【インタビュー】ナガオカケンメイさん①|暮らしの“真っ当”を未来へと引き継ぐD&DEPARTMENTの挑戦

東京都世田谷区奥沢にあるD&DEPARTMENT PROJECT第1号店。約300坪の広々とした店内には家具、生活雑貨を始めとした幅広いラインナップが揃う。1階にはカフェも。ナガオカさんがスタッフと商品検討会をするのもこの場所。

デザイナーのナガオカケンメイさんは、2000年に「ロングライフデザイン」をテーマとするストアスタイルの活動体として、東京の奥沢にD&DEPARTMENTの1号店を構えた。

まだ“新しさ”にこそ価値があると思われていた時代に、ナガオカさんが提案された「ロングライフデザイン」というコンセプトは、衝撃的だった。私たちはナガオカさんが発信するライフスタイルを体感するために、ちょっと背伸びをする気分で奥沢に通ったものだ。

創業から16年。D&DEPARTMENTは進化を続け、現在はパートナー店も含めると国内外12店舗に拡大をしている。

私たちYADOKARIは、2012年からウェブメディア『未来住まい方会議』を通じてスモールハウスの提案を行っている。家というハードをミニマライズするということは、生活を再編集すること。では、生活に必要なソフトは何かと考えたとき、「ロングライフデザイン」というコンセプトに学ぶところは大きい。

D&DEPARTMENTの根底にある「ロングライフデザイン」。その受容のされ方は、2000年当時と現在で、どのように変化したのだろうか。また、次々と挑戦的な試みを続けるナガオカさんが考える、未来の暮らし方とは……? 奥沢のD&DEPARTMENT1号店で、お話をうかがった。

インタビュー①:暮らしの“真っ当”を未来へと引き継ぐD&DEPARTMENTの挑戦
インタビュー②:未来の利益は、きっとお金ではない
インタビュー③:仕事、生活、旅を同時進行する、拠点としての家
インタビュー④:もしも日本各地に、スモールハウスで村を作ったら

ナガオカケンメイ
デザイン活動家・1965年北海道室蘭生まれ2000年、東京世田谷に、ロングライフデザインをテーマとしたストア「D&DEPARTMENT」を開始。2002年より「60VISION」(ロクマルビジョン)を発案し、60年代の廃番商品をリ・ブランディングするプロジェクトを進行中。2003年度グッドデザイン賞川崎和男審査委員長特別賞を受賞。日本のデザインを正しく購入できるストアインフラをイメージした「NIPPON PROJECT」を47都道府県に展開中。2009年より旅行文化誌『d design travel』を刊行。日本初の47都道府県をテーマとしたデザインミュージアム「d47 MUSEUM」館長。

店頭に出すのは、作り手の愛情が確認できたものだけ

右から ナガオカケンメイさん、副社長でプロデューサーの松添みつこさん

——D&DEPARTMENTでプレゼンテーションされる商品の多くは、老舗の定番家具だったり、業務用の日用品だったり、身のまわりに古くからあるもの。しかし、お店で改めて出合うと、その普遍的な格好良さに胸を打たれます。一体どんな基準で、優れた商品をセレクトされているのでしょうか。

ナガオカケンメイ氏(以下ナガオカ):それぞれの担当者がセレクトした商品を持ち寄り、月に一度、僕も含めた担当者が集まる「商品会」という場で、ふるいにかけます。そこで良いと思っても、実際に取り扱うかどうかを決めるのは、半年ぐらいその商品を使ってみた後。ボロボロになってきたり、スイッチなどの部品が壊れてきたりしないかどうかチェックします。そして生産者やメーカーに会って、壊れたところのメンテナンスの体制などをうかがい、商品に対する愛情を確認してはじめて、D&DEPARTMENTで取り扱うのです。

——とても厳しい選考基準ですね。

ナガオカ:そういった過程があってこそ、売り手として、買い手に向き合うことができます。たとえば、商品のどこかが壊れた場合、新品と交換ということになったら、きっとD&DEPARTMENTのお客さんはがっかりするでしょう。商品を使い込む過程で醸成された味わいが、新品と交換されることで、無になってしまう。昔は新品と交換されれば、誰もが喜んだのでしょうが、今は違う。面白いですよね。

真っ当なことをやり続け、ダメなら潔く解散する

約300坪の店内には、ロングライフデザインの家具、生活雑貨、書籍やCDなどユーズドも含めた幅広い商品が揃う。

——最近の消費者の、物に愛着を持って長く使おうとする姿勢は、ナガオカさんの活動に育まれてきた面があると思います。16年にわたってD&DEPARTMENTの活動を続けてきたなかで、どのようなことを、感じていらっしゃいますか。

ナガオカ:作り手の思いを伝えながら、しかも定価で商品を販売していくことは、なかなか大変です。正直なことをいえば、D&DEPARTMENTで扱っている商品は、通信販売なら安く買えるものがほとんど。それを定価で、こういった場所で、何人ものスタッフを使って売っているのだから、何十年やっても黒字にならない(笑)。

——それが、素晴らしいことですよね。価値のあるものを、相応しい値段で売ることが、商品を保護することにもなります。実はYADOKARIのスモールハウス事業も、儲かるものではないのですが、誰かがそれをやることが必要だと信じています。自分の信じることをやり続ける姿勢も、私たちがナガオカさんから学びたいところです。

ナガオカ:僕らも自信を持ってやっています。だから毎年年頭に言っていることは、「僕らは真っ当なことをしているのだから、もしそれで潰れたら、『日本はこんなレベルだったね』と言って、潔く解散しよう」ということ。もがいても、ろくなことにはならない。

——もがくことをしない、というのは社会に迎合しないということでしょうか。

ナガオカ:真っ当でないことはしない、ということです。何とかならないものを何とかしようともがくと、余計なことをするようになってしまう。販売促進という名の、衝動買いをさせる努力といった方向に行ってしまうでしょう。


一般的に商売は、欲望をどんどん刺激し、新しいものを買わせることで利益を得る。しかしナガオカさんは大量消費のマインドを刺激することを良しとしないのだ。長く続くものを尊び、必要のないものは買わせない。なぜなら、それが真っ当なことだと考えているからだ。

その真っ当さは、金銭的な利益を増大することにはつながらないかもしれない。では、なぜナガオカさんとD&DEPARTMENTの社員たちは、信じたことをやり続けることができるのだろう。きっとそこには、お金に換算できないものがあるからではないだろうか。

次回はナガオカさんに「未来の利益のあり方」について、お話をうかがう。


インタビュー②:未来の利益は、きっとお金ではない