【インタビュー】集中できる静かな空間 Phone Box開発者・VIDA牧原豊さん×YADOKARI

Phone Box by GRID

ホワイト、木目、グレーのシンプルなボックス。ひとり分のそのスペースは、ちょっと懐かしい公衆電話のボックスに似ています。それもそのはず、これは海外のビジネスシーンで広まりつつある”フォンブース(電話ボックス)”を、日本のオフィス環境にフィットするように改良したプロダクトなのです。

今回ご紹介するGRID「Phone Box」は、防音機能を兼ね備えた、定員1名の超スモールオフィスです。 新時代のオフィス家具をクリエイトする株式会社VIDAと、YADOKARIが共同開発しました。

Phone Box by GRID

固定のデスクに縛られず、コワーキングスペースやカフェ、自宅などのリモート環境で仕事をするワークスタイルは、特にコロナ禍において急激に広がりました。感染予防の面でも、また働き方の柔軟性という意味でも、場所に縛られない働きかたにはメリットがあります。

リモートワークが一般的になったからこそ、旅と仕事を両立する”ワーケーション”や、馴染みの場所を移動しながら暮らす”多拠点居住”などの、新たなライフスタイルが可能になりました。また、ライフステージにあわせて介護や育児をしながら働ける、人間らしい環境もリモートワークのおかげで整いつつあります。

Phone Box by GRID

しかしその反面、リモートオフィスに欠けているものも、明らかになったのではないでしょうか?

不足しているもののひとつが、プライバシーが守られた空間です。機密情報を交えたオンラインカンファレンスの内容が、漏洩してしまうことを防いだり、逆に周囲の雑音に惑わされずに集中したり……。安心して仕事に邁進できる静かな空間をつくることは、リモートワークでは、意外に難しいものです。

自宅やカフェ、コワーキングスペースでは空間に限度がありますから、1つのオンライン会議、1人のデスクワークのために個室を用意するのは難しい。そこで活躍するのが、このコンパクトな「Phone Box」というわけです。

「Phone Box」は、遮音シートに加えウレタンフォームを使用し、内外の音をシャットアウトする防音ブースです。最大で約35dbの騒音軽減機能があり、この中で行うオンラインの会議や面接、商談の内容が外部に漏れることはありません。最大約35dbの騒音軽減機能とは、例えばyoutubeを大音量で視聴しても、1mも離れれば聞こえなくなる程だそう。これほどの遮音性があれば会議の音が漏れないことはもちろん、逆に外部の騒音に集中力を乱されることもありません。「Phone Box」はまるで茶室のように、そこに入りさえすれば大切なやるべきこととしっかりと向き合える空間なのです。

Phone Box by GRID

もちろん、コロナ禍の感染防止ニーズに対応しています。ストリームモーター換気扇が装備され、常に空気を循環しています。素材は、除菌スプレーを使用した掃除が可能なうえに、内装はマジックテープの着脱式で、破損しても簡単に付け替えができます。

Phone Box by GRID

設置は簡単。プライベート環境が欲しい場所に「Phone Box」を置くだけ。リノベーション工事をするまでもなく、オフィスや自宅に導入することができます。しかも価格は、従来品の1/3である50万円以下(税抜)におさえました。注文すれば最短1週間の早さで、設置できるのも魅力。

Phone Box by GRID

共同開発・販売を行う YADOKARIのさわだいっせいによれば、このスピード感と手頃な価格は、「Phone Box」を開発するVIDAの企業努力の賜物だそう。

「実は大分前からYADOKARIでも、”家の中に置く小屋”を商品化することを考えていたんです。コロナ禍でニーズが高まるなか、既にアメリカで同種のブースがあることを知り、 YADOKARIで同種の商品を制作しようと試みました。とはいえ見積もりをとってみても、どうしても金額が膨らんでしまって、なかなか商品化に至らなかったのです。打開策を探していた頃に、VIDAの牧原さんから『Phone Box』の企画をうかがい、日本にタイニーハウスのカルチャーやプロダクトを根付かせてきたYADOKARIならではの知見や、ノウハウが活きると感じ、業務提携へとつながりました」(さわだ)

コラボレーションは思った以上の成果をあげました。VIDAと共同開発することで「Phone Box」を、現在のようにこなれた価格帯で、迅速に届けることができるようになったそうです。

Phone Box by GRID
バリエーションはシートタイプ、スタンディングタイプの2種。張り詰めたウレタンフォームに騒音を吸音させて遮音する仕組み。
  • 開発の背景

実は今回、YADOKARIと業務提携して「Phone Box」を、世に送り出した株式会社VIDAの牧原さんは、長年インテリア業界に携わる家具のプロフェッショナル。法人にオフィス家具を導入する際の、コンサルティングをする機会も多くあります。オフィス家具分野で培った長年のチームワークやノウハウがあるからこそ、「Phone Box」を安価でスピーディーに提供できるようになったといえます。

「ヨーロッパとかアメリカでは、いわゆる”電話ボックス”型防音ブースは、3年程前から出ていた商品でした。個人のデスクに縛られないオフィスの考え方は、海外の方が進んでいますから既に数年前にニーズが顕在化していたのですね。近年日本でもオフィスのフリーアドレス化が進むにしたがって、ニーズが高まってきました。

実は、日本でも既に海外版の同種の商品のライセンス販売をしている企業や、海外と同じような考え方で防音ブースを作っている企業はあります。しかし、非常に重厚な造りになり、日本のオフィス事情を考えるとサイズ感も少し大きすぎると思いました。特に搬入時に、欧米のものより20cmほど高さを低くしないと建物の入り口を通らない可能性があるんですね。

日本人は、欧米人ほど体も大きくないですし、オフィスの面積も総じて海外より狭い傾向にありますから。そして、なによりも従来品は金額が高くて、だいたいオプションなど合わせると150万円ぐらいからなのです。これでは日本では広まりにくいと考えました。

海外の事例のリサーチと、仕事で日本のオフィス環境を直に見る経験から、既存の商品とローカルな環境のギャップに気づき。サイズも金額も日本のオフィス環境にフィットした商品を作りたい。と、考えるようになりました。」(牧原さん

そこでまず牧原さんは、日本のどのオフィスにもフィットするサイズ感として、あえて今までの同様の商品よりも、高さを20cmほど低くしました。またスタイルにもこだわり、おしゃれなシェアオフィスにも馴染む木製の外観に。見た目と機能性に優れたオリジナルな「Phone Box」が誕生しました。

「木製にすることで、価格も押さえられましたし、デザイン面でもメリットがあります。スチール製だと、いかにもオフィス家具という雰囲気と、圧迫感がありますよね。今はオフィスだけでなくカフェや自宅でも仕事をする時代。『Phone Box』は、オフィス以外の場所に設置しても、違和感のないものにしたいと思いました。

もちろん木製であっても防音性はしっかりしています。遮音性の高いシートの上に、吸音性のあるウレタンフォームを重ねる布団貼りという手法で、吸音性を高めているので、最大で約35dbの騒音軽減機能を実現できるのです。

これだけの防音機能をつけて、しかも価格は50万円を切ろうというところが、特にこだわった部分ですね。」(牧原さん)

音声をシャットアウトすると集中力がアップすることは、実験でも証明されています。2007年に英グラスゴー・カレドニアン大学が行った実験では、40人の被験者を無音のグループと、環境音やテンポの早い曲や遅い曲といった数パターンのBGMを流したグループに分けて、学力テストをしてみたそうです。すると、圧倒的に無音のグループの成績が良かったとのこと。*
1. Gianna Cassidy, et al.“The effect of background music and background noise on the task performance of introverts and extraverts”(2007)

無音状態のブースは、オンラインでの会議や面接の通話以外でも、集中力が必要なデスクワークに役立ちそうですね。特にテレワークで自宅から仕事をしている場合、プライベートと仕事の切り分けに悩んでいる方もいるでしょう。そんな時、周囲の雑音を遮ってくれる「Phone Box」は、あなたのミニマルなホームオフィスになるはずです。

既にオフィスやコワーキングスペースで導入され活用されているこの商品。今後も、コワーキングスペースや、オフィスへの導入数を大幅に増やしていく予定です。

Phone Box by GRID

「YADOKARは、タイニーハウスを活用して、生活コストを削ぎ落とす提案をしていますよね。『Phone Box』を第一弾とする私たちのブランド、GRIDは同じ考え方をオフィスに反映させたものといえます。

GRIDは、碁盤の目のように並ぶマス目のひとつという意味で、家具ユニットの最小単位をイメージしています。時代の節目である今、オフィス環境も変化し、大きなオフィスを構えて家具を一括で導入するような時代ではなくなりました。

これからのオフィス家具には、グリッドを組み合わせるように、小さいパーツを組み合わせたり離したりできるフレキシビリティーが必要です。」(牧原さん)

Phone Box by GRID

確かに現代はコロナ禍の要因もあり、大企業も続々と自社オフィスを売却したりフロアを縮小したりしています。アフターコロナがどうなるかはまだ未知数ですが、今後もしばらく変化が続くことは想像に難くありません。グリッドが提案する、小さなパーツを組み合わせて仕事環境の変化に対応する家具は、まさに激動する現代のオフィス事情が求めているものです。

なかでもいちばんスペースを必要とする会議室を「Phone Box」にスイッチすることで、仕事環境の向上とスペースの効率化が両立できそうです。ビジネスにおける大切なプライバシーを守るために、また限られた仕事スペースを有効活用するために、この「Phone Box」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。

Phone Box by GRID