【最終回】ツリーハウスつくろう(10) ~小林 崇さんに学ぶ、ツリーハウスはじめの一歩~

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今回は、僕が出会い影響を受けた『人』ツリーハウスクリエーター 小林 崇さんと、その世界について、体験レポートを綴ってきました。

ツリーハウスビルダー養成講座を卒業した新米ビルダー達は、いよいよハウスを完成させます。
養成講座を通し制作された、2棟のツリーハウスを中心とする新たな“場所”が金谷・鋸山に誕生します……。

ツリーハウスつくろう


前回、大苦戦の末にハウスフレームを完成させた新米ツリーハウスビルダー達。ハウス完成へ向けた最後の作業となる、屋根や外壁の制作に取りかかった。

屋根の制作は、最後の難作業となった。ハウスのいたるところにロープが張り巡らされ、ハーネスを着用、フル装備で樹冠へとツリークライミングして行く。クライミング用にロープを掛ける樹冠付近の枝は、繊細な太さのものが多く、風が吹けば自身の身体もゆったりと揺れる。レクリエーションツリーライミングなら最高に気持ちの良い瞬間だが、ノコギリや電動工具を持ったワーククライミング中のビルダーにとっては最高に怖い瞬間となる。屋根や枝をしっかりとグリップし体制を整え、枝や幹を丁寧にかわす。時には空中で材を微調整し、作業は進行していく。

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高所作業に慣れ始めると、周りを見渡す余裕が出てくる。美しい樹冠の中で、作業は心地の良い時間となっていった。ツリーハウスビルダーだけが体験できる、特別な時間だ。

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ホストツリー最上部、およそ10m付近の樹冠までクライミングし、屋根の仕上がりを確認する。この辺りまで登ると、枝は腕の太さと変わらない。グリップする手足の感覚だけが頼りだ。こうして真上から見てみると、いかに複雑な幹や枝の中にハウスが設置されているかがよく分かる。

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ハウスの外壁は、バランスを見ながら進める。枝をかわし、眺めや採光、風の抜け方を考慮し、外壁は腰の高さに揃え、構造を活かして欄間のようなデザインに決めていく。ツリーハウスは樹の形に合わせてその場で構造を決めていく。この作業はツリーハウス制作の醍醐味だ。最後の最後まで、現場合わせが続く。
樹木に抱かれ、全面を自然に囲まれた創造空間。ここは街の暮らしに必要な物は何もないけど、人間が本来必要なものが全てある。

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装飾には存分に遊び心を。日本の数あるツリーハウスでも指折りの美しい景色となった眺望。それを楽しむため、トップデッキには展望テーブルが制作された。
新米ビルダー達は細部をつくり込み、建物は作品に変わる。ツリーハウスに魂が吹き込まれる。

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いつの間にか、鋸山は新緑の季節。萌える緑に包まれながら、穏やかに最後の作業は進んでいった。設計図のない創作的なつくりのツリーハウスは、つくり込めばどこまでも作業していける。まだまだ勉強を続けたいけれど……。こうして、ツリーハウスビルダー養成講座を卒業した新米ビルダー達による制作は、ついに完成の時を迎えた。

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学びながらつくってきた作品は細部に目をやると、まだまだ荒削りだ。しかし、僕らにとっては、そんな傷や失敗さえ愛おしい。どの部分にも、それぞれのビルダーの思い出が詰まっている。
満天の緑に囲まれながら、自然に寄り添い、想像を創造していく熱い仲間達と過ごした体験は、こうして結ばれた。

KANAYA TREEHOUSE SQUARE


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鋸山に、新たな名所をつくろう。
金谷の歴史を古くから支え、見つめて来た鋸山。都心から日帰り登山も可能で、近年では箱根、湘南・鎌倉や高尾山とも並び称される、初心者から愛好家まで幅広い人気を誇る山だ。

その鋸山の麓に、2棟のツリーハウスを中心とする広場『KANAYA TREEHOUSE SQUARE』が誕生する。今後、山道の脇に広がる広場をリデザインし、ツリーハウスを活かしたイベントや、登山者の休憩所として活用していく予定だ。
その象徴となるツリーハウスの完成祝いと披露会が、新緑の下で開催された。イベントを主催したKANAYA BASE(カナヤベース)の呼掛けで、当日は県内外から予想を超える多くのゲストが鋸山に集まった。

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この日は、ツリーハウスで自然を感じ、ゆったり楽しく過ごせるよう料理や企画が用意された。
まずは、南房総市のオーガニックファームびろえむの旬野菜や、地元食材を中心とした金谷メシがゲスト達を迎えた。この地元メシを創作したのは、金谷で結成されたユニット“THE 卍固めズ”と、ゲストハウスしへえどんのスタッフ達だ。
子どもたちに人気だったのは、金谷港のレストラン・マーケットプレイスthe Fish(ザ・フィッシュ)見波亭の、のこぎり山バウムクーヘン(通称:金谷バウム)。モンドセレクション最高金賞にも輝いたこの銘菓がオリジナルアレンジで提供された。ゲストの為に、地元金谷のみなさんが一体となってもてなしてくれた。

千葉県内の房総地区からも、企画応援の為に個性豊かなメンバーが集まった。長柄町からはクマの森ミュージアム小野塚万人さんが駆けつけ、チェーンソーによる木彫りが展示された。一本の丸太からみるみる切り出されるテディベアのような愛らしいクマ。豪快な制作と繊細な仕上げをチェーンソーひとつで仕上げる技は、正に匠だ。
土気(とけ)地区からはNOCAのメンバーが集まってくれた。NOCAは、ワカモノ達が農的暮らしやモノづくりを通し、それぞれの暮らし方、生き方をつくるフリースクールだ。彼らが展開した自転車発電かき氷のブースからは、いっそう大きな笑い声が響き、ゲスト達を楽しませた。
地元金谷と県内房総地区が、企画を通してゲストと繋がっていった。

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今回のイベントでは、ツリーハウス制作にも必要な技術、ツリークライミングの体験会が企画された。
ツリークライミングは、専用のロープやハーネスなどを利用し樹上に登る活動で、アメリカの樹芸家(アーボリスト)が、樹木管理や資源保存の為に開発した技術だ。それが今では世界に広く拡がり、レクリエーションやツリーセラピーとして、一般にも普及し愛好されている。日本国内ではツリークライミングジャパンなどの団体が、普及・体験活動を行っている。

クライミングアップし樹上に留まれば、鳥のさえずり、抜ける風、樹冠から抜ける木漏れ日、樹々の香り、枝を手足がグリップする感覚など、五感が目覚め常に新しい発見がある。木や森、自然をより近く、より深く体験する良い機会だ。
この日は、レクリエーション・ツリークライミングとして、子どもから大人まで、自分の力・自分のペースで樹上にアプローチしていた。ゲスト達は全身で樹木を感じ、森や山、自然と一体になっていった。

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建物は、ただのオブジェであってはならない。そこに人がつどって本当の意味で完成になる。
兼ねてより鋸山整備をはじめ、地元観光に尽力して来た金谷観光協会、そして移住者や気鋭の若者達がつくる地域活性プロジェクトKANAYA BASE。ツリーハウスを通して、土地の人と人が繋がる。
子どもから大人、地域、世代を越えイベントに参加してくれた皆さんが、ツリーハウスを通して樹や森、自然と一体になり繋がる。

コバさん。これがツリーハウスが人と人、人と自然を繋ぐ光景なのですね。
僕は、ずっとずっとこの光景が見たかった。
どうか、この暖かく平和な光景が、金谷から日本へ、そして世界へと繋がりますように。

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小林 崇 Message for KANAYA TREEHOUSE SQUARE


ツリーハウスビルダー養成講座を主催したコバさんから、KANAYA TREEHOUSE SQUAREにつどったみなさんへ、メッセージが贈られた。

今日、凄く良かったのは天気に恵まれた事。雨予報だったんですよね。自然に愛されている、ここは凄く幸運な風が吹く場所なんだろうと思います。

このツリーハウスビルダー養成講座は、ノコギリを持った事もない、全く制作の知識がない人達がほとんどで、月に1回泊まりがけで、座学で樹木の事を学んだり、大工道具の使い方を知ったり、ツリークライミング技術を習得しながら作ったものです。
樹が素敵ですよね。今回のホストツリーは、養成講座の生徒が作るにしては樹高もあるし、急斜面にあるので、樹にアクセスするだけでも大変で、レベルが高く、ずいぶん頑張って仕上げたと思います。

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改めてこのハウスを見て、やっぱり美しいなと思いました。みんな上がってくれたら分かると思うんですが、トップデッキから見える抜けの景色が、とても良いんです。海外だともっとすごく大きいツリーハウスもあるのですが、日本は樹が比較的小さいので、ハウス自体も小さくなります。この金谷のハウスも、階段も狭いし、上っていくのもやや窮屈です。でも、それだけの思いをして上った時に見える景色は、日本の数あるツリーハウスの中でも、高いクオリティを持っていると思います。

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これから、この場所が色んな人と、自然に愛され、自由に使われて行くと良いなと思います。
しかし、自由には責任が伴います。最近では、国内でも多くのツリーハウスを目にするようになってきました。ツリーハウスは、元々やんちゃなところから発想されています。メンテナンス不足や、樹木を考慮せず強引に制作されたものなど、壊れたり、落ちたり、枝が折れたりしています。「そんなの良いんじゃないか」って軽く感じてしまいがちな人も多いかもしれません。しかし、もし、小さな事故でも起きてしまうと、過度な規制が掛かり、その先の可能性も無くなってしまいます。
ツリーハウスがある程度広まり、認知されるようになってきた今。どのようにしたら、自由に楽しんで使っていけるか、これからみんなと相談しながら、考えていかなくてはならないことだと思っています。

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今日、養成講座の生徒達と会って、改めてやってきて良かったなって思いました。実は、今期はこの講座はお休みしていたので、色んな方々から連絡を頂きました。もう止めちゃったんですかって。
この講座は多方面から注目をいただき、豊かな人材が集まり、地域のみなさんに支えて頂きながら続けられています。生徒も、もちろん講師や僕も、ツリーハウスを通して、色々な方々とコミュニケーションを取り、様々な才能ある人と出会い、繋がるためにも、この養成講座というのは良い機会になるのだなと、お休みを貰って改めて感じることが出来ました。可能であればまた、養成講座を開講したいと思っています。

ツリーハウスが、ただ樹の上のオブジェじゃなくて、人と人を繋いだり、人と地域を繋いだりする絆になってくれたら、自分がやってきていることも無駄じゃないのかなって思います。
ツリーハウスを楽しんで下さい。ありがとうございました。

ツリーハウスクリエーター 小林 崇さんとその世界 編集後記


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Fun Build(ファン・ビルド)。ツリーハウスビルダー達が最も大切にすること、それは楽しんで制作する事。手料理の美味しさはみんな知っているはず。何故、家は手作りしないのだろう?手料理を食べた人が、作り手の気持ちを感じられるように、樹と対話しながら手作りされたツリーハウスに触れることで、森や自然を感じられるようになるのではないか。

街に住む僕らと自然との距離は、離れていく一方だ。便利さと引換に、何か大切な感覚を忘れてしまってはいないだろうか。時折見せつけられる自然の雄大さや脅威に触れ、僕らはそれに気付くのだが、忙しい毎日にそれをまた忘れていってしまう。自然の声に耳を傾ける習慣を失ってしまっている。
ツリーハウスは、自由と冒険の象徴であると共に、自然回帰の象徴でもある。ここを訪れる人々が、楽しみながら何かを感じ取って頂けたら、きっとそれは、コバさんや僕らにとっても、大きな喜びとなるだろう。

ツリーハウスの歴史を見つめてみると、起源は東南アジアの民族がつくった森のシェルターにあり、伝来したヨーロッパでは遊び心と冒険の象徴であった。また、アメリカでは自由とアンチ社会システムの象徴でもあった。
シェルターは、居場所であり、心のより所。遊び心は豊かな人との繋がりをもたらし、冒険は夢を育む。自由からは責任ある生き方を学び、アンチ社会システムからは、新しい価値観が創造される。これらツリーハウス文化が持つ精神は、これからの日本が最も必要とするものではないだろうか。

世界を巡り、日本に届いたツリーハウス文化は、今後どのような発展を遂げるのだろうか。
これからゆっくり、みんなでつくっていこうと思う。

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ツリーハウスクリエーター小林崇さんと、その世界『ツリーハウスつくろう』最後までお読み頂き、ありがとうございました。

またツリーハウスの世界でお会いしましょう!
Back on the Tree !