【インタビュー・後編】あったらいいなを、カタチにする。松本のブックカフェ栞日(しおりび)オーナー菊地さんに聞く「暮らしたい街に、お店を持つ」こと

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長野県松本市の大通り沿いにある、ブックカフェ栞日(しおりび)。丁寧にドリップされたコーヒーとともに、店主がセレクトしたリトルプレス(小規模出版物)をメインに楽しめる、くつろぎの空間だ。

インタビュー前編では、オーナーの菊地徹さんに、お店をオープンされるまでのエピソードをお話いただいた。後編では、お店のオープンに漕ぎつけるまでの続きと、毎年夏に開催されるALPS BOOK CAMPについてうかがう。

前編はこちら ⇒【インタビュー・前編】本×コーヒーの極上空間 松本のブックカフェ栞日(しおりび)オーナー菊地さんに聞く「暮らしたい街に、お店を持つ」こと

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菊地徹さん プロフィール

ブックカフェ栞日(しおりび)オーナー。1986年静岡県生まれ。筑波大学在学中、スターバックスでのアルバイトをきっかけにサービス業を志す。卒業後、松本市の温泉旅館への就職を機に長野県へ移住する。その後軽井沢のベーカリー勤務を経て、2013年8月長野県松本市にブックカフェ栞日をオープン。

本屋や出版社を経験することなくブックカフェをオープン

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柔らかな日差しが差し込んでくる4階は、一日中のんびりしたくなるスペース

前編でお話いただいたとおり、菊地さんは「暮らしたい街」である長野県松本市に、自分のお店を持つことを決めた。さまざまなジャンルのお店がある中で、どうしてブックカフェを開くことにしたのだろうか。

「松本に新しくお店を構えるとしたら、何屋さんがいいかな?と考えました。喫茶店は割とたくさんあるので、物販が良いのではと思い、そこから自然な流れで本屋という選択肢が浮かびました」

とはいえ、松本には新書を扱う本屋さんはいくつかあり、古本屋さんもぱっと名前が思いつくだけで5・6軒はあったという。「ただ、街の中にある本屋の多様性に欠けているなと感じていました。そこで、自分の棚卸をしたら、リトルプレスや雑誌が好きだったことに改めて気づいたのです。これだけ文化的感度の高い街で、リトルプレスを紹介できていないのは非常にもったいない。その流れで、個人出版物を中心に扱う新刊書店を開こう、と決めました」

その思いを、当時勤めていた軽井沢のベーカリーのオーナーに伝えたところ、「今すぐに始めなさい」と背中を押してくれた。しかし、菊地さんはブックカフェを開くのであれば、本屋や出版社で1度経験を積んだ方が良いのではと考えていたという。

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お店の扉をあけると漂ってくる、コーヒーの香り

「オーナーには、松本で1番最初にやるからこそ面白いのだから、準備うんぬんより、とにかくやったほうが良いとアドバイスをいただきました。両親にもお店を持ちたいことを報告したら、スタートアップの応援をしてくれて。結果的にそのままお店を開くことになったのです」

周囲の後押しもあり、松本でブックカフェをオープンする場所を探しはじめた菊地さん。もともとは、大通り沿いよりも1本中に入った、ワンフロアの物件を想定していたが、結果的には縁あって大通り沿いにある4階建てのビルを丸々借りることに。松本がより面白い街になるために、ブックカフェという立場で街を盛り上げていきたいという思いはあるが、もし何らかの事情ができた場合に、自由に動ける立場でいたいという考えもあって、あえて賃貸を選んだという。

「僕は今まで住む場所を転々と変えてきたのもあり、ハコモノであれ土地であれ、不動産に縛られたくないという思いがあり、賃貸がちょうど良かった。好きにできる賃貸を見つけるのはなかなか大変ですが、ここは現状復帰の必要がないので、プロの方に自由に改装してもらっています」

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踊り場に並ぶチラシやショップカードも立派なインテリアだ

満足いく物件も見つかり、お店のオープンにこぎつけた菊地さんだが、本屋や出版社で働いた経験がないことで、苦労したことはなかったのだろうか。

「独立して自分のお店を持ったら、あとはもう基本的にやるだけです。始める前は、こうなったらどうしよう?という不安はたくさんありました。ただ、動き出してしまえば、先のことを心配する前に、目の前のことをこなしていくのみですから」と菊地さんは言う。「ビギナーズラックかもしれないけど、結果として困ったことはあまりないですね。それは僕が扱う本が、リトルプレスをメインにしてるからということもあると思います。制作者の方と直接取引をするので、見た目は本屋ですが、イメージとしてはセレクトショップに近いかもしれない。そういう意味では、スターバックスやベーカリーで学んだことが、すごく活きているんです」

菊地さんのお話をうかがっていると、夢を実現することとは、自分が「やるかやらないか」ということだと感じる。インタビュー当日、来店したお客さんが将来について迷っているという話を聞いた菊地さんが「かっこいいほうを選ぼう」とアドバイスしていたのも印象的だった。

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北アルプスの麓で本とキャンプが融合したら、とても素敵な空間がうまれた

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栞日から車を北に1時間ほど走らせたところにある、長野県大町市の木崎湖の湖畔では、北アルプスの雄大な眺めを望むことができる。真夏にもかかわらず、実にさわやかな風が吹くこの場所で開催されたのは、ALPS BOOK CAMP。県内外の個性的な本屋のほか、雑貨屋や飲食店などが集まり、音楽やアートとともにブースを彩る。

このイベントを主催するのが、何を隠そう栞日の菊地さんだ。2016年の夏に3回めの開催を迎えるALPS BOOK CAMPは、早くも北アルプス山麓の夏の風物詩となっている。菊地さんはどんな思いでこの素敵なイベントを企画したのだろうか。

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©ALPS BOOK CAMP

「松本でブックカフェをオープンすることにした当初から、お店という枠に収まらない何かも合わせてやりたいという思いがありました。そこで、本のイベントを開催しようと思ったのです。僕は特にイベントを主催した経験などはありませんでしたが、とにかく個人的にやりたくて、本屋仲間に声をかけたんです」

本のイベントを開催しようと思ったのは「長野県にはこれといった大きな本のイベントがなかったから」だそう。「本はカルチャーのアイコンになりやすいので、街おこしの一環で開催しているところも結構あるんです。当時は時間があったので、全国の本のイベントを見て回りました」

菊地さんは「この場所にあったらいいな」と思うものを、とにかくカタチにしていく。そこには、経験があるかどうかは全く関係がない。お店であれイベントであれ、綿密に練られた計画を遂行する力に長けているのは間違いないが、内に秘めた熱い思いを行動に移し、周りを巻き込んでいくのは、まさに菊地さんの人柄が成せる技だ。

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©ALPS BOOK CAMP

長野といえばアルプス。どうせならキャンプ場でイベントを開催したいと思ったそう。「片っ端からキャンプ場にコンタクトをとり、縁あって木崎湖キャンプ場から良いお返事をいただきました」

「やるからには、後に続く他のイベントが真似できないような、独自のコンセプト・コンテンツにしようと思った」と菊地さんが話すとおり、ALPS BOOK CAMPは唯一無二な雰囲気を醸し出している。真夏なのに爽やかすぎるロケーション、穏やかに揺らぐ水面、キャンドルの灯りがともる夜のキャンプサイト。そんな空気のなか、まるで宝探しのように本を見つくろうのを、今年も多くの人が楽しみにしている。

今後の展望について菊地さんは「海外展開も少し考えている」と話してくれた。実は4月から1カ月間、栞日は台湾にPop Up Shopを展開しているのだ。

菊地さんの「あったらいいなをカタチにする」は、想像以上にスピーディーだ。今後はどのような「ワクワク」を菊地さんは届けてくれるのだろうか?ますます目が離せない。[/protected]