ユニークな人やお店がつながり、自分を表現できる地域の居場所へ / ぐりーんハウス3代目店主 除村千春さん

【インタビュー】ユニークな人やお店がつながり、自分を表現できる地域の居場所へ / ぐりーんハウス3代目店主 除村千春さん

「町田山崎団地」を舞台に、団地に住まう人とまちの人とが入り混じり、団地ならではの豊かな暮らしや心地いい日常の景色を共に創り・発信していく取り組み、「まちやまプロジェクト」。

そのプロジェクトの一環として、団地や町田にまつわる取り組みをしている方のインタビューを発信していきます。

一人目は、町田山崎団地にある、おもちゃと駄菓子の「ぐりーんハウス」3代目店主として、団地住人の方や地域に愛されながら活動されている除村千春(よけむらちはる)さん。2024年1月下旬には、新しく「0号室」としてノンアルコールドリンクスタンドも山崎団地名店街にオープンされました。そんな除村さんご自身も、実は町田山崎団地の出身。除村さんの町田山崎団地での取り組みや活動を始めた背景、これからの活動への思いについてお話を伺いました。

 

多様な選択肢があるからこそ、豊かで楽しい場に

多くの子どもと大人で賑わう、駄菓子屋、シェアキッチン、設計事務所を兼ねた「ぐりーんハウス」

 

―まずはじめに、店主をされている「ぐりーんハウス」について教えてください。

除村さん 「ぐりーんハウス」は駄菓子屋、シェアキッチン、設計事務所の3つを軸にして開いているお店です。駄菓子屋とシェアキッチンの相性の良さをとても感じていますね。駄菓子屋だけだと、子どもたちは楽しめるけれど、親御さんが手持ち無沙汰になってしまうことも多いですが、そこにシェアキッチンがあることによって親御さん世代の方にも「ここに来たら楽しい」と感じていただけるお店にできたと思っています。駄菓子屋、シェアキッチン、設計事務所という様々な使い方ができる場だからこそ、相乗効果が生まれていると感じます。

ー2020年から「ぐりーんハウス」での取り組みも続けながら、同商店街に「0号室」というノンアルコールドリンクスタンドもオープンされたのにはどういった背景があったのでしょうか?

2024年1月下旬に山崎団地名店街にオープンした、ノンアルコールドリンクスタンド「0号室」

 

除村さん 実は「ぐりーんハウス」の2号店をつくろうと思っていたんです。「ぐりーんハウス」があることで地域や団地が豊かになっていくように、他の地域にも同じパッケージでオープンすれば、同じような状況がつくれるのではないかと。でも、いざ事業計画を作っていたら、さまざまな制約からこのパッケージを別の場所にもつくって広げていくことは容易ではないと感じてきました。そんな時に、商店街に空き店舗ができると聞き、「ここで新しい事業ができるのではないか」と直感で感じ、当時はまだノープランでしたが借りることを決めました。ぐりーんハウスの目と鼻の先の距離でなら、何か別の表現もできるかもしれないと思っていました。

ーノンアルコール専門店というコンセプトにはどういった思いが込められているのでしょうか?

「0号室」には様々な種類のノンアルコールドリンクが並ぶ

 

世代問わず愛される、「0号室」のクリームソーダ

 

除村さん 「お酒を飲まないことで大人の楽しみ方は多様に開かれるのではないか」という言葉に、コラムを読んでいる時に出会いました。その時にハッとしたのがきっかけです。自分の人生を思い返しても、新年会や歓迎会、何かの節々にはお酒が当たり前のようにセットされていて、徐々に「飲まない人が飲む人に合わせなければならない社会」だと感じるようになりました。事情があって飲めない人や、飲めるけど飲まない人生を選ぶ人など、いろんな人がいる。多様な選択肢がある場だからこそ、豊かで、楽しくて、いろんな人に来てもらえると思うんです。

 ー「0号室」では、「kuromojibooks」さんの素敵な古本の選書も目に止まりますね。

旅や料理、まちづくり、エッセイ、日記など様々なジャンルの本が並ぶ

 

既存の社会に問いを投げかける、いい意味で”とがった”選書の本棚

 

除村さん 0号室をオープンする際に、ブックカフェのような書店的な要素を取り入れたいと思っていました。「kuromojibooks」さんとは、実は「ぐりーんハウス」でのイベント出店がきっかけでご縁がうまれたのですが、選書のセンスや人柄がすごく魅力的だったので声をかけさせていただきました。今では、「kuromojbooks」さんの本を目的に来てくれる人もいます。いい意味でとがっていたり、マニアックな本が多いのも魅力です。最近は、オーナーが選書した本が並ぶ「独立系書店」が増えてきていて、「この人の選んだ本を読みたい」と思う人が多くなっているのもあり、情報があふれている社会の中で、1つフィルターがあると手に取りやすくなるのではないかと思いますね。

 

「ぐりーんハウス」のルーツは裏原宿(ウラハラ)にあり!?ユニークだけど開いていて、全方向にやさしい居場所

―もともと山崎団地にお住まいだったという除村さん。改めて、どういった経緯で商店街にお店を構えることになったのか教えて下さい。

生き生きとした表情で語る「ぐりーんハウス」3代目店主の除村千春さん

除村さん 

 

これまで、商業施設の設計や空間デザインの仕事を20年以上手掛けてきた中で、お店のあり方や商業で求められるものが時代とともに変化してきたと実感しています。例えばどの駅で降りても同じお店が多かったり、名前だけ変えたチェーン店も増えるなかで、商店街や個人店が疲弊してきていたりもします。そんな現状に違和感を覚えていた時に、「ぐりーんハウス」が閉店することを知り、最終日に足を運びました。自身も小学校時代を過ごした山崎団地商店街の状況は当時とは違うものの、「ぐりーんハウス」は変わらず賑やかで、今でも子どもたちのオアシスであり続けているのだと感じました。そして「これからの商業は小さくてもカルチャーが生まれるところにある」と直感的に思い、ぐりーんハウスを引き継ぐことに決めました。

―商店のあり方を考える上で、何か除村さんのこだわりや原体験はありますか?

除村さん 中高生の時に裏原宿(通称ウラハラ)のお店に通って、文化的なものに触れた経験が自分のルーツになっていると感じていますね。裏原は、メインストリートからは少し外れた、マイノリティーの文化に触れられる場所だったんです。かっこいいお兄さんお姉さんが聞いたことのない音楽を流していたり、熱意だけで作り出したような洋服があったり。「ぐりーんハウス」もそういうものにしたいという気持ちがありました。そこに行けば、見たこともない、聞いたこともないような、おもしろいことが広がっている。それは決して閉鎖的ではなく、外にも開いていて、全方向に対してやさしい。そういう場があると、周辺も豊かになるのではないかと思っています。自分の信念やコンセプトを貫くことは怖いし、前例もないですが、せっかくやるからには頑張ってみようと思っています。

 

団地だからこその、「子どもが主役」の居場所

創業当時から子どもの居場所であり続ける「ぐりーんハウス」

 

ー「ぐりーんハウス」や「0号室」での活動を通して、どんな団地ならではの魅力を感じていますか?

除村さん 顔が見える関係性をつくれるのは、団地ならではだと思いますね。駄菓子屋で、しかも駅から離れたエリアだったので、最初はうまくいくか不安でした。でも、町田山崎団地には子育て世代の方や子どもたちも多く行き交うので、この場所ならではのつながりや時間の流れがあるなと感じています。

ーお客さんと店員さんという関係性ではなく、暮らしの中で、お互いの顔が見える関係性なんですね。

除村さん そうですね。ぐりーんハウスは子どものサードプレイスにもなっています。子どもの居場所は家、学校、塾などしかなく、自分で選べる居場所はなかなかない。だからこそ、子どもが自分で選べる居場所を大人が用意してあげなければいけないと思っています。ぐりーんハウスは「子どもが主役」という言葉を使い続けていて、その約束ごとをずっと守ってきました。そんな居場所であり続けられているのも、都市の中心部とのいい距離感があって、地域ならではの時間の流れが土壌にあるからなのではないかと思います。

 

自然や暮らし、食、消費活動が自然体で循環する団地

除村さんも幼少期を過ごした町田山崎団地の商店街

ーもともと団地にお住まいだった除村さんだからこその取り組みや思いも多くあるかと思いますが、特に記憶に残る団地での思い出や好きな景色はありますか?

除村さん 言い尽くせないほどありますね。特に、商店街は当時の自分にとって夢のような場所でした。全てのお店が開いていて、いろんな業種があって、そこで生活が成立していたんです。それだけで豊かで、楽しく、幸せでした。その真ん中に「ぐりーんハウス」があって、当時は絶対に遊びに行きたくて、よく通っていました。

また、建物が高層化している現代において、空を見上げればちゃんと雲もあって、星も見られて、鳥が飛んでいるのも好きです。自然環境も郵便局や図書館も整っていて、暮らしや食、消費活動が自然体で負荷なく循環するのが団地暮らしの魅力だと思います。

ー除村さんが団地に住まわれていた当時から時代が変化している中で、今の団地暮らしをどのように捉えていますか?

除村さん 現代では便利な住環境が当たり前になってきていますが、古いから住みづらいというわけではないと思っています。古くからある団地だからこそ、丁寧に手入れをしたり、大事にしようという意識も芽生えると思うので、自分たちの暮らしにより味が出て、豊かになっていく。そんなところに、団地暮らしの良さがあるのではないかと思います。

 

面白い人やお店がつながり、自分を表現できる暮らしの場へ

ー最後に、これから町田山崎団地でどんな思いで活動を続けていきたいか教えてください。

除村さん 流れてきた時間や歴史も大事に読み解きながら、商店街という文脈からは外れないようにしたいです。

そうありながらも、いろんな方がチャレンジできたり、さまざま発想を表現できる場になっていったら豊かだなと思います。団地内にも様々な趣味や技能を持った方が多くいらっしゃるので、そういう方たちが外に出て、自由に活動し、自分を表現できる場が開かれることに対してはとても前向きに考えています。

ただ、ここを大勢の人が訪れるメジャーな場所にしようという気持ちはなく、ノスタルジーの残るローカル感も維持できたらと思っています。いざ来てみたら「面白い人がいっぱいいる」「面白い店がいっぱいある」「住んでる人たちがみんな楽しそう」と思ってもらえる人と信頼関係を築いていきたいです。

上下関係や役割を決めてしまわずに、大人も子どもも、みんなが同じ立場で関わりあえる団地になっていったらいいと思います。

 

ご自身も町田山崎団地出身であり、この地域で多様な方と顔の見える関係性を築いてきた除村さん。団地ならではの暮らしや魅力を改めて感じた方も多いのではないでしょうか。時代の当たり前を疑いながら、大人も子どもも等身大で関わり合える団地の場づくりに、これからの開かれた豊かな暮らしのヒントがありました。