【インタビュー】これからの団地のありたい姿を、つながりの中で紡いでいく

2025年03月02日

町田山崎団地を舞台に、団地に住まう人とまちの人とが入りまじり、団地ならではの豊かな暮らしや心地いい日常の景色を共に創り・発信していく取り組み、「まちやまプロジェクト」。

そのプロジェクトの一環として、団地や町田にまつわる取り組みをしている方のインタビューを発信していきます。

今回はまちやまプロジェクトの1年間を振り返る回。実証実験イベント「まちやままるごとスコーレ」などを通して見えてきた町田山崎団地の魅力、広大な敷地や長い歴史の中にある可能性。UR都市機構の三浦さん・東窪さんをお迎えした座談会を行いました。

(写真右からUR都市機構の東窪さん、三浦さん、YADOKARIの山下さん、前田さん、木村さん)

”団地の大家さん”として、町田山崎団地の魅力を深めて発信したい

ーまずは前提のお話として、UR都市機構(以下、UR)がどのような組織なのか、知らない方もいらっしゃるかと思います。団地における役割をお聞かせください。

三浦さん: URは”独立行政法人”という組織で、民間と公共の中間にいる存在です。具体的には賃貸住宅の管理、都市再生、災害復興の大きく3つの事業に取り組んでいます。
全国に展開している賃貸住宅の中で、私たちは関東の多摩エリア(=東京23区以外の東京都市)、町田市の担当をしています。

東窪さん: 「団地の大家さん」と言われることがありますね。その団地をどのような場所にするかコンセプトから考えていく部署もあれば、建物の管理をする部署もあり、様々なパートに分かれながら大家という役目を担っています。

ー団地の大家さんという呼び名は分かりやすいですね!お二人は町田山崎団地を担当されてからどのくらい経ちますか?

三浦さん: 町田山崎団地はお互い2年目ですね。私は”団地マネージャー班”に所属していて、簡単に言うと「団地をどうやって盛り上げていくか」「どうすれば入居したいと思っていただけるか」について計画・実行をしています。

東窪さん: 私はストック活用計画課という、団地の敷地や、住戸の利活用について考える部署にいます
ーURとYADOKARIのみなさん、それぞれ町田山崎団地の最初の印象はいかがでしたか?

三浦さん: URで管理されてから50年以上経つ団地なので、最初は入居者を増やせるのか不安な部分も正直ありました。

東窪さん: 初めは少し寂しい印象もありました。敷地が広大で、一見すると人と人との繋がりが少ないように見えましたが、住人や商店会の方々と関わる内に、印象が大きく変わっていきましたね。

山下さん: 私たちYADOKARIが参加したタイミングは、商店街に新しいお店が増えたり、URさんが活動されていく中で色々な取り組みが芽吹いてきている時期だったと思います。だから、何かが動き出しそうっていうポジティブな印象も受けました。商店会主催のお祭りが盛大に開催されていたり、冒険遊び場が団地で焚き火をしていたり。

前田さん: 色々なプレイヤーの方がいる中で、この町田山崎団地にも新しい流れが生まれ始めていて、町田という土地柄を感じました。とにかく広いなっていう感想はやはりありましたね。

山下さん: 東京ドーム9個分ですもんね。実はまだ団地の一角しか見れていないんじゃないかという気はしています。

三浦さん: 多分僕たちでも全エリアを知り尽くせていないと感じます。そのくらい、活かせる場所が存分にある団地ですよね。

敷地の広さと歴史の深さ、この場所の特徴を活かすために

ーまちやまプロジェクトはどのような背景で発足したのでしょうか?

三浦さん: 町田山崎団地は建設から50年以上経っていて、建て替えなどの話も出始めています。町田市としてもモノレール開通を控えていて、団地が大きく変わろうとしている時期です。

人材や予算に限りがある中で、団地を丸ごと新しくすることは難しいですし、それが正解というわけでもありません。ただ、何もしなければ居住者の減少、高齢化が進んでしまいます。
モノレールが通れば町田市としての人口は増えることも予測されますが、それはまだ先の話。未来を見据えて、この町田山崎団地の魅力を伝えてくために、URだけではなく民間企業の力も借りながら盛り上げていきたい。そんな思いからスタートしたプロジェクトです。

外壁のリニューアル

東窪さん: 「敷地が広い」というキーワードが出ましたが、公園や広場など、町田山崎団地には魅力的な共用部がたくさんあります。今ある資源を活かしたいという視点が、今回のプロジェクトでも重要だと思っています。この環境をどうすれば楽しく使ってもらえるのか、地域の方々と一緒に考えていきたいという気持ちが根底にありました。

山下さん: YADOKARIとしては、”今後の町田山崎団地のありたい未来に向けたビジョンをともにつくっていく”という点が、今回ご一緒する上でのミッションでした。団地の屋外共用空間における実証実験や、今起こっている町田山崎団地での取り組みの発信だったり、同じ課題を抱える全国の団地のフラグシップになるような事例としても、育てていきたいと話していました。

ー今回のまちやまプロジェクトでは、「まちやままるごとスコーレ」という新たなイベントも誕生しました。

三浦さん: 元々この団地には、地域活動に積極的な方が多いことは知っていましたが、URがどう交われるのかが課題でした。まちやままるごとスコーレという、URとYADOKARIさんが主体となって作るイベントをきっかけに、今まで以上に地域の方々とやり取りできるようになったことは大きかったです。

山下さん: URのみなさんが本当に熱量高く向き合ってくださって。まずは熱源となるメンバーのチームワークが育ちながら、それを面白がってくださる地域の方々と出会えたことが何より嬉しいことでした。
商店会や自治会のみなさん、イベントに出店してくださる方や遊びに来てくださる住民の方など、この地域の人々の思いや考えが可視化されていく感覚がありました。町田山崎団地に関わる人たちの味が出てきている気がしますね。

三浦さん: 団地の持つ寛容な雰囲気や人の繋がり、そういった部分が町田山崎団地の魅力なのだと、イベントを重ねて実感する部分がありました。「建物の集合体」じゃなく「人の集合体」として見た時に、どんな人が暮らしていて、どんな望みがあるのか、触れることのできる機会でしたね。建物や設備の更新だけでは見えてこない部分だと思います。

普通に仕事をしているだけだと、住人や商店街の方々と話せる機会ってあまりないので、一緒に作り上げる経験もすごくよかったです。今後団地の将来を考えていく時にも、色々な意見を交換しながら進めていくことが大事だと思っています。

イベントを通して見えてきた、人の交差点としての団地の魅力

ー今回のまちやまプロジェクトで印象に残っている場面についてお聞きしたいです。

東窪さん: まちやままるごとスコーレの、夕暮れを背景にした夕日ビールさんの音楽ライブ、そこで子どもたちがシャボン玉を吹いて遊んでいるシーンが真っ先に浮かびます。様々な世代が入りまじって、一緒に団地の風景を作っていた様子が心に残っていますね。

夕日ビールさんのライブ風景

山下さん: 夕日ビールさん自身がこの地域の出身で、「思い出の場所に戻ってきて演奏できることが幸せ」と、伝えてくださったのも嬉しかったです。

三浦さん: 50年以上の歴史があるので、本当にたくさんの人がこの団地に関わってきたと思います。夕日ビールさんのように、今は住んでいなくても、子ども時代の思い出を胸に団地に戻ってきていただけるのは嬉しいですよね。
「おばあちゃんが団地に住んでるから遊びにきた」という子どもたちを見かけると、この団地に関わる人がずっと広がり続けていることを感じます。子ども時代を団地で過ごして、大人になってこの土地でお店を始める方もいますし、そういう心に残る風景を守っていきたいです。

東窪さん: 帰る場所、ちょっと立ち寄れる場所であって欲しいなと思いますよね。

まちやままるごとスコーレvol.1での交流会の様子

山下さん: 団地は、「家」という建物の中だけで完結する住まいじゃないからこそ、豊かな共用部は様々な人の中庭になっているのではないかなと。住んでいる方以外の人にも開かれた舞台になっていると感じますね。

三浦さん: 夏祭りの時は驚くほど人が集まりますしね。

山下さん: そうですね。夏祭りが究極のハレの日だとすると、一方でまちやままるごとスコーレは、穏やかな空気で日常に寄り添った場だったのかなと。ゆっくりとした時間の流れの中で、地域の方々とコミュニケーションが取れたことで見えてきた部分もたくさんあるなと思っています。

東窪さん: ゆっくり会話できたというのは、私も思いました。子どもたちが遊んでいる時に、親御さんにお話を聞ける場面もあって、すごくいい時間でした。
日常の温度感をちょっとずつ上げていくっていう意味では、すごく意味があると思います。

三浦さん: 主体が個人というか、1-2名の小さなグループの人たちも関われるのが、まちやままるごとスコーレの良さでもありますよね。

三世代でワークショップを楽しんでくださった、近隣にお住まいのご家族

居住空間だからこそ、挑戦できることがある

ー住民や近隣地域の方々とお話する中で見えてきたニーズ、発見はありますか?

東窪さん: 団地の中でイベントをすることが、ちゃんと求められていることは発見でした。「こういう場があったらすごく嬉しい」「子どもと一緒に遊びに行けるので、たくさんやって欲しい」と伝えていただいて。あとは菜園とか、ちょっとした手仕事をしてみたいというお話も伺って、町田山崎団地のポテンシャルを生かせそうなニーズがあるじゃん!と嬉しくなりました。

三浦さん: 団地の古さは正直デメリットなのかなと思っていましたが、商店街で駄菓子屋「ぐりーんハウス」を営む除村さんのインタビューで、”不便だからこそ、工夫を楽しんで暮らしを豊かにする”という考え方を伺って、新しい気づきがありました。

レトロとはまた違って、50年超の歴史から滲み出ている価値があると思うので、そういった伝統のようなものを活かせたらと思いました。

山下さん: 形としてあるレガシーだけじゃなくて、その人の持ってる知恵とか趣味とか、目に見えないものが循環しているのも団地ならではだと思いました。例えば、まちやままるごとスコーレでのレコードの企画は印象的でしたね。三浦さんの私物のプレイヤーをお借りして、誰でもDJとして好きなレコードをかけて楽しめちゃうっていう。団地住人の方が家に眠るレコードを持ってきてくれたりもしましたね。

三浦さん: そうですね、あの企画はすごく嬉しかったです。主体的に参加いただけましたし、自分の好きなものを紹介するって、きっかけがないと難しいと思うので。

元々は近くの山崎高校の学生さんが、団地の中で文化祭をしたいと提案してくれて、当日は部活の展示やパフォーマンスで盛り上げてくれました。商店街も開催の協力をしていて、商店会長の綾野さんからのお声がけで私たちも参加しました。

高齢の方も足を止めて懐かしいって言ってくださったり、「レコードを持ってくる」と言ってくれたり、たくさん会話が生まれましたね。古い曲を流すと、やっぱり高齢の方の方がよく知っていて、興味を持った若者に曲を紹介してあげるのもいい場面だなと。

レコードの企画

山下さん: この企画はまちやままるごとスコーレでも評判でしたよね。いわゆる「先生」のような立場のひとが何か教えてあげるというよりも、そこに住んでいる方が好きなことを共有することで、自然と学びと知恵の循環が起きる。肩書きも年齢も関係なく、自分の人生の持ち物や興味を誰かに託していくようなシーンが生まれたのは嬉しかったですね。

木村さん: イベントを通して、何かを自分で発信したいという気持ちは、年齢問わず持っているものだと感じました。暮らしの延長にあるこの場所でなら、嫌味なく自然と受け取り合うことができる距離感がいいなと。

山下さん: レコードの企画もそうですが、出店者自身が心から楽しんでいるからこそ、無理のないコミュニケーションが生まれていきますよね。

ー今後続けていきたいこと、この場所でやってみたいことは何ですか?

東窪さん: 実際に人と関わってみると、一人一人がとても温かくて、この団地や町田が好きっていうパッションをすごく感じました。そういう思いを受け取れる仲間がもっともっと増えていったらいいなって思います。居住者の方や、団地暮らしに興味のある方が、”町田山崎団地っていいな”と思えるような風景が、今後も生まれていって欲しいです。

三浦さん: 今回のイベントはURとYADOKARIが運営していましたが、この団地やエリアを中心に活動する方々が、主体になってイベントや発表のできる土壌が育つといいなと思います。みなさんのやりたいことと、場所を繋げられるような役割をしていきたいです。
あと、個人的には団地の同窓会を開いて、昔団地に住んでいた人の話も聞いてみたいですね。

山下さん: コミュニティとか人の繋がりって流動的だからこそ、誰かが抜けたら終わっちゃうのではなく、まちやまっていう場所があるから続いていく文化を作れたら理想的ですよね。

木村さん: この団地が持っている雰囲気、環境の良さは、純粋におすすめできるなと思っています。魅力が伝わるようなシーンを着実に作って、しっかり届けていきたいです。発信すれば、共感してくれる人は絶対いると思うので。

それぞれの心地いい暮らしかたを、町田山崎団地で

ー最後に、町田山崎団地に関わってみたい方へ一言お願いします

山下さん: 町田山崎団地では、日々様々なイベントが行われていて、どれも本当に魅力的です。まずは参加者として、次は出店者や運営側として、など、それぞれの心地よい関わり方でご一緒できる機会がたくさんあると思うので、まずは情報の発信も含めてこの団地の魅力を伝えていけたらと思っています。

前田さん: 自分で何かをやりたい人だけじゃなく、この場所や雰囲気が好きというだけで集まれる空気を作っていけたらと思います。好きな形でここに居ていいんだってことを感じていただけるように。

木村さん: とにかく一度足を運んで、ここに流れている心地いい空気を感じていただきたいです。人生の中の少しの時間でも、ここで過ごすことによって広がるものや得られるものがあると思っています。

東窪さん: それぞれの関わり方で、町田山崎団地に対して愛情を持っている方がたくさんいらっしゃると思います。その思いを受け止め繋いで、スパイラルを大きくしていけるような活動を続けていきたいと思っています。

三浦さん: 「当初はネガティブに思っていた「古さ」も、町田山崎団地の魅力のひとつだと思っています。50年以上、積み上げてきた経験や人間関係などの歴史、そういう内側にあるものが価値として滲み出てくるような年数だと思っています。残していきたいものを活かしつつ、このエリアの魅力をもっと伝えていきたいです。

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