフルネスだ。
焦りや不安で自分の心がゆらぐ場面に遭遇したときに、マインドフルネスの習慣があれば、デジタルデバイスに手を伸ばす必要はない。

今に集中することで、焦りや不安などの雑念を減らし、平常心に戻る。マインドフルネスは、常にベストコンディションを保ち、デジタルデバイスと距離を置くのに最適な方法といえる。

小さな心の変化を暮らしに取り入れよう

デジタル・ウェルビーイングやマインドフルネスは、周囲の情報や人々とのかかわり方にも活かすことができる。デジタル・ウェルビーイングやマインドフルネスで得られる、他者との関わりに活きる視点を3つ紹介しよう。

①オープンな心
朝、窓を開けて心地よい風を浴びると気持ちがいいと感じたり、洗いたての布団のやわらかさに幸せを感じたりする心のこと。

自分の感情や感覚に気づきやすくなるため、快適な空間づくりや、趣味や生きがいを見つけるのに役立つ。

②判断しない
インスタグラムで、友だちが充実した1日を送ったという投稿を見たとき。自分の1日と比べて焦るのではなく、ありのままの事実として受け取ることができる。

彼女は彼女、自分は自分という線引きをすることで、焦りや不安に支配されることがなくなる。

③思いやり
ニュースサイトを読み続け、気が付けば2時間経ってしまっていたとき。自分を責め、恥じるのではなく、教訓として次に活かす余裕が生まれる。これはミスを犯した他者に対しても同じで、思いやりを持った対応ができるようになる。

デジタル・ウェルビーイングを通じて、心の平穏を取り戻す。そうすることで、自分の焦りや不安を解消するだけでなく、周囲へのポジティブな態度として現れてくるようになる。

わたしたちの暮らしがもっと豊かになるように、できることから始めていきたい。

参照元:アンデシュ・ハンセン.スマホ脳.新潮新書.2020-11-18(参照 2023-04-25)
Shaping Design.”How digital wellness is bringing mindfulness to design”.2020-11-18.https://www.editorx.com/shaping-design/article/digital-wellness(参照 2023-04-25)
digitalwellbeing.org.2022-04-08.“https://digitalwellbeing.org/seven-dimensions-of-digital-wellbeing/”(参照 2023-04-25)
Netflix.”監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影”.2020.https://www.netflix.com/title/81254224(参照 2023-04-25)



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デジタル・ウェルビーイングを通じて、心の平穏を取り戻す。そうすることで、自分の焦りや不安を解消するだけでなく、周囲へのポジティブな態度として現れてくるようになる。