【インタビュー】ナガオカケンメイさん④|もしも日本各地に、スモールハウスで村を作ったら
D&DEPARTMENTの創始者であり、トラベル誌『d design travel』発行人も務めるなど、多彩な活動で知られるデザイナーのナガオカケンメイさんにお話をうかがうインタビュー企画の最終回。
YADOKARIがプロデュースするスモールハウスについてお話したところ、じつは以前ナガオカさんもスモールハウスを使った宿泊施設を構想したことがあったという。
小さな家が可能にする、機動力に優れたな未来の生活とは? そこに住まう人々の生活をどうサポートする? すぐにでも実現したいアイデアが飛び出した。
インタビュー①:暮らしの“真っ当”を未来へと引き継ぐD&DEPARTMENTの挑戦
インタビュー②:未来の利益は、きっとお金ではない
インタビュー③:仕事、生活、旅を同時進行する、拠点としての家
インタビュー④:もしも日本各地に、スモールハウスで村を作ったら
いつもと同じ環境を、違う土地に用意する
——ナガオカさんは、トラベル誌『d design travel』で、各都道府県の魅力を発信されています。それは旅するように仕事し、暮らす、ナガオカさんのライフスタイルとも密接に結びついているようです。
ナガオカケンメイ氏(以下ナガオカ):47都道府県、均等に魅力がある。トラベル誌を作っていると、よく人気がない県は薄っぺらになって、東京は分厚くなるのでは? と言われるのですけど、そんなことはありません。ただ地元の人が気づいていないだけで、どの地域も面白い。それを掘り起こしつつ、「東京だけが面白いわけじゃないぜ」と言いたいのです。僕は今3拠点に住まいがありますけど、できたら47箇所に拠点を持ちたいぐらいです。
——YADOKARIがスモールハウスを作るときも、モビリティをとても大切にしています。なぜかといえば土地に縛られたくないという気持ちがあるからです。これから仕事はどこに居てもできる時代になるはず。ならば多様な選択肢のなかから、その人に一番フィットした居場所を見つけて欲しい。スモールハウスがそのためのツールになればと。
ナガオカ:同感です。僕が館長をしているヒカリエのミュージアム「d47 MUSEUM」も、「どこに住んでも、どこで生活しても良いのだ」と言いたいがために、魅力的な物産などを、そのつど視点を変えて見せています。小屋に関していえば、沖縄のある自治体に、小屋を50棟買って、それを市内のあちこちに置いて、地域全体をホテルにすることを提案したことがありますよ。建築家の中村好文さんが2013年にやった「小屋においでよ!」という展覧会に感銘を受け、彼とコラボレーションしようと思ったんですね。その構想はまだ実現していませんが、そういったことをスモールハウスで全国展開するのは面白いかもしれない。
——中村好文さんの試みには、YADOKARIも非常に影響を受けています。実は僕らも、スモールハウスを使って各地に宿泊施設をつくる「ビレッジ構想」を持っているのです。
ナガオカ:たとえば家族構成や用途別に、ヤドカリA、ヤドカリB、ヤドカリC、ヤドカリDという、タイプの違う小屋がある。Bタイプなら、年間30万円払うと全国に複数箇所にある、Bタイプに泊まり放題。そんなシステムがあればいいですね。今は旅をするとき、いろいろと雰囲気の違うホテルに泊まるけれど、そうではなく、部屋は同じで、いろいろな風景に泊まる。
——場所の提案に、スモールハウスが付いてくる感じですね。
ナガオカ:僕みたいな性格の人間は、さまざまな部屋に泊まりたいのではなくて、その土地に暮らしたいだけ。だから環境は変わってほしくないんです。ヤドカリBと決まったら、部屋の調度品や間取りは同じで、多様な土地を体験できるというシステムがいいですね。同じ住環境が提供される安心感と、その土地への期待をセットにする。そういうものを求める人は増えていくと思います。
もしもスモールハウスで、村を作ったら
ナガオカ:ところで、ビレッジ構想は仕事とセットになっていないのですか。
——そこは移動しながら生活してもらうための、課題ですね。YADOKARIのウェブメディア『未来住まい方会議』の読者からも、土地に縛られたくはないけれど仕事がネックになるという声をよく聞きます。
ナガオカ:その小屋に住むと、仕事が付いてくるプランがあるといいですよね。たとえば秋田県の収穫の時期、田んぼの横にヤドカリBの小屋があって、ガチで働くけど、その風景を堪能できる。そして、ある時期が終わったら次の仕事に行く。どちらかというと、仕事が中心になって移動するという、スタイルがあってもよいと思うのです。
——YADOKARIもチャレンジはしていて、3,000人ぐらいいるオンライン上のコミュニティで、私たちのプロジェクトをご一緒する建築士さんやライターさんを募ったりしています。コミュニティで仕事をまわしていくシステムが将来発展して、地域の仕事をつなげる役割を果たすことができれば良いと思っているのですけど、まだまだ実験段階です。
ナガオカ:栃木県の益子に「ヒジノワ」という、ボロボロの民家を改装したキッチン付きのシェアハウスがあります。そこは東京の人がマネジメントして、料理人の借り手を募集し、スケジュールを組んでいるんです。ある日はコーヒー焙煎屋さんだと思ったら、次の日はカレー屋さんになっている。包丁一本で日本中を巡っている料理人の人々をブッキングして、地元の食材を使った料理を出すのです。益子の焼き物祭りがあるとき以外は閑散としている場所が、そこだけいつも活気づいている。料理の他にも展示やイベントなどもあって、それを目当てに県外から来る人もいるし、地元の人も「ヒジノワ」で次に何があるのか、どんな料理が食べられるのかを楽しみにしています。
——ハードが小屋だという面白味だけでは、場所は盛り上がらないですよね。どういうソフトを提供するのかを考えるべき時期に、私たちもさしかかっています。この12月からYADOKARIは「BETTARA STAND 日本橋」という場を持つことになって、飲食とイベントをやっていくのですが、次の段階はそれを地方にももっていくことを考えているのです。「ヒジノワ」さんのやっていることは、とても参考になります。
ナガオカ:仕事があって、場所があって、観光がある。僕らはそういうことに興味がありながら、移動することには踏み込めていないのが課題でもあるのです。売り物を紹介、販売していますが、一箇所の場所でじっとして待つというスタイルを変えていかなければと思っています。移動するD&DEPARTMENTですね。
ナガオカさんは今年の春に、47都道府県のご当地ものコンビニ「d mart 47」を企画した。ナガオカさんによれば、シャッター商店街などに、“小さなD&DEPARTMENT”として「d mart 47」を持ち込む構想があったのだそう。「d mart 47」は、機動性を高めるために店舗をミニマライズする実験だったのだ。
実はYADOKARIは、密かに「d mart 47」と自分たちのスモールハウスでコラボレーションできないかと妄想していたのだが、お話をうかがい、その思いがさらに高まった。
私たちがまだ学生だった2000年に、ナガオカさんは「ロングライフデザイン」という新しい旗を立て、現在もなお、人々の先を走り続けている。柔らかでありながら、ぶれない軸と反骨精神を感じるナガオカさんの言葉に、共鳴し、奮い立たされる時間だった。