Life is beautiful – まちでの出会いが循環する、小商い暮らしという考え方。

今回は、横浜市弘明寺で小商暮らしをしながら夫婦で設計デザインに取り組む、神永侑子さんを訪ねました。

他者との繋がりの中で感じた好奇心

――現在の暮らしについて、軸になっているものがあれば教えてください。

侑子:いくつか軸はあるのですが、月1回から場所を借りて誰でも出店ができるシェア店舗「アキナイガーデン」を構えて商い暮らしをスタートさせたことは今の暮らしの中で大切な部分になっています。

――シェア店舗を運営しながら同じビルの3階でご自身も住んでいらっしゃるというなかなか珍しい暮らしの形だと思うのですが、そこに至るまでにどのような経緯や原体験があったのでしょうか?

侑子:元々シェアハウスに住んでいた時期があり、その体験は人生の中で大きなターニングポイントになっています。

例えばワイン好きな人が住んでいたことで、今まで全然知らなかったワインを自分も好きになるみたいに、趣味や興味の共有ができたり、そこに小さな社会性が存在するのがとても面白く感じていました。

――そもそもシェアハウスに住もうと思ったきっかけはどのようなものだったのですか?

侑子:シェアハウスにはポジティブな気持ちで入りました。元々一人で家にいるのが苦手なタイプで、すぐ不安になります。(笑) 誰とも接点を持たない状況が続くと、社会の中で自分の役割が分からなくなる気がしていて。
わたし自身が、代わりのきかない個性である「わたし」であれるのは、人や社会との関係性があるからこそだと思っています。

――誰かと住むこと自体ストレスもなく、居心地としてもコミュニケーションがあることで、不安な要素があまり引き付けられないようになっていたのですね。

侑子:そうですね。家でもシェアハウスでもそうですが、一人でいても誰かの存在感があることで孤独を感じなくて、それが私にとっては安心感になっていました。

街での出会いを循環させるための店舗付き住宅

夫婦で運営するシェア小商スペース「アキナイガーデン」

侑子:商い暮らしを始めようと決めたときも、自分の生活を住居で完結させるのではなく、他者との暮らしの中で起こる偶然性や刺激を取り込んで共有することで、小さい経済を含めた循環的なつながりが生まれたら面白いなと思ったのが最初のきっかけです。

梅ちゃん(ご主人)と二人暮らしを始めるときも「ちょっと変わった暮らしをやってみたいね」とは話していました。そんな中、商い暮らし不動産という店舗付き住居の物件だけを扱っている不動産サイトを知り、興味を持ったのがきかっけで本格的に調べ始めました。

旦那さまの「梅ちゃん」

――この場所はすぐに見つかったのですか?

侑子:当初は、いわゆる”住み開き”に近い感覚で、自分の家をちょっと開くぐらいの計画をしていたのですが、店舗を借りようと思うと初期費用が高かったり、見つけた!と思った物件がスケルトンで改修費が高すぎて、迷っているうちに違う事業者に借りられてしまったりと、実現までには2年ほどかかりました。

周りにも商い暮らしがしたいと公言していた中、前職(設計事務所)同僚で、現在も同じマンションに住んでいる塩脇くんがビルのオーナーの不動産会社と繋いでくれたことが、アキナイガーデンがこの場所に誕生するきっかけになりました。

――実際に始めてみて感じたことなどはありますか?

侑子:小商いは、例えば”建築家”という肩書きに関係なく、趣味や興味をきっかけにコミュニケーションが発生します。面白いのは、大人になってから仕事仲間以外に新しい友人が増えてなかったのですが、商い暮らしを始めてから圧倒的に出会いやつながりが増えたことです。例えば居酒屋のカウンター席に座って隣の人と楽しく話していたら、実はどこかの社長さんだった!みたいな出会いって、プライベート側から始まる、フラットで居心地の良いつながりだなと思います。アキナイガーデンはそんな機会に出会える場所かもしれません。
プライベートから互いを知り、仕事で協働することができたら、”はじめまして”からスタートする仕事と比較して、風通しの良い状態でクリエイティビティを発揮できそうですよね。

リラックスして冗談を言い合える人が身近に多くいるというのは、とても豊かで、以前より自分の性格も明るくなった気がします。(笑)

独りで完結するのではなく、誰かと物事を共有して生きることを選択してる訳ですが、後者において、一人ひとりの暮らしがどうやって重なり合い、循環型の関係性がつくられていくのかは、最近の自分の興味であり、シェアハウスで経た経験に近いものがあるのかなと思っています。

オープンにみんなが集まれる環境をつくりたい

――アキナイガーデンの場所の使い方もすごく素敵だなと思っているのですが、元々このような使い方を考えていたのですか?

侑子:そうですね。前段としてはいろんな人に自分の興味や趣味を共有できる場所を持ってもらいたかったのですが、棚貸しだと物がそこに置いてあるだけで、人と人のコミュニケーションはなかなか偶発的に起きにくいだろうなと思い、場所貸しで店舗に立ってもらう形になりました。

――2022年の夏に出産を経て、侑子さんの中でこれからの暮らしの開き方やライフスタイルは変わっていきそうですか?

侑子:この前子育て支援拠点に初めて行ったのですが、月齢の近い子どもとママがたくさんいて、今まで知らなかったコミュニティの世界がそこにありました。

一方で、子どもたちが自由に遊んでいる環境が、その場所に関しては外からどこにも見えない状態になっていることに違和感を覚えて、子どもに限らず、子どもはいないけど子育てに興味がある大人たちも、みんなが集まって暮らしの知恵を共有できるような、開かれた環境を作ってみたい気持ちが生まれました。

――子育て支援拠点で出会ったお母さんの中から侑子さんのこれから作るアキナイガーデンに出店する人が出てきたりするかもしれないですね。

侑子:商い暮らしもそうですが、私の活動の根底にあるのは、自分が楽しいと思えることを身の回りで共有して、関わり丸ごと豊かにしよう、ということです。
子育てが始まり、関わる人も変わるので、いわゆる“ママ友”がアキナイガーデンに出店してくれて、子育て以上の関係になれるとしたら、とても楽しみです。

私は建築の設計を主な仕事にしていますが、建築家だからこうあるべきだ、という考えはあまりなくて、自分の中にある建築というスキルももちろん生かして使いたいし、暮らしも開いてみたいし、社会を通して日常で生まれた好奇心や違和感は、できる限り何らかの形や行動にして実践していきたいなと思っています。

肩書きはいらない。個人で存在できる社会へ

――働き方や働くことへの思いがあれば教えてください。

侑子:当たり前ではありますが、組織でできることと個人でできることは良い意味で違っています。自分の思いをダイレクトに表現しやすいのはやはり個人単位の活動ですし、都市やエリアを動かすことに関わるような規模の大きさには、組織やチームで複数人で取り組み、異なる価値観が同居することで社会性を帯びるのではないかと。

働く時間は、生きる時間の大部分を占めますよね。例えばその時間を組織や会社に100%充てるとした場合、自分がやりたいことや思いが体現しきれず、「ほんとにこれで良いのか?」という疑問を持った経験があります。
そんな時、アキナイガーデンという個人で活動できる時間を持ち始めると、個人の意味や組織の意味も客観的に理解できるようになり、心のバランスも取りやすくなりました。

何かに属していると肩書きで見られることはもちろんあると思うのですが、それを取り払った個人の「わたし」として存在できていて、創造する価値を発揮できて、人生を歩んでいける状態になっているといいなと思っています。

――「働く」という言葉自体が侑子さんには似合わないかもしれないですね。

侑子:そうですね。生きる時間は有限で、みなさん働くために生きてる訳ではないと思います。日常の暮らしの延長線上にいろんな活動があるイメージです。

――アキナイガーデンを始めようと思ったのは入社してからどのぐらいのタイミングだったんですか?

侑子:入社7年目ぐらいだったと思います。新卒で入り、1、2年目はとにかくがむしゃらでした。プロジェクトをちゃんと動かせるようにならなきゃいけないなと思いながら3年目が始まり、後輩をひっぱる立場になりながら、自分も新しいことに挑戦したり、コンペに取り組んだり。当時設計を担当していた某大学の国際寮の現場が始まったのもその頃で、同時期にアキナイガーデンができました。

――会社に、モデルケースの先輩がいたんですか?

侑子:当時はいなかったと思います。なので一歩踏み出す時はドキドキしていて、社内の視線も結構気にしていました。今となっては、もっと堂々としていれば良かったよ、と当時の自分に伝えたいです。(笑)

――今の副業における働き方ってバランスを取らせてくれないことが多いですが、その中でそれを崩していく侑子さんの働き方はすごく未来があるし、社会としてもそういうことができる方がみんなにとって幸せですよね。

侑子:そうですね。ただ本業の仕事をしながらアキナイガーデンの活動も並行することは、余白の時間がうまく確保できないジレンマもありました。自由に個人活動をすることへの後ろめたさを感じてしまったり、自分自身の行動により慎重になった時期でもありました。

しばらくして、個人活動について自信を持って周りにも伝えていくようにしてからは、そうしたストレスは改善されたように思います。むしろ、個人活動を内に留めてしまうより、積極的に組織に共有した方が、ノウハウをフィードバックできて、組織が”個人”の集合である価値も享受できるのかもしれませんね。

YADOKARIのメンバーと。

――侑子さんのライフステージのタイミングも関係していますか?

侑子:振り返ると、大きく関係しています。社会人初めの3年程は個人での活動なんて考えてもみなかったし、仮に「自由に働いてください」と言われていたとしても、自分のコアスキルを社会に還元する視点を十分に持ち得ていなかったのではないかと思います。

一方で、贅沢なことではあるのですが、全然違うことをやってみたくなったのが7年ほど経った頃です。ライフステージという意味では結婚したことも大きく、二人三脚で”暮らし”に向き合う大きなきっかけになりました。

家庭を含む自分の暮らし、個人のプロジェクト、チームや組織での活動など、それらの時間のパーセンテージがライフステージによって変わるのは当たり前で、その変化も柔軟に受け入れられる余白はこれからも持っておきたいですね。

周りの人の幸せな気持ちに自分は生かされている

――居心地のいい1日の過ごし方があれば教えていただけると嬉しいです。

侑子:もちろん家族でどこかに出かけたり、そういう意味でのいい1日もありますが、この弘明寺というまちに住んでいることを、積極的に生活に取り込んで豊かにしていきたい思いがあります。純粋にアキナイガーデンで出店されているコーヒー屋さんで、コーヒー片手にたわいもないお喋りをしたり、時には刺激しあえる仕事の話に展開したり。
今回は盛りだくさんなのでまた機会があれば紹介したいですが、住居であるこの「洞窟のある家」で暗がりと外の光を感じながら過ごす何気ない時間もとても充実しています。

家族で暮らす神永さんの自宅。梅ちゃんと2人、アキナイガーデンスタジオで設計した。@SyuheiInoue
特徴の「洞窟」。@SyuheiInoue
光が差し込みどこか落ち着く「洞窟」は、集いたくなる空間。@SyuheiInoue

それから、家の前の商店街に出たときに、近くのマンションに住んでいる友人とすれ違って「やっほ〜、どこいくの?」と細かい日常の雑談ができることなど、本当に些細なことですが、近所の関係性が目に見えていて、そこにコミュニティや安心できる人との繋がりを感じられる1日は居心地がいいですね。

――アキナイガーデンを取り巻く地域の人たちとの関係性を大事にされているんですね。

侑子:例えば、意図しない場面で知っている人にすれ違って声をかけられたらなんだか嬉しくないですか?以前一人暮らしをしていた時は、近所に声をかけられる友人はいなくて、”住所”以上のまちとの関わりがなかったなぁと思います。

出会ったことのなかった人やモノが交わって循環することが、人間関係をより豊かに育むきっかけだと思いますし、庭のようにオープンで、押し付けがましくなく、適度な距離感が保たれた温かい場所にこのアキナイガーデンがなってくれたらいいなと思っています。

――最後に侑子さんにとっての「Life is beautiful」とは何でしょうか。

侑子:私は、ありがたいことに、身の回りの人の豊かな暮らしの中で、生かされているなぁと思っています。
人生は自分主観で物事を見がちですが、少し俯瞰して見たとき、自分と接点のある人たちが幸せであるように働きかけることができたら、それが結果的に自分の居心地に繋がるのかなと思います。

もちろんさっき話したように日常にある光を綺麗だと思えることや、新芽の息吹などの環境の恵みみたいなものに気づけるかどうかはすごく重要だなと思いながら生活しているので、それも「Life is beautiful」の一つかもしれないですね。恵まれた自然環境も人間関係も、自分がそれを享受できているありがたみを感じられることは大事だと思います。

侑子さんの「周りの人が幸せであってほしい、それに自分は生かされている」という考え方は、同じように周りをポジティブな力で巻き込み、循環させているように感じる。
アキナイガーデンを通して繋がった多くの出会いは、今後もきっとそれぞれの暮らしに豊かな彩りをもたらしてくれるだろう。


商い暮らしをテーマにしたシェアショップ、アキナイガーデンでは、出店してくれる仲間を募集中。
https://akinai.life/

設計デザインに取り組む、建築家ユニットAKINAI GARDEN STUDIOも弘明寺を拠点に活動を展開している。
https://www.instagram.com/akinaigarden_studio/?hl=ja

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“生きかたを、遊ぶ住まい” YADORESI(ヤドレジ)
北欧カフェ、クリエイター向けコワーキング、サウナが隣接した、相鉄本線(星川〜天王町)の高架下にあるシェアレジデンスです。

最大の特徴は、個室の廊下を出た先にある、道沿いに並ぶ「はなれマド」。
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