第4回:生きる芸術 ザンビア編「1円アパート、1円弁当(後編)」

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こんにちは。嫁と2人でアート活動をしている檻之汰鷲(おりのたわし)こと、石渡のりおです。今日は、ザンビアで泥の家を建てた話の後編をしたいと思います。前編はこちらから。

家づくり

「基礎をしっかり作ることだ。」
ザンビアの生きる達人ことジョゼフは、そう教えてくれました。
ここでの家づくりとは泥づくりでした。材料は土と水、土はアリがつくった丘から採取します。「アリが噛み砕いた土は、乾いて固まると白くて硬い丈夫な壁に仕上がるんだ、20年は住めるぞ。」と達人が教えてくれました。混ぜる水は、井戸から40リットルのタンクに水を汲んで運びました。

この家づくりで活躍したのが95年前のToyotaランドクルーザー、通称=ジャングル・ベンツでした。ザンビアには、日本では走らなくなった老人のような日本車がたくさん現役で動いていました。ここでの生活には、価値の「ある/なし」より「使える/使えない」の方が重要な判断材料になっていました。達人も自分が働けなくなる日が遠くないことを知っていて、まだ小さい息子に畑仕事を教えていました。
 
家をつくる毎日は肉体労働でした。朝日と共に起きて、日が沈むまで働きます。12月でも連日30度を越す真夏日でした。午前中にしっかり働き、昼に3~4時間の長めの休憩をして、また15時あたりから19時の日が沈むまで作業しました。

 ①土をアリの山から削る作業。
 ②削った土に水を入れて混ぜる作業。
 ③できた泥を家まで運ぶ作業。

これを繰り返して、2日間、やっとのことで基礎ができました。
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奥義への道

2日目の午後、屋根の材料になる藁を探しに行きました。雨季で、村中の家が、屋根を葺き替える時期だったために、なかなかみつからず、ジャングル・ベンツを午後から夕方まで、隣村から隣村へと走らせ、ようやく買うことができました。15束で50クワチャ(=1000円)でした。

3日目は壁づくりでした。アリの丘からツルハシで土を削り、スコップで水と混ぜます。できた泥を一輪車に入れ、家の横に運び、手ですくって筒に入れ、筒を持ち上げると円筒形の柱ができます。これを4段積むと予定したサイズの壁ができあがる計画です。その日の作業が終わるころ、達人が現れ、こう言いました。
「Work is Move. It is run.」
ぼくらの仕事が遅いことに対してのコメントでした。
「もっとたくさんの泥をまとめて作らないと駄目だ。明日、教えてやる。」
と、言いました。
師匠泥
4日目、午後に達人は、とても真似できないチカラ技で大量の泥をつくりました。身体能力の次元が違いました。達人は、土と水を混ぜる1回の作業で柱5本分の泥をつくりますが、ぼくでは1回に1本分しかできませんでした。どうやっても、それしか作れないのです。簡単そうにみえた仕事は、とんでもない重労働でした。

6日目、ぼくらは、連日の筋肉痛を堪えて、泥をつくり、計画したスケジュールに近づいてきたところで、達人に、
「屋根をつくりたいんですが、教えてもらえないですか。」
と相談すると、「壁を入口の扉と同じ高さにしなければ駄目だ。」
と言われてしまいました。

まるで拳法の奥義を習得する修行のようでした。ここまで、達人のアドバイスはすべてを正しい方向に導いてきました。達人に従うなら、作業を続けるのはもちろんですが、もう体力の限界でした。ぼくらは、もうできない、この高さで充分だと言いました。達人は、少し残念そうにして、屋根は明日やろうと言ってくれました。
家4段

働くモチベーション

達人は、明日、屋根をつくろうと毎日言うものの、屋根の作業はまったく手つかずのままでした。その日も達人を待ちましたが15時になっても現れません。ぼくらには猶予がありませんでした、今にでも作業をスタートしないと完成しない。ザンビアを離れる日まで持ち時間はあと3日でした。達人を探すと、洞窟で女神像をつくっていました。

「屋根をつくりたいんですが。」と言うと、
「俺も女神像が仕上げに近づいて忙しいんだ。暇なときにやっておくよ。」
達人の協力なくては、このプロジェクトの完成はあり得ませんでした。しかし、よく考えてみれば、達人が、ぼくらの作品づくりを手伝うモチベーションはどこにもありません。日本人夫婦がやってきて家を懸命につくっているから、サポートしているに過ぎませんでした。達人も家族を養うために毎日、畑仕事をして、その合間をみつけて創作活動しているのです。

達人のモチベーションになるものは何だろうと必至で探して、こう言いました。
「屋根づくりを仕事としてやってほしいです。」
と伝えました。達人を雇うことにしたのです。
女神

屋根づくり

そこからの動きは、野生の人間でした。斧とビッグナイフを持って森へ入っていきます。いつの間にか達人の仲間も現れました。次から次へと手ごろな木をみつけて切り倒し、樹の皮を剥いでロープをつくります。夕方の数時間で、屋根の基礎になる材料が森から伐採されました。
師匠
この日の終わりに、明日の朝、ぼくらが進めておける仕事はないか、達人に尋ねましました。すると、考えて答えました。
「壁だ。」
自分の仕事を最後まで完成させろ、そう言われたような気がしました。確かに、それはやれなければならないことでした。やらなければならないことを、これまで、どれだけ中途半端に投げ出してきたのか。この言葉は、そんな心の奥にまで響いてきました。

8日目、早朝から、壁づくりを始めました。達人は、ビッグナイフを持って森に消えていきましたが、壁が完成する頃、戻ってきました。実際に積み上げてみると、ぼくらの仕事がいかに中途半端だったかがわかりました。達人は、
「いい仕事をしたな。」と力強く言ってくれました。
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達人の言葉

屋根をつくりながら、
「この村に暮らす人は、読み書きや計算はできないけど、家を建てる方法をみんな知っているよ、野菜だって育てられるから、みんなお金がなくても生きていけるんだよ。」
と達人の友達チャカが言いました。
「読み書きや計算はできるけど、家を建てる方法を知らないし、野菜もつくれないから、生きていけないよ。」
と、ぼくが言うとみんな笑いました。

森から集めた木を適材適所にセレクトして足場を組み立て、そこに屋根の基礎を組んでいきました。基礎ができあがると、チャカが屋根に登って藁を載せていきました。 
それを見て、達人は言うのです。
「ネバーギブアップだ。みんなウサギを追いかけるが途中で諦めてしまう。捕まえるまで諦めなければ、諦めた奴のウサギも手に入るのに。そのネバーギブアップは自分のためじゃない。友達にそのスピリッツを伝えるんだ。いつもチャカは、俺をそういう風に励ましてくれる。それが友達だ。」

完成

日が沈みかけ、いよいよというところで、最後の仕上げに、チャカは、藁を8の字に結んで屋根のアクセサリーをつくってくれました。
「ひとつの輪は、こっち側から見る目、もうひとつの輪はあっち側から見る目。こっち側は、ぼくらで、あっち側は君たちだ。両方合わせてひとつの世界だ。ぼくらはひとつだ。」
チャカが言いました。
そのアクセサリーが10日間の家づくりの完成の合図でした。
その夜、チフミとぼくは、炭で火を熾し料理をして、小さな部屋に藁を敷き詰めて、1泊しました。小雨が降る寒い夜でしたが、師匠とチャカがつくった、幾重にもなった藁の屋根は、まったく雨を通しませんでした。それは完璧な仕事でした。
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翌朝、早く起きて家の撮影をしました。家を作品にしたおかげで、この土地の暮らしを体験することができました。いつか、この体験を日本で実践してみたい、家についての新しいアイディアが浮かんできました。日本にはたくさんの空き家があります。その使われなくなった家を利用できれば、もっと豊かな生活があるかもしれない。それこそ、1円アパートです。0円では、経済が成り立ちませんが、余っているものを利用することで、必要最低限のコストで、みんながハッピーになれるやり方が、あるのではないでしょうか。

ザンビアへ来る前、人類の発祥の地がアフリカだという話が頭の中にありました。確かに、ザンビアを離れる頃には、出会う人たちの顔から日本人の友達の面影が見えるようになりました。国籍も国境も超えて人間は理解し合うことができる。僕らは地球の上に暮らす兄弟だ、と、本気で思えるようになると、ジョン・レノンの「イマジン」が心のなかで流れてきました。