【インタビュー】空き家問題に光明!? 空き家を無償でリノベして、賃貸物件に変える「カリアゲ」とは(後編)
空き家をリノベーションとして賃貸住宅として貸し出すサービス「カリアゲ」がスタートした。第1号は、築50年で基礎はボロボロ、法律上は再建築不可という難易度の高い物件。
このような難物にあえて挑んだ福井さんには、どのような思いがあったのだろう。
築古物件も、リノベ次第で魅力を引き出せる
下目黒のカリアゲ物件は新築より手間がかかった、と言う福井さん。そんな大変な代物を第一弾として手がけたのはなぜだろう。
「立地がよかったから、きちんと手を入れれば確実に借り手はつく、と判断したのが第一。でもまずは、なるべく難易度高めの物件を手がけたいという思いもありました。
たとえば古着は、かつてはただの『お古』でしたが、僕が中学、高校の頃から急におしゃれなものとして流行り始めました。きちんとクリーニングされたコンディションのよい品を扱う店が増えたことが背景にあると思います。
中古車も昔は敬遠されていましたが、利用者が増えてきたのは、メンテナンスの技術が上がり、メーカー側でもパーツを用意してくれているから、ということが大きいですよね。
そういう状況があったから、古いものを敬遠しなくなり、一定の市場ができたんだと思います。
建物も、既存の状態では本当に賃貸できるのかと不安に思うような物件でも、ちゃんと直せるということが周知されれば、もっと中古の流通が増えるんじゃないかと思いまして。
だから自分でやるんだったらなるべく難易度の高い物件を手がけて生まれ変わらせ、『こんな築古住宅でもなんとかなるんですよ』と伝えたかったんです。」
空き家というと地方の問題という印象が強く、実際、「空き家バンク」など早くから空き家対策に取り組む自治体は地方に多い。
だが実は東京のほうが状況は深刻ではないか、と福井さんはいう。
「47都道府県で比較すると、東京は比率で見れば低いほうですが、戸数にするとダントツで多い。80何万個です。
空き家は、倒壊の危険があるだけでなく、放火やゴミの不法投棄など治安や環境を脅かす存在になりかねません。特に住宅密集地では、周辺地域に与える影響がとても大きい。
だから東京の空き家問題は待ったなしの状態。本腰を入れて取り組むべきだと感じています。」
実際、個人宅なんてあるの? というような都心のオフィス街にも空き家が潜んでいるという。
「空き家になっても少しずつ直しながら貸していれば、多少メンテナンスコストはかかるにしても、比較的容易に入居者は見つかるでしょう。
でも一度空き家にして放置してしまうと、特に木造の建物は思いのほか痛んでしまいます。いざ賃貸に出そうと思った時、たぶん予想以上に修繕費の見積もりが高く出てしまい、躊躇してしまうオーナーさんが多いのではないでしょうか。」
折しも取材時は、放置されて危険・有害になってしまう空き家を自治体が強制撤去できるようになる「空き家対策特別法」が施行されたばかりのタイミング。民間の会社が手がける空き家対策ということでカリアゲも報道番組で取り上げられ、カリアゲに関する問い合わせが急増していた。
「問い合わせが増えたとはいえ、さすがに僕だけでは80万室の空き家問題を解消というわけにはいかないですよね(笑)。別の会社にもっと参入してほしいと思っています」
当たり前の選択肢のひとつとして、空き家を捉える
「空き家率が上がったり空き家件数が増えていくのは、今の人口減少下においてやむをえないことです。
一方、新築をこれ以上増やすな、と言いたいわけではないんです。それを選ぶ人がいる限り、その選択肢をつぶすことはない。僕も新築が嫌いな訳じゃないし。
ただ、これまであまりにも新築一辺倒で、古いものがどんどん放置されて残っている。それでいいのか?という思いはあります。だから、中古のリノベーションや、中古の流通が活発化するように作っていかないといけないし、そうありたいとは思います。
それを改善していくというか、ある程度ゆるやかにしていく手段として、こういう仕組みがあるといいのかな、と思っています。」
「ユーザーの常識を覆したいとまでは思っていない」と福井さんは言う。それでもリノベーションが一般的になり、「ヴィンテージマンション」「古民家再生」等々のキーワードを見聞きするようになった今、潮目が変わりつつあるのを感じる。
新しいものを作っては消費するサイクルの限界はとうに見えているのだから、カリアゲのような試みはぜひ増えてほしいし、利用したい。
こうした事情抜きにしても、瀕死の状態だった家が見事によみがえる様子は、単純にワクワクする。そんな光景がたくさん見られるようになれば、きっと楽しい。
株式会社ルーヴィスの今後の活躍に期待したい。