商店街を舞台に、地域をまるごと盛り上げる / 山崎団地名店会 綾野 光紘さん
【インタビュー】商店街を舞台に、地域をまるごと盛り上げる / 山崎団地名店会 会長 綾野 光紘さん
町田山崎団地を舞台に、団地に住まう人とまちの人とが入り混じり、団地ならではの豊かな暮らしや心地いい日常の景色を共に創り・発信していく取り組み、「まちやまプロジェクト」。
そのプロジェクトの一環として、団地や町田にまつわる取り組みをしている方のインタビューを発信していきます。
三人目となる今回は、町田山崎団地(以下、山崎団地)の商店街にてご自身の飲食店を経営されながら、史上最年少の名店会会長として商店街の活気づくりに取り組む綾野光紘さんです。名店会の会長に就任された背景や現在のご活動、山崎団地へかける思いについてお話を伺いました。
ミュージシャンと経営者、町田で挑んだ二足のわらじ
ー史上最年少の山崎団地名店会の会長、飲食店経営者にミュージシャンと、各方面でご活躍をされていらっしゃる綾野さん。まずは、生い立ちを含めたご経歴についてお聞きしたいです。
3歳から小学生時代を町田市で過ごしました。当時は本町田に住んでいたので、山崎団地や木曽団地の商店街は定番の遊び場でしたね。
その後、親の仕事の都合で6年間デンマークで暮らして、大学進学のタイミングで日本に戻ってきました。デンマークでギターを弾くことに熱中していたので、大学入学後はすぐにバンドを組み、音楽活動をスタートさせたんです。だんだんと音楽にもっと集中したいと思うようになり、通っていた大学を辞めてギターの専門学校に入学し直し、本格的に音楽の道へ進んでいきました。
自分のお店を始めたのは20代前半で、結婚をして子どもが生まれた時期でした。音楽を続けながら、しっかりと家族も養うために、自分で商売を始めることに決めたんです。
そこで、商売をするなら改めて勉強をしたいと思って、最初に通っていた大学にも復学しました。父親でありながら、同時にギタリストと大学生をやりつつ、飲食店経営者として「もつ鍋処 さくら」を開業したのが25歳くらいの頃ですね。
ー山崎団地で開業を決めたきっかけは何だったのですか?
町田駅前に出すことも考えましたが、失敗した時のリスクもあるので色々と検討しました。その時に、UR都市機構による「チャレンジスペース」という、団地内店舗での開業をバックアップしていただける取り組みを見つけたんです。家賃が数ヶ月間無料で、賃料自体も安いので、これならハードル低く始められると思いました。
綾野さんのお店「もつ鍋どころ さくら」
山崎団地の商店街といえば、自分も子どもの頃によく遊んでいたので雰囲気が分かりますし、”マンモス団地”と言われるように、人も集まっているエリアです。ここでなら挑戦できると感じて、開業することに決めました。
ただ、学生時代の半分を海外で過ごしていたので、町田に友達や知り合いが多い訳ではなかったんです。山崎団地名店会に参加する時も、やはり昔から守られてきた伝統もあり、新参者がどう馴染んでいくか、難しさを感じる瞬間はありましたね。
自店の未来を考えた先に、街全体が見えてきた
ー最初は手探りの中でスタートされた名店会でのご活動、ターニングポイントなどはありましたか?
コロナ禍が大きかったですね。当時、大規模な音楽プロジェクトのギタリストを担当していたのですが、新型コロナウイルスの蔓延によって活動がほぼ止まってしまったんです。
年齢のことも考えて、そろそろ商売に本腰を入れようと思い始めたタイミングで、町田の青年会議所や消防団に参加しました。そこで得た様々な出会いや発見が現在に繋がっています。
コロナ禍では時短営業でしたし、店舗の仕事は従業員の皆さんが変わらず働けるように任せていたので、社長として経営に使える時間が増えたんです。その時に、お客さんに来ていただくには待っているだけじゃダメだと考えて、外での活動も始めました。
青年会議所と消防団に入ってからは、一気に人脈が広がりましたね。今まで知り得なかった人たちと出会えたし、様々な視点や考え方を知ることができました。
それまでは自分のお店を中心に考えていましたが、「まちのために」という思いで活動する団体に身を置く中で、”まちづくり”の重要性にも気がついていったんです。
ー団地外にも活動を広げる中で、まち全体に意識が向かっていったというお話が印象的でした。山崎団地名店会の会長に就任されたきっかけや、普段のご活動について教えていただきたいです。
元々は進んで前に出ていく性格でもなくて、チャンスがあっても他にやりたい人がいるなら譲るようなタイプで。しかし、青年会議所で学んだ「機会の提供はするけど、そのチャンスを掴むのはあなた次第」という精神に刺激を受けて、貪欲にやっていこうと決めました。
ちょうどその頃、名店会の前会長が引退されるというお話があり、僕で良ければと立候補したんです。それが38歳の時で、史上最年少の会長として就任させていただくことになりました。
普段は対外的な仕事が多く、近隣の学校や公共施設をはじめとした、団地と地域を繋ぐ窓口のような役割です。今まで繋がりが少なかった団体や会合にも進んで顔を出し、たくさんの人と関わっていく姿勢は大事にしています。
そのようなコミュニケーションから、桜美林大学のホール内カフェや、町田市役所に新しくオープンする食堂の運営を任せていただきました。外に出ることの大切さを身をもって感じているので、それは後輩たちにも伝えるようにしています。
商店街の活気を作るべく、周りを巻き込み進んでいく
ー綾野さんが会長に就任されて2年、独自の工夫で地域を盛り上げる商店街として表彰されるなど、近年の山崎団地商店街の盛り上がりは地域の外にも伝わってきています。会長として大切にされていること、感じている変化は何ですか?
「やるからには全力で!」という性格なので、そういう気持ちで取り組んでいます。
私自身も飲食店経営をしているので、コロナ禍が明けても戻らない客足に焦る部分もありました。団地や周辺地域の人口が減ってしまうと、自分の店の経営も危なくなります。
どうすればいいのか考えた時、山崎団地やこの辺りに住みたいと思う人が増えるように、もっと過ごしやすい環境を作っていこうと思ったんです。そのためには、やはり商店街の賑わいが肝となるため、商売をする人たちが集うような土壌作りも大切になってきます。
そこから、「商店街に必要なのは活気作りだ!」という考えのもと、様々な企画に取り組んできました。
補助金も活用しながら、初めての秋イベントとしてハロウィンの催しをしたり、街灯の蛍光灯を温かみのある色に付け替えたり、気がついたことはどんどん実行に移しています。多世代が暮らす場所なので、団地内自治会や近隣の商店街、大学や保育園など、様々な団体を巻き込んで企画することは大切にしていますね。山崎団地商店街の取り組みを評価いただけたのも、周りの協力があってこそです。
ハロウィンイベントの様子
URさん主導で開催された「勉強会」では、居住者や商業事業者の方々と一緒にまちづくりを考えて、そこで膨らんだ具体的なアイデアが「やってみようの会」で実施される動きも生まれています。今年の4月には【第0回 山崎団地商店街でBBQをやってみようの会】ということで、団地の広場で初めてのBBQを行いました。
山崎団地商店街でBBQをやってみようの会の様子
あとは、リニューアルした駄菓子屋の「ぐりーんハウス」、「キャンドルStudio lepta」や「0号室(ノンアルコールドリンクスタンド)」など、新しいテナントと共に名店会に関わる人が増えていることも変化の一つです。
ぐりーんハウス
昨年商店街のSNSを作ったのですが、僕は更新が苦手なので「お弁当とお惣菜のお店 ポコちゃん」の店主の方が手伝ってくれています。それぞれ得意なことでご参加いただきながら、一緒に商店街を盛り上げたいですし、個店の利益が上がるように団地のPRをもっと頑張っていきたいです。
“暮らす”以外の関わり方も大歓迎、多様な人で賑わう場所に
ー綾野さんの思う山崎団地の魅力と、今後取り組んでいきたいことを教えてください。
この場所の魅力として真っ先に思いつくのが、安心安全ということです。団地の敷地内は車も通らないですし、地域の人の目に守られているような感覚もあり、二児の親としては安心感がありますね。
また、広場や自然を楽しめる場所がたくさんあるというのも、山崎団地の特徴であり魅力だと思います。活用できるスペースが豊富なので、使い方の可能性もまだまだ存分に秘めています。
そういった部分を団地の外の方にも伝えられるように、場所を活かしたイベントは増やしていきたいですね。例えば、敷地内でずっと空き地となっているところを、キャンプもできる常設のバーベキュー場にできたらいいなと思っていて、それは地域の方々との勉強会でもお話しています。
また、貯水池の辺りは緑も豊富でとても気持ちのいい場所なので、ベンチを置いて散歩コースを整備したり、アスレチックを作って子どもの遊び場にするのもいいですよね。今年から正和幼稚園との連携でスタートした「山崎団地冒険遊び場プロジェクト」という、子どもたちと多世代が交わる活動拠点にもなり得ると思います。
アイデアは色々あるので、イベントや勉強会など地域住民の方々の参加者を増やしながら、一緒に山崎団地の可能性を広げていきたいです。
ー最後に、山崎団地での暮らしや商いなどに興味を持っている方へメッセージをお願いします。
まずは、山崎団地がどんな場所なのか、ぜひ感じにいらしてください。いきなり移住をしなくても、イベントや商店街に遊びに来ていただいたり、お子様と冒険遊び場にご参加いただくのもいいかと思います。僕と同じように、団地のチャレンジスペースを活用して、自分の商いに挑戦する場所として捉えても面白いです。色々な関わり方ができると思うので、ぜひ一度足を運んでみてください。
編集後記
今回インタビューさせていただいた綾野光紘さんのお話からは、山崎団地への深い愛情と、地域全体を盛り上げていこうとする強い意志が伝わってきました。ご自身の飲食店経営だけでなく、商店街の活気づくりや、地域全体を巻き込んで新しいアイデアを実現していくその姿勢には、リーダーとしての確固たるビジョンが感じられます。
綾野さんのように、多彩な経験を持ちながら地域のために貢献する人がいることで、山崎団地は単なる居住地以上の、魅力あふれる場所としてさらに進化していくのではないかと思います。
「活気づくり」というキーワードのもと、これからも山崎団地がどのように変わっていくのか、ますます目が離せません。
読者の皆さんも、ぜひ一度足を運び、この地域の魅力を感じてみてください。
次回もまた、地域を支える方々の思いをお届けできればと思います。