【インタビュー】人と人を結ぶシェアハウス、ユウトヴィレッジの長田昌之さんが目指す未来
東京都豊島区にあるユウトヴィレッジ南長崎は、「みんなでつくるシェアハウス」をコンセプトにした、DIYリノベーション型シェアハウス。
ユウトヴィレッジでは入居者やDIYに興味があるサポーターが、古民家のリノベーションを行ない、入居前から壁の漆喰塗りや床張りなどに参加することができます。また、シェアハウスとしてだけではなく、カルチャースクールやイベントも数多く開催されており、これからさらに人が集まるコミュニティへと成長が期待されています。
今回はユウトヴィレッジの仕掛け人である株式会社ユウト代表取締役の長田昌之さんにインタビューを行ないました。
みんなでつくるシェアハウス
ユウトヴィレッジ南長崎が建つのは、池袋から電車で約3分、豊島区南長崎にある椎名町から徒歩5分ほどです。この町は都心にあるにも関わらず、落ち着いた古き良き雰囲気を残しています。
長田さんは、ハウスメーカーに勤務後、マンション管理支援事業をしているITベンチャー企業でマンションのコミュニティ形成支援サービスを立ち上げ、その後、株式会社ユウトを立ち上げました。
「ハウスメーカー時代にお客さんとともに家づくりをしたように、賃貸に住むお客さんとも一緒に住まいをつくりあげたい」そんな思いを持たれていた時に、長田さんの祖父母の家が取り壊される話が持ち上がりました。
そこで、その家を入居者とプロの大工さん、そして多くのサポーターとともにリノベーションしてシェアハウスにしたのが、ユウトヴィレッジ南長崎です。こちらは2014年末に完成し、現在は二棟目となるユウトヴィレッジ品川宿が完成目前です。
カルチャースクールもみんなでつくる
ユウトヴィレッジでは、生け花や書道、ヨガ、料理やお菓子づくりなどのカルチャースクールの他、ジャズやボサノバなどのライブも行なわれています。
カルチャースクールでは、色々な得意分野を持った仲間が先生となって教えています。先生として活躍されているのは、将来独立志望の方から、第一線で活躍しているプロまで幅広く、そこではプロ・セミプロ・アマチュアが交流できる場になっています。
長田さんはこう言います。
長田昌之さん(以下、敬称略)「始めるきっかけがいっぱいある方がいい。趣味でやっている方だけでなくプロとも接点があることは、参加者にとって理想的なバランスだと思います。カルチャースクールやイベントに参加するうちに、“自分ができる事を楽しくやっている人がいる!!” と刺激を受けるんです。それで、『自分にも出来るかもしれない、やってみたい!』と思う人がどんどん増えてきています。」
ユウトファミリーはクリエイター揃い
── ユウトヴィレッジに入居しているのはどのような方々ですか?
長田「入居者は、居住エリアに私を含めて3人、オフィスエリアに2人います。居住エリアの1人はダンサー、もう1人はカメラマン、オフィスエリアにはそれぞれ独立した建築家2人が事務所として使っています。みんな、集まって何かを作ったり表現したりすることが好きですね。建築家の1人はこの建物の改修設計を担当してくれ、カメラマンは竣工写真(工事完了後の写真)を撮ってくれました。そして、ちょうど今はスイスから友人が一週間遊びに来ていますよ。」
── みなさんクリエイティブな方々なんですね。サポーターにはどんな方々が多いですか?
長田「サポーターも『自分達の手で作りたい』という、ものづくりに興味を持っている方が多いです。将来自分でリノベーションを行うために壁塗りや床張りに参加してくれる方や、建築学科の学生も参加してくれています。最近は庭にあるウッドデッキをみんなで作りました。」
豊かな暮らしのキーワード、「住食健美(じゅうしょくけんび)」とは?
── この「住食健美」というのは何ですか?
長田「これは、ここに関わってくれている人達(「ユウトファミリー」と呼んでいます)が大切にしている考え方で、住まい・食事・健康・美容のそれぞれの頭文字をとって命名しました。ちなみにこの文字は書道の先生が書いてくれたものです。
衣食住は必要最低限なくてはならないもの、住食健美は、それがあったらさらに生活を豊かにするものと考えています。住・食・健・美の他、音楽やアートなどに関わる事を専門的に勉強したり取り組んでいる人が集まって活動をすると、豊かな生活になっていくと思っています。このキーワードに沿ったカルチャー教室の体験会を約4年前から続けています。
“自分ができることを起点に、横に繋がるのが好きな人” それがユウトファミリーです。例えば、ミュージシャンだけどたまには生け花の考え方を学びたいなとか、ヨガを教えてくれたお返しにピアノを教えるなど、自分達で作って、表現して、共有して、補完し合う、というのが僕たちが目指している所です。」
人と人の繋がり
ヴィレッジの仲間との出会い
── ユウトヴィレッジではカルチャースクールの先生以外にも、農家さんや漁師さんとも繋がっているとのことですが、そういった方々とはどのように知り合ったのですか?
長田「今一緒にやっている仲間は、学生時代や今までの会社での繋がりなど、もともとの友達や友達の紹介が多いです。周りにたまたま何かできる人が多かったので今ユウトヴィレッジのような活動ができています。友人にはすごく助けられていて感謝しています。」
長田「漁師さんはハウスメーカー時代に家を作ったのがきっかけで繋がりました。一年の半分以上は海にいるのですが、ユウトヴィレッジでパーティーがある時には、各地の港から新鮮な魚を送ってくれます。」
長田「農家さんは友人が紹介してくれました。みんなで千葉に農作業を手伝いに行ったり、野菜を頂いてきてユウトヴィレッジのパーティーで出したりしています。」
学生時代から人と人を繋げる場作りに才能を発揮
長田さんは大学生時代にサークルを立ち上げたのですが、その時から人と人を結ぶ力を発揮していました。
長田「大学生の時、『一つの大学の普通の学生とだけ一緒にいるのはつまらない。大学の近くにある料理・音楽・美容の専門学校などの面白い能力を持った学生を集めたグループにしよう!』と、パーティーやイベントをするサークルを友人とともに立ち上げました。」
── いろんな仲間を集め、どんなイベントをされていたんですか?
長田「みんなができる特技を持ち寄ったイベントをしていました。クラブを借りて、音楽学校の学生は演奏やダンスパフォーマンスをして、製菓学校の学生はお菓子を提供し、美容学校の学生はお客さんにヘアメイクをしたり。今思えばユウトヴィレッジはその活動の延長なのかもしれません。当時はみんな学生でしたが、今ではプロの料理人、ミュージシャン、アーティストになっているので、いろんな分野での繋がりが多いんです。」
始めてみて分かったことと、まわりの変化
── ユウトヴィレッジを始めてから変化したことはありますか?
長田「ここは祖父母の家なので小学生の時たまに遊びに来たくらいで、古い町だなとしか思ってなくて、あまり興味がありませんでした。ここで活動するかどうか悩んだ時期もありましたが、ユウトヴィレッジプロジェクトをやろう!と改めて町を見直してみたら、結構面白いものがあって。接点がなかった近所の方達にも、工事の進捗やユウトヴィレッジの完成をお知らせしているうちに知り合いになり、個性豊かな人がたくさんいることに気づきました。」
── 地元に魅力的な方々がいるんですね!
長田「そうですね、ここの真裏には自宅を改装したバーがあったり、歩いて2分のところに内装デザイナーがいて一緒に活動するようになったり、地元に古くからある会社の3代目の方がいたり、活動を始めて発信するようになってから、もともと地元に住んでいたけれど接点がなかった人との繋がりができて、この町は面白いな、と思うようになりました。
祖母や母はこの家を壊す予定でしたが、壊していたら今の仲間との繋がりもなかった。そう考えると、やって良かったなと思います。」
── ユウトヴィレッジができて、地域の方には何か変化がありましたか?
長田「活動し始めてまだあまり時間が経っていないですが、ここの3軒隣に住んでいる、昔小学校の校長をされていた女性が『年寄りばっかのこの町に、若い人がいっぱい来てくれて嬉しい』と言ってくれました。そういう方がいてくれるのが、とても嬉しいです。」
── 関わってくださる入居者やサポーターは、どのように変化されていますか?
長田「カメラマンの友人の部屋は、棚を作ったりして、さらにオシャレになりましたね。もともと作ることが好きな友人ですが、リノベーションから一緒にやってきて、『こうやったら作れるんだ』と知って、できることが広がったと思います。」
── 「自分たちでつくる」を実践されているんですね。その後はどうなりましたか?
長田「もともと、『好きなようにしていいよ』と言われて空っぽの部屋を渡されても、できない人が多いと思うんです。それが一緒にリノベーションすることで『できるかもしれない』とか『こうすればいいんだ』っていう想いをみんなそれぞれ持ちはじめる。ユウトヴィレッジの家づくりに関してやりたいことはまさにこれなんです。“今までできないと思っていたけど、こうすればできる” という気持ちの変化がある。それが大切だと思っています。」
── 今まで大工さんに任せっきりだったものが、自分達も積極的に参加することで変化していくんですね。
長田「これはハウスメーカー時代から思っていたことなんですが、注文住宅で家を建てても、完成して入居するまで、どんな家になるのか実際に分からない人が多いんです。ユウトヴィレッジでリノベーションをした時に自分達も現場に入って家の内部や壁の裏側を見たり、大工さんの作業風景を生で見て一緒にやってみると『こうやって作られているんだ。大工さんてすごいんだな。』ということが分かります。」
とにかく全部が大変だった
── それでは、やってみて簡単だったことや、大変だったことはありますか?
長田「簡単だったことはないですね。とにかく全部が大変です。お金の面では予想していた融資や補助金が下りなかったり、銀行からも借りられなくてすごく苦労しました。作業面では工事が思うように進まなかったですね。家づくりに関してはハウスメーカー時代も知っているつもりではいたけれど、それはただの『つもり』で、実際の施工作業は知らないことばかりでした。
他にも、作業してくれる人の日程調整や分担が大変で、しっかり作業をしなければいけないけれど、みんなには来て楽しんでほしいし。そこは大工さんたちがこちらにすごく合わせてくれて、とても助かりました。」
── 実際にやってみたからこそ分かる、生の声ですね。
長田「今はDIYやリノベーションが流行っていて、『楽しい、簡単、安くできる』と思う方もいると思います。ですが、実際全然そんなことはありません。素人がやると量が分からなくて材料がすごく余ったり、道具も一から買い揃えなければいけなかったり、プロの大工さんに比べて余計なコストがかかり、かえって高くなることが多いんです。
なので、まったく簡単なことではない、けれど『やりたい』や『できる』という気持ちは大事です。その上でプロの大工さんなどに作業を教えてもらって、正しい知識で行なうことが大切だと思います。」
今ユウトヴィレッジで起きている変化
── そうしてみんなで作り上げたユウトヴィレッジで、今、ある変化が起きているそうですね。
長田「今すごく、住んでいる人や関わっている人同士のコラボレーションが起きています。生け花の先生が生けた花を、カメラマンが撮って作品にしたり、僕が椎名町の歌を作曲してミュージシャンの友人が歌い、デザイナーがジャケットを作ろうなんていう話も出て、すごく盛り上がっています。
クリエイターがまわりにとても多く、『私はこれをやってみたい!』とか、『オレは実はプロのギタリストなんだ!』という人が現れたり、「みんなでつくるシェアハウス」だからこそ、みんなに新しい繋がりが広がっているのではないでしょうか。」
ユウトヴィレッジ、今後の展開は?
”欧米の田舎町” が日本中に広がってほしい
── 長田さんが活動の中で目指しているビジョンなどはありますか?
長田「目指すイメージは “欧米の田舎町” です。小さいエリアに豊かな食材があって、身近に音楽やアートなどの文化があって、それを若い人もおじいさんもおばあさんも、みんなで共有・共感している。エリアのみんながそこでの「暮らし」を大切にし、良い状態で続けていこうとがんばっている。僕は、学生時代から世界中のいろんな国を旅して各地での暮らしを体験してきましたが、そういう暮らしができている町をすごく羨ましいと思っていました。
先日、スイスから遊びに来た友人をここの真裏にあるバーに連れていったんです。バーのマスターはすごく話好きな面白いオヤジなんですが、友人は『やっぱり近くにこういう場があるのが一番だよ』と言ってくれたんです。そうやって椎名町に来た人が、『こんな生活したいな』と感じてもらえる場所を目指しています。日本にはまだまだ少ないけれど、日本中でそんな町が増えていったらいいなと思います。」
── 町ごとに人がまとまって活気が生まれる……とてもいいですね。長田さんがユウトヴィレッジでこれからやっていきたいことは何ですか?
長田「今までも農家ツアーやカルチャー教室をやってきましたが、オフィス部屋やシェアハウス、外国のゲストも泊まれるゲストルームなど、フリースペースのような場所にしたいと思っています。
他には、先日近所のいろんな仕事をしている仲間を集めて、この町でやりたいことを発表しあうプレゼン大会をしたんです。ここから椎名町を盛り上げる場にもしていきたいですね。」
ユウトからユートピアへ
長田「ユウトヴィレッジの『ユウト』は、実は、人と人を結びたいという想いを込めて名付けました。漢字で書くと『結人』です。そして、この活動を続けていけば、いずれ『ユートピア(理想郷)』になるだろうという想いが、この名前に込められています。
「住食健美」の考え方で、豊かな暮らしをつくることに取り組んでいる人が集まり、互いのスキルや考え方を共有する。各地でそのエリアに住む人たちがこのようなアクションを起こしていき、その活動が全国各地でぽつぽつと起こってくれば、日本はさらに豊かになるんじゃないかなと思っています。なので、1人でいろんな町に広げていくというよりは、まずはこの豊島区南長崎と2軒目となる品川宿でユウトヴィレッジの活動を続けていきたいと思っています。」
── 各地で想いを同じくする色々な町ができると、日本が面白く変わっていきそうですね。
長田「僕は、『自分達の町を盛り上げる人』が今後の日本を盛り上げていくのだと思っています。なぜならその町も日本の一部だから。身近でやるというのが、一番大事な事だと思っています。ユウトヴィレッジは『みんなでつくるシェアハウス』がコンセプトですが、家を作って終わりじゃないんです。『暮らしをつくっていく』。これからも豊かな暮らしをつくるということを、ここで継続していきたいと思います。」
長田「僕はもともと、ものづくりが好きなのですが、ものづくりに、『誰がどのような想いで関わっているか』を見たいんです。今食べた野菜も、料理も、聞いている音楽も、世の中に見えているものが、誰がどういう想いで作ったかをちゃんと理解して楽しめて、それをみんなで共有しているのがユートピアの一つの形かなと思っています。可視化するとみんな繋がっていく、それはすごくいい暮らし方だと思います。今それがどんどん形になってきているなと感じています。」
長田さんが考える、これからの日本の豊かさ
── 長田さんはこれからの日本の豊かな暮らしについてどう考えていますか?
長田「『地域の人々が有機的に繋がっている』ということでしょうか。近所のバーなら、飲んで眠くなったら1分で帰ってこれるし、仲間を遊びに誘う時でも、『今から来る?』って聞くと『行く!』って自転車で来るし、農家さんから届いた野菜もすぐにおすそ分けしに行けます。
また、例えば災害が起こった時に助け合うなど、近くなければできないことですね。遠くの人はすぐに助けてあげられない。なので、そういう意味でも、地域で関わっていくことはすごく大事なことだと思います。」
長田「これだけ情報化社会になったので、地球の裏側にいても文字と映像の情報だけは届きます。でも『近い』というメリットはそれ以上のものがいっぱいあると思います。今は全世界どこでも情報だけは伝達できるので、『近い』という有難みが、これからもっと浮き彫りになっていくんじゃないかなと思います。」
(インタビューここまで)
町づくりや場づくりについて熱い想いを伝えてくださった長田昌之さん。現代は便利な生活になったからこそ、住んでいる地域の人や身の回りにある物との距離が離れてしまったのかもしれません。まずは近所や身近なところから繋がり直してみると、ユウトヴィレッジのように新しい世界が広がっていくのではないかと感じました。
(文=山崎ななえ)
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今回取材させていただいたのは
ユウトヴィレッジ南長崎
東京都豊島区南長崎2-22-16