Life is beautiful – 未来への探求を、やめない。ベトナム移住に繋がった出会いの軌跡
暮らしの実践者に問いかけ、生きかたのヒントを探究する「Life is beautiful」。
今回は、ベトナムに移住し建築設計事務所で働きながら暮らす、渡邊もえさんを訪ねました。
世界に触れて、自分にとっての豊かさを見つめ直す
――現在の暮らしに辿り着くまでの経緯などを教えていただけますか?
渡邊:昔から絵を描いたりものを作ることが大好きで、小さな頃からなぜか漠然と海外に行きたい気持ちがありました。大人になり大学院で建築デザインを学び、日本のアトリエ系工務店で4年間勤務後、ベトナムの設計事務所に転職しました。
――幼少期から海外に行きたい気持ちがあったのは何か原体験に紐づくことがあったのですか?
渡邊:家族旅行でタイに行ったのが初めての海外でしたが、それ以外にも小さい頃から両親が世界にまつわるいろんな絵本を読む環境を与えてくれていたので、海外を身近に感じていたのかもしれません。特に世界遺産の本が好きでした。知らない世界を見たい気持ちや好奇心が元々高かったのかもしれません。
――建築を学ぶ中で、建築をやめようかなと感じていたこともあったそうですね。
渡邊:大学が新宿のビジネス街にあり満員列車に揺られながら1.5時間かけて大学に通ったり毎日課題などに追われていたので、単純に疲れていたのかもしれません。
学生の頃にイギリスに3ヶ月、イタリアへ半年ほど、短期留学をした際に、イギリスでのホストファミリーは土曜の夜は家族で映画を見たり、日曜は教会に行ってみんなでご飯を食べたりと、学業(仕事)以外の時間の使いかたが上手で、日常の心を豊かに過ごす時間を作ることは自分にとって大事なことだと改めて感じることができ、忙しかった日々から一度立ち止まって考えるきっかけになりました。
表現という意味での建築の面白さ
――そんな気づきがありながらも、最終的には建築の道に進まれたのですね。
渡邊:そうですね。今は、建築は人の知恵、思考、思想などを周辺環境等と掛け合わせながら一つの大きなモノとして作り上げることができるのでとても面白いなと思っています。
就職活動直前までイタリア留学で建築の保存改修を学んでいたこともあり、卒業後は漠然とリノベーション系の仕事がしたいなと考えていました。
そんな中、本屋さんでたまたま手に取ったリノベーション特集の本に、前職の職場であるルーヴィスの案件が掲載されており、建築全体の空気感がいいなと思い問い合わせしました。
――空気感がいい建築、ですか。
渡邊:当時、ルーヴィスの建築をみたときに肩肘が張っていないというか佇まいがいいなあと思ったのを覚えています。
またルーヴィスに決めたのは設計だけではなく不動産や施工を一貫して取り扱うことと、分業ではなく現調からお客さんの打ち合わせ、見積もり、設計、引き渡しまで全ての過程を担当できることがいいなと思っていました。いずれ自分がプロジェクトを進める立場になったり、経営をするときにこの経験が活かせるなと思ったんです。
――事業家というか経営者的なマインドがおありなんですね。
渡邊:父の影響が大きいかもしれないです。
会社なのか事業なのか何かしら形にしたいと思って生きてきました。
今も何かしたいと思って日々色々考えていますが今は目の前のやるべきことに集中したいなと思っています。
――この阪東橋の平屋の物件に渡邊さんも住んでいらっしゃったんですよね。
渡邊:そうですね。ベトナムに行く直前まで4年くらい住んでいました。友達とBBQをしたり、スクリーンで壁に映画を映して上映会をしたりと色々楽しませてもらった思い出の多い家です。
冬の平屋はとても寒く四季の移ろいを色濃く感じられる家でしたが、あまり陽が入らない分、特定の時期の昼間に数時間だけ天窓から光が差し込んでくる時を楽しみに待っていたり、ストーブで焼き芋を焼いてみたりと、物件の短所すらも個性として好きだと思える家でした。お米がなくなったらお米やさんである大家さんのところに気軽に買いに行けたり、夕方に隣のカフェから音楽が聞こえてくる様子も含めて全てが素晴らしい環境でした。
阪東橋の平屋 ©️ roovice(https://www.roovice.com/works/7515/ )
阪東橋の平屋 ©️ roovice(https://www.roovice.com/works/7515/ )
均質化された物件情報サイトを見ていても自分の中では心が躍らないことも多かったのですが、このような個性が見える物件に住まわせてもらえたことでオリジナルの家に住む幸福感のようなものをより感じられるようになりました。
無意識に出た言葉が本当の思いに気づかせてくれた
――この後の大きなキャリアチェンジ、ベトナム移住を決断されたのはどんなタイミングだったのでしょうか?
渡邊:当時、日々の仕事に追われて先が見えない不安や葛藤を感じていたり、私生活も周囲の友人達が20代後半、30歳手前で結婚し子育てを始めたりする中で、自分はどのように生きていきたいのか、どんな未来を歩きたいのかなかなか答えが出ず、ずっともやもやしていました。
そんな中、前職の代表に「結局何がしたいの?」と聞かれた際に「やっぱり海外で働きたいです」という言葉が出てきて、あ、自分は海外にでたかったのかと気が付き、自分でも少し驚きました。
たまたまその翌日、今の職場であるスタジオ・アネッタイの代表山田さんとルーヴィスのメンバーで食事に行く機会があり、山田さんがスタッフを募集しているという話からトントン拍子でベトナムに行くことが決まり、その話をしてから3〜4ヶ月後にはベトナムでの生活がスタートしました。今思うと本当に激動の1年だったなと思います。
――躊躇したり、不安な気持ちなどはありませんでしたか?
渡邊:正直、あまり不安な気持ちはなかったです。良きタイミングと素晴らしい出会いがキッカケでベトナム行きが決まったので、直感的にこれはいくしかないと思える根拠のない自信がありました。
飛び込んだ先で見つけた、その先の夢
――現在ベトナムではどのような働き方をされているのですか?
渡邊:仕事内容としては日本の設計事務所と同じような働き方だと思います。
ただ設計してから形になるまでのスピードが日本よりも早いので、社内のMTGでそれぞれがたくさん意見を出し合って一つの形にしていきます。個人の意見が求められる環境で働かせてもらっているのでやりがいを感じます。
また仕事の内容によっては社内だけではなくベトナムの設計事務所や日本の設計事務所の社外の人達とコラボしてプロジェクトを進めていくので日々刺激があります。
――ベトナムに行ってすごく元気になったと周りから言われるそうですね。
渡邊:自分でもだいぶ明るくなったと思います。
ベトナムにきたことで東南アジアのエネルギッシュな空気感を感じられて、だいぶ気も晴れたというか、自分の気持ちもより定まってきたように感じます。
――生活自体にも慣れ、渡辺さんの中でも少し余裕が出てきたということでしょうか。
渡邊:そうですね、今では食事や住環境にも慣れ、文化の違いに関しても発見が多くて面白いと思えるので特に不自由なことはありません。また仲の良い友達ができたことで生活がよりたのしいと思えるようになりました。
日本にいた頃は周りと比較して色々悩んだりする時間が長かったような気がしますが、ベトナムでは自分は外国人という立場になるのでそれがいい意味で気にしすぎず、気楽になれる要因の一つなのかもなとも思います。
手放すことは、同時に与えられるものも多い。
――今住んでいるこの場所での暮らしはいかがですか?
渡邊:とても快適で気に入っています。各個室がシンプルな分、共有スペースが充実しており、プールやハンモック、ジムなどが家にあります。家のジムで運動して洗濯している間にハンモックで本を読んだりipadで絵を描いたりしています。
引っ越した先の家には家具や棚がセットで全て付いていたので、スーツケース2個と大きなリュックだけを持ってベトナムにきました。
――では結構な量の断捨離をされたのですね。
渡邊:そうですね。以前はものを集めることが好きでしたが、どうしても手放さないといけないという状況の中で自分の手持ちの物を見つめ直してみると、本当に必要なものは少ししかないんだなということに気がつきました。自分の大事なものをいくつか持ってきたので所持していた持ち物に向き合う良いきっかけになりました。
今までのお金の使い方をすごく考えさせられ、思考が少しミニマルになったような気がします。これからは経験に時間やお金を割いていきたいなと思えた良い機会でした。
――ベトナムで居心地の良い1日の過ごし方を教えていただけますか?
渡邊:週末は友人と運動をして過ごすことが多いです。色々なスポーツにトライしています。またベトナムはカフェが多いので、カフェで本を読んだり、勉強をしたり、絵を描くこともあります。散歩しながらラジオを聴いたり、音楽を聴いて考えごとをすることも多いです。
――外国でも居心地の良い時間をちゃんと確保されているんですね。
渡邊:そうですね、ひとりの時間は結構大切にして色々思考を巡らせて前に進むようにしています。
――同じように悩み、その悩んでいることにも蓋をして過ごしている人もたくさんいると思います。
渡邊:そうですよね。私もベトナムに行く前は一般的な正解に自分を当てはめようとしていたので、人と比べても劣っているように見えるし自分の中でも腑に落ちないし…の連続で、ずっとなんか違う…と思っていました。今冷静に考えてみればそれぞれの中にそれぞれの正解を見つければいいと思えるのですが当時は思考が行き詰まっていたように感じます。
例えるならば、みんな同じ建売住宅ではなく、それぞれのオリジナルの形がある家がいいと思うというか…それぞれが個性のある面白い生き方ややりたいことをやればいいと思いますし、自分を諦めたり自分の期待値を自分で決めたりせずに、自分がどう生きていきたいのか?ということを問い続けてその未来を広げていくための努力を続けていきたいなあと思っています。
ようやく悩みは簡単に消えないがいつまでも続くわけではないということがだんだんわかってきたので、今はとにかく考えながら走り続けるしかない…!と思えるようになりました。
――建売住宅の例えはユーモアがあって面白いですね。
渡邊:同じように均一にすることは簡単ですが少し味気ない気がしていて…。
新しい街も美しくて素敵ですが、歴史や文化等が見え隠れする混沌とした掴みきれない街に魅力を感じます。
自分が今ここに立っているのは、周りの人や環境に恵まれたからだと思っていて、悩んでいる時に未来を一緒に考えてくれたり、少しネガティブになった時には自分にはなかった明るくて斬新な切り口を教えてくれた大人が周りにいたからこそ、想像していなかった今があるのかなと思っています。
もし私と同じように悩んでいる方がいれば少しでも力になりたいと思いますし、誰かの背中を押すというよりは一歩目が踏み出せるように背中をさすることができるような存在でありたい。
そのためにも自分の力をつけ続けて、日々挑戦し続けたいと思います。
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渡邊さんの何事にも誠実で、人を大切にする謙虚な姿勢は、周りからも力になってあげたいという思いが生まれ、人生においてプラスのベクトルとなる出会いを引き寄せているように感じられた。
自分の心の声や可能性を信じ、その精度を磨いていくのは容易いことではないが、その思いに蓋をする必要はない。未来の自分の可能性は未知数なのだから。そんなことを教えられた心温まるインタビューだった。