第27回:加計呂麻島の女性たち|女子的リアル離島暮らし

『未来住まい方会議』をご覧の皆さん、こんにちは。作家の三谷晶子です。
東京は、先日初雪が降ったそうですね。加計呂麻島は11月半ばまで30度を超す日もあったのですが、ここ最近は少し肌寒く、けれど日中はまだ半袖で過ごせます。
さて、今日は、加計呂麻島で暮らす女性たちのことを書こうと思います。

海辺で気持ちさそうにビールを飲む友人。
海辺で気持ちさそうにビールを飲む友人。

加計呂麻島は総人口が1400人にも満たず、そのほとんどが高齢者。私と同世代の30代の女性のほとんどが移住者や、島の人と結婚した他の場所から来た女性です。

私が、島に来て一番困ったのは同世代の女性の友達がなかなかできなかったことでした。ただでさえ人口が少なく、その上、島在住の同世代の女性はほとんどが小さなお子さんがいらっしゃいます。独身の私とは生活時間帯も合わず、ましてや会う機会もほとんどありません。道ですれ違ったら挨拶ぐらいはするものの、長く話す機会はなかなかありませんでした。

島在住の女性が作ったピアス。アクセサリーについての会話などが時にはしたいもの。
島在住の女性が作ったピアス。アクセサリーについての会話などが時にはしたいもの。

青春時代に好きだった音楽や漫画や本のこと、ファッションやメイクの話、生活の中の小さなあれこれ。こういった、なんてことのない話はやはり同世代の女性とでないとなかなかしにくい部分があります。もちろん、島に来てたくさんの方々に親切にして頂いたのですが、そういった女性ならではの他愛もない話に私はすごく飢えていました。

島の女性と話すきっかけ


第15回でも書いたように、島には豊年祭や運動会などの行事がたくさんあります。「田舎で暮らすと行事が面倒じゃないですか?」とよく聞かれるのですが、私は、行事に参加することで、島で暮らす女性たちと知り合うことができました。行事の準備などで連絡先交換が必要になり、電話やLINEで繋がるとFacebookでも繋がることになり、すると「この前、新しくできたお店に行ってたけどどうだった?」だとか、「ワイン好きなら今度一緒に飲もうよ」という話になったりします。

向かいの島にいる友人が来島。待ち合わせはうちの目の前のビーチ。
向かいの島にいる友人が来島。待ち合わせはうちの目の前のビーチ。

私の仕事は文章を書くことなので、基本的に仕事をしている図が他者からは見えません。そういった素性が知りにくいところで、話しにくい部分もあったでしょう。しかし、自分の趣味嗜好や素性をSNSで明かしていると、自然ときっかけができるものです。

運動会で見るお母さんたちの実力


先日あった島の運動会での出来事。運動会の昼食休憩は一時間ほど。一人暮らしの私は、家も近所のことだし、帰宅してパスタでも作って食べてまた戻ればいいかな、と考えていました。すると、前日に会った島の女性に、「あきこちゃん、よかったらお昼にうちのお弁当に来て」と誘われたのです。

朝からこれだけのお弁当を作るお母さんパワー。感服です。
朝からこれだけのお弁当を作るお母さんパワー。感服です。

「○○さんも一人だから大変じゃない? いっぱい作ってきたから誘おう」
昼食時、誘ってくれた女性はそんな風に他の方にも心を配っていて、私はその姿に何だか圧倒されてしまいました。

「今日天気いいしね」と急きょ始まった海辺のピクニック。通りがかりのご近所さんも一緒に。
「今日天気いいしね」と急きょ始まった海辺のピクニック。通りがかりのご近所さんも一緒に。

また、先日、晴れて気持ちのいい日だったので、急きょ海辺でピクニックをした時のこと。誘ってくれた方は四人のお子さんのお母さん。家にあるもの適当に詰めてくね、といって30分後にはお稲荷さんが出来ていて、「混ぜて詰めるだけだから簡単なのよ」と言っていました。さらに、通りがかりでそのピクニックに混ざった近所のお子さんのお母さんが「ちょっと待ってて」というとコロッケを揚げて差し入れてくれて、その手早さとスキルが本当にすごいな、と思ったものです。

「これから恋愛できるなんていいよね」


先日、島の同年代の女性たちと集まって鍋をした時のこと。加計呂麻島はお店がほとんどないので、誰かと食事やお酒を楽しむ時は大抵、誰かの家です。
その集まりの中で、独身は私ひとり。話の流れである女性が、こう言いました。
「いいなあ、これから恋愛できるなんて」
私はその言葉に、ぽんと膝を打つ思いでした。

向かいの島にあるリゾートホテル。時々、島を渡って友人たちとランチをしたりヨガレッスンを受けたり。
向かいの島にあるリゾートホテル。時々、島を渡って友人たちとランチをしたりヨガレッスンを受けたり。

既婚か、未婚か、子どもがいるか、いないか。同年代の女性たちの話を聞くと、そのことで断裂したり悩んだり、関係性が変わったりすることをよく聞きます。
実際、私も第10回で書いたように、都会にいる頃に子ども達と遊ぶ機会はなく、既婚の女性も周囲にあまりいませんでした。もし、あのまま、東京にいたら、私も子どもを持つ女性とどう付き合っていいのかわからなかったかもしれません。

前述の「いいなあ、これから恋愛できるなんて」と言った彼女に、私はこう答えました。
「そうだよね、私も子どもがいて幸せな家庭があっていいな、と思ったりもするけどさ」
「それ言ったら、独身だとあちこちに行けて、自分の時間があっていいな、と思うよ」
「でもさ、そんなこと言ってもね」
「ねえ」

道端に咲くハイビスカス。島に咲く花々のように島の女性たちにはそれぞれの魅力があると思います。
道端に咲くハイビスカス。島に咲く花々のように島の女性たちにはそれぞれの魅力があると思います。

自分のできることをする潔さ


何の加工もしていないのに、こんなにきらきらに写る海が身近にあり、その綺麗さを共有できる友人がいるのはとても嬉しいことです。
何の加工もしていないのに、こんなにきらきらに写る海が身近にあり、その綺麗さを共有できる友人がいるのはとても嬉しいことです。

また、別の日のこと。第25回で書いた去年立ち上げたブランドILAND identityでモデルとしても登場してもらい、またコラボレーションで作品を提供してもらった女性も、こう言いました。
「子育てをしていたら、自分の思うように時間を使えなくて、独身で自由な人を羨ましく思ったこともある。でも、これはいけない、私は母親になることを選んだし、自分で選んだことをやらないで他人のことを羨んでいるなんて馬鹿馬鹿しい、と思ったんだよね」
「私も、子育てしてるお母さん達に島で初めて間近で会って、すごいな、かっこいいなって思った。でも、そこで『私は結婚もしてなくて、子どももいなくて』なんて言うのもさあ」
「ねえ」

他人のことを羨ましく思った気持ちを口に出すのはなかなか勇気のいることです。けれど、その気持ちをきちんと消化して、今、自分のいる状況に取り組む彼女たちの姿勢はすごく格好いいと思います。

海の中で見つけたハートの形のサンゴ。島の女性たちの中にもこういうかわいらしいものがきちんとあるな、といつも思います。
海の中で見つけたハートの形のサンゴ。島の女性たちの中にもこういうかわいらしいものがきちんとあるな、といつも思います。

加計呂麻島には、本当に何もなく、面白いことや楽しみは自分で見つけるしかありません。人数が少ない故の密な人間関係に、来たばかりだと慣れず、時には煮詰まることもあると思います。けれど、それはちょっとしたことで、気の置けない場所でお酒でも飲みながら「こういうことあったんだよね」と話せば、「あるある」「私も」なんてことになり、「なんだ、大したことじゃない」と思えたりするものです。

「今日、めっちゃ天気いいから、持ち寄りで海辺でピクニックでもしようよ!」
「うち、何も食材ない……。ビールでいい?」
「OK! 授乳明けたばっかりだから、うちお酒なくて。久々のビール楽しみ!」

子どもを四人見ながらビキニで泳ぐ彼女や、「早くビール飲みたい!」と言いながら授乳し、「ようやく授乳が終わったから飲もう!」と言う彼女、「旅から帰ってきたばかりで食べるものないでしょ? ちょうど旦那がとってきた刺身があるから」と差し入れをくれる彼女。

「友達来てるんでしょ? 皆で食べて」と差し入れてもらった島バナナ。
「友達来てるんでしょ? 皆で食べて」と差し入れてもらった島バナナ。
台風前の空はこんな風に色鮮やかに灼けます。
台風前の空はこんな風に色鮮やかに灼けます。

時に誰かのことを羨ましく思ったり、誰も味方がいないような気持ちになったりすることもあっただろう。けれど、ただ、自分のできることをして、誰かのことを思いやり、楽しい時間を過ごそうとする。

私たちができることはきっとそれぐらいで、けれど、それ以外に大切なことはないんじゃないかな。

家の目の前にあるビーチが、当たり前に開けていていつも美しいように、加計呂麻島の女性たちから、私は、そんなシンプルで真っ当なことを教えてもらっています。