【取材】みんなで作って使う庭「コミュニティガーデン」に学ぶ、庭づくり、町づくり
“コミュニティガーデン”は1970年代にニューヨークで始まった運動です。
コミュニティガーデンは、分かりやすく言えば「地域の庭」。地域住民が管理する公園・農園・庭の機能を持つ場所を指します。
未来住まい方会議では、イェンス・イェンセンさんの運営するコミュニティガーデン「コロニーヘーヴ」をご紹介し、庭を使ったコミュニティの作り方をお伝えしました。 ⇒ 【対談】自由で幸せな国。北欧の豊かな暮らしを日常に。イェンス・イェンセンさん×YADOKARI
元々、コミュニティガーデンは、不法投棄などにより地域に悪影響を与えている空き地を借り受け、市民で管理する庭を造りはじめたことが運動のきっかけです。今では全米で数千カ所が存在し、地域コミュニティの中心として親しまれています。
日本ではまだ珍しい存在ですが、豊島区の南長崎に「みんなで作ってみんなで使う」をテーマにした”地域の庭”が作られました。
「みんなでつくるシェアハウス」の庭
コミュニティガーデンが作られた場所は、以前未来住まい方会議でもご紹介したシェアハウス「ユウトヴィレッジ南長崎」の一角。「みんなでつくるシェアハウス」をコンセプトに、古い民家をリノベーションしてシェアハウスとして運営しています。
■ユウトヴィレッジの取材記事はこちら ⇒ 【インタビュー】人と人を結ぶシェアハウス、ユウトヴィレッジの長田昌之さんが目指す未来
このリノベーションに参加していたのが、今回ユウトヴィレッジのコミュニティガーデンを手がけた、グリーンライフプロデューサーの吉田美帆さんです。
SUNIHA UNIHAのコミュニティガーデン
吉田美帆さんは、庭の設計や、植物をテーマにしたワークショップを行う企業「SUNIHA UNIHA」の代表として活動しています。
以前からコミュニティガーデンに興味を持っていた吉田さんは、今年から「SUNIHA UNIHA」のコミュニティガーデンプロジェクトを立ち上げました。
SUNIHA UNIHAでは、「庭づくり」「庭そだて」を自分たちで行うだけでなく、庭でハーブを育て地域のシェフを呼び「庭産庭消」を目指すなど、庭が地域コミュニティの中心になるような仕掛けを盛り込んでいます。
その仕掛けは5つ
1.庭づくり:植栽、ウッドデッキやフェンスなど、とにかくみんなでDIY
2.庭そだて:庭を作って終わりではなく、みんなで植物を育てます
3.庭産庭消:育てたハーブや野菜を収穫して、自分たちで美味しく頂きます
4.地域シェフとの連携:地域のカフェやレストランシェフを呼んでのBBQパーティーなど、地域の人達との連携でコミュニティをより豊かに
5.植物にまつわるワークショップの開催:料理教室やフラワーアレンジなど、植物をもっと身近に、植物の効果・効能をとりいれるワークショップを開催
どの過程でも庭と植物が中心になり、人と人が繋がることを目的にしています。
そのプロジェクトの第一弾が、今回ご紹介するコミュニティ–ガーデンです。
この庭は、「ご近所さんが集まる場所を作りたい」という、ユウトヴィレッジオーナー・長田さんの要望から生まれ、BBQコンロとウッドテラスを備え、リビングと一続きになった”アウトドアリビング”として設計されました。
それでは、「みんなで作る庭」ができるまでを見てみましょう。
地域の庭をつくるのは、昔ながらの住宅街
取材に向かった南長崎の町は、生け垣のある一軒家や、築50年を超える古いアポートが多く建つ、昔ながらの住宅街です。
その一角にあるユウトヴィレッジは、細い路地の奥にある一軒屋。コミュニティガーデンの施工は、家のリノベーションと同じく、有志のメンバーによって行われます。
今回作られるのは、以下の3つ。
・ウッドデッキ
・ウッドフェンス
・バーチカルベジガーデン
1回目の作業日はプロの大工さん2名を含む、総勢10名で行われました。
今回、デッキやフェンスに使われる木材は、ハードウッドと呼ばれる硬質の木材を使用しています。
屋内用の木材に比べ、加工がしづらく、価格も高いハードウッドですが、メンテナンスを行えば屋外でも10年以上使用できる素材です。
この日の作業は快晴の中で始まり、途中で通り雨に降られるトラブルもありましたが、デッキとフェンスの基礎工事・塗装が完成しました。
デッキは木材の根元が腐るのを防ぐため、コンクリートブロックの基礎を設置しています。
続く2回目の作業に集まったメンバーは、ユウトヴィレッジオーナーの長田さん、長田さんの友人のスポーツトレーナー小田さんと、吉田さんの友人で庭師のカイさん、吉田さんの4名。未来住まい方会議の編集部も作業に参加させていただきました。
庭のフェンスは、意外と簡単!?なヴィンテージ塗装で
この日の作業はデッキ部フェンスの塗装作業。ヴィンテージ塗装を施し、年月を経た古材の風合いを生み出します。
この塗装方法は、DIYをする時に便利な小技のひとつ。単にペンキを塗るより、独特の雰囲気を持つ外観に仕上がります。
取材時に目にしたのは、緑色の市松模様に塗られた木材です、一体どのように使うのでしょうか?
まずは木材に、青いペンキを塗り、緑と青色の市松模様に塗り上げます。
少しの間乾かして、次はその上に白いペンキを塗っていきます。白いペンキがまだ乾かないうちに、乾いた布で拭いてあげると……。
白いペンキの下に緑と青の色がうっすらと見え、年月を経て、表面が擦れたようになりました。
元々塗装されていた市松模様は、この風合いをつくるためのものだったようです。
加工のポイントは2つで
・白いペンキを拭き取りすぎないこと
・下地の塗装が見えてしまうので、強い力で拭き取らないこと
塗装された古材を見て参考にすると、より近い風合いにすることができます。
施工の技術や知識は、手を動かしながら現場で学んでいかないと分かりづらいことがあります。
経験が浅いことは、失敗も多く、ひとりでやるのは大変。けれど、みんなでやればどうでしょう?失敗も成功も共有でき、仲間意識が芽生えれば、その過程も楽しいものになります。
リノベーションや小屋づくりはハードルが高いけれど、フェンスやデッキづくりならばハードルが低そうです。DIY入門としてみんなで始めてみれば、理想の住まいを手に入れる良いきっかけになるかもしれません。
参加者がペンキを塗っている間に、ウッドデッキの制作も進んでいました。
こちらを担当するのは工務店の大工さん達。リノベーションにも参加した頼れる仲間だそうです。
みんなでつくれば、愛着が持てる
コミュニティガーデンの施工に参加するのは、施工の経験がほとんど無い人達ばかり。シェアハウスのリノベーションに関わった人達も同様に施工の経験は人によってまばらで、未経験者も多かったそうです。
施工のプロが監修してくれましたが、施工現場では試行錯誤が多く、多くの失敗を繰り返しながらリノベーションが進んでいったと聞きます。
プロに頼めば早く、きれいにできるのに、なぜ長田さんはこのようなやり方を選んだのでしょうか?ユウトヴィレッジのオーナー、長田さんはこう話します。
長田昌之さん 「人が集まる場所って、その場所に愛着を持てるかどうかが大事だと思うんです。完成後に『この床は自分が作ったんだ』『この壁は自分が塗ったんだ』と思えるとその場所に愛着が湧きますよね?そうしたら友達や親しい人を連れてきたくなります。
場所を作った人が人を呼び、新たなコミュニティができる。僕はそう思っているんです。」
コミュニティガーデンも、みんなで作ってみんなで管理するもの。
植物は、水や肥料をあげたり、雑草を取ったりと、日々の手入れが欠かせないもの。植物の手入れは、その場所に向かう理由になり、集まった人がコミュニケーションをするきっかけになります。
庭がコミュニティを育む
後日取材に向かうと、ウッドデッキとフェンス が完成していました。
デッキにはオーナーの長田さんの要望通りBBQコンロ付き。完成した直後には、ガーデンでBBQをしながら友人や近隣の人を集め、交流会を行いました。
ガーデンを設計した吉田さんはこう話します。
吉田美帆さん 「ユウトヴィレッジの周りに住む方には、この土地に何十年も前から住み続けてきた、お爺さんお婆さんも多いそうです。一方、シェアハウスに住むのは若く、肩書きも様々な人達です。
通常、異なる年齢やバックグラウンドを持つ人達が仲良くなるのは難しいことですが、共通の楽しみがあれば結びつきを作ることができます。このガーデンをきっかけに様々な人達が結びつき、交流することになってくれると嬉しいです。」
今回のコミュニティガーデンを手がけたSUNIHA UNIHAは、神奈川県のシェアハウスで次のプロジェクトを進める予定です。
暮らしは自身が住まう家だけではなく、ご近所に住まう人、お店など、地域との関係のうえに成り立っています。自分の暮らしを豊かにする中で、ご近所とのお付き合いは切っても切れないことかもしれません。
“地域の庭”は今後どのように町を変えていくのでしょうか、これからも目が離せません。
取材協力:
ユウトヴィレッジ
SUNIHA UNIHA