【インタビュー】花は、部屋も心も整えてくれる。リース作家 跡部明美さん。

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『未来住まい方会議』では、住環境を建築や立地条件といった切り口から掘り下げてきた。今回は少し視点を変え、部屋のインテリアや家事について思いを巡らせたい。

小さい家で、ゆったりと暮らすために欠かせないのが、空間に花や緑を取り入れることと、住環境をすっきりと整えること。そこで、忙しくてもできる花のある暮らし方と、草花が映える空間をつくるコツを、北海道在住のリース作家、跡部明美さんにうかがった。

跡部明美
1967年、北海道生まれ。主婦。リースデザイナー。札幌市在住。夫と息子2人、愛犬1匹の5人家族。息子2人の成人とともに、本格的にリースブランド「a Un pas(アンパス)」の活動を開始。季節の花々を使ったリースや小物の制作、各種小売店や合同展示会などへの出展も行う。 オフィシャルサイト a Un pas / 書籍「ちいさなしあわせを積み重ねて

リースのある暮らしは、毎日を“まあるく”する

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プリザーブドフラワーの花びらはとても薄い、レースのような繊細な質感

インテリアに有機的な表情を与え、居心地のよさを演出してくれる、花や緑。でも植物を生活の場に取り入れるのは、案外難しいもの。インテリアのコーディネートに悩んだり、忙しくて鉢植えの手入れができず、枯らせてしまったり……。

——生活に植物をうまく取り入れるには、どうしたらよいのでしょうか?

跡部明美さん(以下跡部):私は、主に生花に特殊な加工をして色や形を保存する、プリザーブドフラワーでリースを作っています。生の花は時とともに表情が変わっていって、そういった経過を見るのも好きなのですが、飾っておける時間が短いですよね。プリザーブドフラワーなら、ずっと側に置いておくことができますからね。

——花が枯れずに、美しい色が続くのは嬉しいです!

跡部:嬉しいですよね。その反面、プリザーブドフラワーはとても繊細で、壊れやすい面もあります。ですから、扱うときは丁寧に。私も、作っているときは集中して、とても大切に扱っています。いつもは大雑把な性格なので、ちょっと違った自分になれる時間です。

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プリザーブドフラワーのアレンジメントは、花びらを壊さないように、そっと、丁寧に

——跡部さんのリースは、シックな色合いのものが多いですね。こういった色合いや質感、そもそもリースという表現を選ばれたのは、なぜでしょう。

跡部:インテリアや洋服にもいえるのですが、私はシンプルな色合いのものが好きなんです。リースを選んだのは、昔から“まあるい”ものが大好きだから。リースは丸いですよね。束になったスワッグなども作りますが、“まあるい”のが一番しっくりくる形なんでしょうね。

——まるい形って優しいですよね。家のなかに丸いリースがあると、安心できそうです。

跡部:家のなかを、ほっとできる場所に整えたいという気持ちは、常にあります。思えば、私が子どもの頃、両親が飲食店を経営していた関係で、夜は弟と2人きりだったんです。家の空間を安心できるものにしたい気持ちは、その頃に育まれていたのかもしれません。

繊細な跡部さんのリースは、大きな花束のように主張することはない。日々のふとした瞬間に、目をやってほっとしたくなるような、さりげない優しさにあふれている。それは子どもの頃にはご兄弟を、大人になってからは母として、妻として、家のなかを守ってきた跡部さんの人生が、リースづくりにも表れているからかもしれない。

飾ることと片付けることは、つながっている

棚のなかが、きちんと整理されていると嬉しい。身に付けているのは、鎌倉のパターン・レーベル『TOWN(タウン)』と共同開発したオリジナル・エプロン。
棚のなかが、きちんと整理されていると嬉しい。身に付けているのは、鎌倉のパターン・レーベル『TOWN(タウン)』と共同開発したオリジナル・エプロン。

——お花は、それを飾る部屋の環境も大切ですよね。

跡部:個人的には、あまり物がたくさんあるところよりも、何もない空間のほうが落ち着きます。外に出たらさまざまな色や、素敵なものがいっぱい目に入ってきますよね。だから、家のインテリアは、すっきりとしている方が好きなんです。そこに差し色として、お花を加えるイメージです。

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インテリアはスッキリと。さり気なく置かれた白樺の籠とスワッグが温もりを感じさせる

——差し色が映えるには、シンプルな背景が必要。跡部さんの書籍の中では、ご自宅にある引き出し、棚、クローゼット、キッチンなど、様々な場所がとても丁寧に片付けられている様子が拝見できます。跡部さんにとって、片付けるということは、どういう意味を持つのでしょうか?

跡部:花を飾ることと片付けることは、私のなかではつながっています。たとえば引き出しを開けたとき、きれいに物が入っていたら嬉しいですよね。色を揃えて洋服を仕舞ったり、好きなテイストの籠で棚を片付けたりするのは、ある意味、部屋を飾ることでもあると考えています。

——確かに、物を増やすことよりも整えることのほうが、部屋を美しく見せます。そこにお花で彩りをプラスする生活空間……素敵ですね。忙しかったり、子どもがいたりすると、なかなか整理整頓が難しいのが悩みどころですが。

跡部:私も、ずっと外で働いてきましたし、男の子をふたり育ててきたので、その気持ちはとてもよく分かりますよ。夫が転勤族で引っ越しが多くあった点でも、快適な空間をつくるのには、工夫が必要でした。今になってお片付けや、お花の仕事をしているのは、忙しいなかでも、心地よい空間で家族みんながホッとできるときを過ごしたいと願った暮らしのイメージを、形にしているのかもしれないですね。

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家事は、人生のなかで醸成された暮らしのイメージを形にする仕事

非常に若々しく見える跡部さんは、実はもうすぐ50代になるという。喜怒哀楽、さまざまな感情に彩られた日々の積み重ねのなかで、育まれた美意識や技術が、リースを形作っている。

花が映える、すっきりとした部屋のつくり方

——跡部さんの著書『ちいさなしあわせを積み重ねて』を拝読すると、リース以外にも、整理整頓や食、ファッションなど、日々を幸せにする提案が散りばめられています。今回は、草花が似合う空間づくりについて、教えいただきたいです。

跡部:花を飾るのに、背伸びをする必要はないんです。以前の私は、夫の転勤のために、仮住まいが続いていました。その頃、めまぐるしく引っ越しが続く環境のため、多く物を持たないように心がけながらも、居心地よく暮らそうとして、随分と花に助けられました。慌ただしくて心に余裕がないときでも、公園に咲いている花を子どもと一緒に摘んできて飾るような、ちょっとした楽しみに心が安らぎました。

——まずは気軽に、ということですね。

跡部:そうなんです。スーパーマーケットのお花屋さんで、手頃なお花が一輪売っていたりしますよね。そういうものを食材と一緒に買ってきて、ビンにちょこんと挿すだけでもよいと思いますよ。

——それなら、忙しい人にもチャレンジできそうです。一方で、せっかく花を買ったなら、きれいな部屋に飾りたいもの。先ほど、「花を飾ることは片付けることに通じている」と言われましたが、跡部さん流の整理整頓のポイントを、教えてください。

跡部:はい。常に心がけていることは3つあります。

  • 必要以上に物を持たないこと
  • 物に居場所を与えること
  • 物を床に置かないこと

つまりは、お掃除しやすいお部屋をつくることです(笑)

床のスペースが広ければお掃除も簡単。愛用の掃除機「マキタ」は充電式で手軽に使えるうえにパワーも充分なので、小掃除ならサッと終わらせられる
床のスペースが広ければお掃除も簡単。愛用の掃除機「マキタ」は充電式で手軽に使えるうえにパワーも充分なので、小掃除ならサッと終わらせられる

——ミニマルな環境をつくっていれば、維持しやすい。大事な基本ですね。

跡部:物に支配されると、不器用な私は気持ちが複雑になってしまう気がします。でも、シンプルに過ごしていると、自分の本来の姿が見えてくる。好きなものが分かり、今必要なモノもはっきりとしてくるんです。そういった暮らし、環境づくりは、何か始めようとするときにも、フットワークの軽い自分になれるような気がします。

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お気に入りだけを持つと、収納にもまとまりがある
人生の今の時期だから似合う服を、少しだけ持って、心地良く暮らす。
人生の今の時期だから似合う服を、少しだけ持って、心地良く暮らす。
大半がベーシックな服だからこそ、差し色が映える
大半がベーシックな服だからこそ、差し色が映える

——跡部さんがリース作家としてデビューしたのが50歳目前。新しい波にふわりと乗られたようにお見受けしますが、それも身軽な生き方が身についていたからなのでしょうか。

跡部:多くのことを並行してできない性格なので、持ち物だけでなく、生活のあり方もシンプルに、そのときそのとき、今できることを、すこし先だけ想像して暮らしてきました。その中で、お花の仕事をしていたことが、リースづくりにつながったり、お菓子屋さんに勤めていたことが、作品の販路につながったりして、そのひとつひとつがとても幸せなかたちでつながってくれていることを幸せに感じています。人との出会いに感謝ですね。


近年、ミニマルでシンプルな生活を大切にする人が増えている。それは、外からは物に対するトレンドのように取り上げられることも多いが、実は生き方そのものなのだ。

跡部さんがミニマルな生活の質を高められたのは、パートナーの転勤という要素も大きかったそうだが、自分が大切にするべきことを絞り込み、しっかりと慈しんできたことが、結果的に人生の次のステップへと彼女を導いていった。

日常のなかに花を飾ることは、暮らしに必要なものを見極め、生活を整えるきっかけとなる。ささやかで大切なことに目を凝らすために、まずは一輪の花を飾ることから、始めてみてはどうだろうか。

跡部明美さんの考える、未来の場所・お金・時間
場所:夫の転勤でさまざまな場所に引っ越しをしていたので、家を整えることはとても大切でした。生活していれば、大人だけでなく子どもだって、疲れることや傷つくことがあります。そんなとき、せめて家のなかは、ほっとする場所であって欲しいと考えていました。

お金:結婚後は引っ越しも多く、働きながら子育てをして、本当に忙しい人生でした。札幌市に居を構えてからは、念願の庭も持ったのですが、手入れをする時間がなく、せっかく植えた薔薇たちにも、「手入れできなくてごめんね。強く育ってね」といつも謝っていました(今では逞しく育って、毎年花を咲かせていますが)。子どもたちが成人し、夫の転勤生活も落ち着いた現在は、ようやく庭とも向き合えるようになりました。なかでも、リースの制作は、とても静かで集中できる、貴重な時間です。

時間:結婚後は引っ越しも多く、働きながら子育てをして、本当に忙しい人生でした。札幌市に居を構えてからは、念願の庭も持ったのですが、手入れをする時間がなく、せっかく植えた薔薇たちにも、「手入れできなくてごめんね。強く育ってね」といつも謝っていました(今では逞しく育って、毎年花を咲かせていますが)。子どもたちが成人し、夫の転勤生活も落ち着いた現在は、ようやく庭とも向き合えるようになりました。なかでも、リースの制作は、とても静かで集中できる、貴重な時間です。