ニュージーランド・バンクス半島アカロア。町を囲むカヌカ林の一角に、ひっそりと佇む小さな小屋がある。「Nightlight Shed」と名づけられたこの建物は、一時的な住まいと道具置き場を兼ねつつ、夜には光の彫刻として森をやさしく照らし出す存在だ。将来的にオーナーがこの地に永住の家を建てたときにも、風景に溶け込みながら輝きを添えるように設計されている。
光と影がつくる彫刻的な佇まい
外観を包むのは、周囲のカヌカの幹を思わせる格子状の木材。昼は控えめで簡素な小屋に見えるが、夜になるとスリットから光が漏れ、森の中に浮かぶランタンのような姿を現す。格子の間から漏れるやわらかな光は、暗闇の林に温もりをもたらし、まるで森自体が呼吸しているかのようす。単なる機能小屋を超え、光の演出によって風景を豊かに変える建築となっている。
日本的感性を受け継ぐデザイン
この建物には、クライストチャーチの建築に見られる日本的な工夫が息づいている。接合部や金物は隠さず表し、構造そのものを美として提示。障子を思わせるポリカーボネートの外皮は、外の自然を柔らかく透過させながらも、必要なときにはプライバシーを確保する。内部と外部の境界を曖昧にし、常に林とのつながりを感じさせる設計だ。格子やスリットの配置は緻密に計算され、夜の光が均質に広がるよう調整されている。
森と呼吸する素材選び
素材には木材が優先して使われ、環境負荷を抑えつつ心地よさを追求している。デッキには地元産のマクロカーパ材、スリットには熱処理を施したパイン材を採用。これらは時を経てシルバーグレーへと変色し、周囲のカヌカの幹と調和する。内部では温かみのある木の色合いが残され、外部との対比が小屋に豊かな表情を与える。オーナー自身の手によって仕上げられたコンクリート基礎や可動式スクリーンなどのディテールも、この小屋を土地と深く結びつけている。
「Nightlight Shed」は仮設でありながらも、森に寄り添い、光をまとい、やがて建つ永住の家と共にこの地にあり続ける。夜にほのかに灯るその姿は、自然と共生する建築の可能性を静かに語りかけている。
via:
archdaily.com