物作りをする人の家

この度、YADOKARI PROJECT のライターとして仲間入りさせていただきました。
下坂のり子(しもさか のりこ)と申します。
未来の住まいについて、自然をテーマに書いていく予定ですが、
初回は自己紹介を含めつつ、物作りをする人間にとっての住まいについて、日頃私が思っている事を聞いて下さい。

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「感覚」というツール


フラワーデザイナーという仕事柄「デザインの種」をいつも探している日常があります。今の自宅は、兼事務所兼アトリエにせざるを得ないわけですが、やはり生活の匂いがする場所でデザインの種は中々降りてきませんし、制作するにも集中出来ない現状があります。

自宅に近くて、利便性が良くて、負担にならない家賃で、非日常を感じられる場所。。。中々無いんです。

私の場合は、五感がフルに反応するような環境を欲するので、その為にはそんな場所に足を運ぶ必要性が生まれてきます。

花の仕事をしていて思う事は、言葉よりも感覚。

フラワースクールで基本の資格を取り、マニュアル通りのレッスンを重ね、意欲満々でアシスタント業を始めた頃、師匠であるデザイナーから言われた言葉はたったひとつ。

「見て覚えろ」

そして右も左もわからないまま仕事が始まっていき、一つ動くたびに怒鳴られ、面食らう日々が続きました。

でも年月が経って、今度は自分が教える立場になった時に、「この手の感覚」を言葉で伝えることは不可能だと気付き、初めて師匠の言葉を理解出来た。
その時から、ずっと無意識だった自分の感覚というものを大切にするようになったんです。

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人生まで変える毎日の暮らしと最適化


感覚って、五感全てを使う動作だと思っていて、長い年月の中で繰り返し体にすり込まれる部分と常に最適化しておかなければいけない部分があって、両方を生かすには自然の中に身を置く事が絶対条件だという所に辿り着いた。
自然の中に身を置くって、非日常の世界だと思うんです。

 

そして私の仕事は、植物という手段を使って一定の場所に非日常を作り上げる事なんですよね。
だからこそ非日常を体にすり込んで、常に最適化しておかなければならない。
一時的ではなくて、毎日の暮らしの環境がそれを可能にしてくれたら、どんなに効率的で有益な事か。

そう考えると、家とそれを取り巻く環境がいかに大切か、毎日の暮らしの積み重ねこそが仕事に影響を与え、人生を変えていく。そんな風に思うんです。
だから1箇所に1つの家を建て、一生そこから動かない暮らしは、少なくとも私の人生にはそぐわない気がします。

その時々の感性や求めるものに合わせた環境で暮らしたい。ある意味、流動的でいたい。環境を固定化してしまったら、感覚が最適化されないのはもちろん、そこで全てが止まってしまうような怖さがあるから。

 

楽しい変幻自在空間


現在は契約先のアトリエを自由に使わせてもらっていますが、個人のアトリエが欲しいなあ。。と日々思っています。小さくてもいいから、移動型なら最高なんですけどね。

ある時は誰もいない場所で、完全個室状態で籠って作業したり、ある時は自然に囲まれた場所で、大きめの窓からぼんやり風景を眺めて閃きを待ったり、ある時はガラス張りにして、パフォーマンス的に制作段階を披露したり、気に入ってもらえたら即売したり、花の写真を好きに撮ってもらえる空間があったり。ワークショップを開いたり。

人が集まれば、周りにカフェも併設して。それによって場所やアトリエの外装も変えたり。
時にはアトリエ自体をディスプレイするのも、面白いかも。 妄想がどんどん膨らみます。。。

YADOKARIさんのご協力の下、いつの日か。。。笑

アトリエを例にいろいろ書きましたが、変幻自在空間はいろんな「箱」に応用出来る気がする。
私達の思考も実際の建物も、固定化してしまっているものが移動出来たら。。って考えるだけで、世界観変わりますよね。

空間を箱に詰めて移動させる。

この場所じゃないとこれが出来ない、なんて発想は無くなるかも知れません。

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未来住空間への希望


日本や海外に複数拠点を持って活動されているアーティストさんはいらっしゃいますが、著名で限られた方達の特権、成功者の象徴のような印象が強いです。無名や著名に関わらず、全ての人が必要な場所に必要な人と必要な空間を目的別に持てる未来は素敵です。

サラリーマンでも、一生を賭けて一つの家を持つために働く時代は、もう終わりだと思いませんか?

最近の家族の在り方や生活ペースも、従来とは大きく変わって来ているように思います。これからは仕事やプライベートに沿った生活動線を結ぶ多拠点に、気軽に家を持つ時代になって欲しい。自分のライフワークに合わせて、一人一人がクリエイティブな生活を意識したら、右へ倣えの日本の住宅事情は大きく様変わりするのではないでしょうか。

YADOKARI PROJECTが、その先駆け的存在になることを期待しつつ、これから書いていく私の言葉が何かしら、きっかけになれば嬉しいです。

 

☆次回は八丈島の自然と住まいの話。