
町田山崎団地を舞台に、団地に住まう人とまちの人とが入り混じり、団地ならではの豊かな暮らしや心地いい日常の景色を共に創り・発信していく取り組み、「まちやまプロジェクト」。
そのプロジェクトの一環として、団地や町田にまつわる取り組みをしている方のインタビューを発信していきます。
7回目となる今回のテーマは、団地でつくる「みのり“農”のある暮らし」について。
働き手不足や気候変動など、様々な課題を抱える日本の農業。一方で、近年は個人で野菜を作ることへの関心も高まっています。地域農園、ひいては団地の中にある農場は、私たちの暮らしの中でどのような役割を果たすのでしょうか?
今回お話を伺うのは、町田山崎団地の新たな農空間「エディブルまちやまガーデン」の発起人であり、世話人を務める森田亜貴(もりたあき)さん。”サステイナー”として活動する彼女に、暮らしと自然の営みに寄り添った農についてお聞きしました。
生活と自然の営みに寄り添う農で、食について考える
ー森田さんは貸し農園など、家庭菜園におけるアドバイザーとしてご活躍されています。活動の中で大切にしていることは何ですか?
一般的な家庭菜園の指南書は、近代農業技術をベースにしているので、ある程度以上の品質と収量を得るための方法が書かれています。ただ、家庭菜園では売り物を作るわけではないので、農家と同じレベルを目指す必要はありません。自分や家族がおいしいと思えるものを作れたらいいので。
家庭料理とレストランの料理が違うように、家庭菜園と農家の栽培は違っていいんです。そう考えた時に、害虫や雑草を含む、様々な生物が共存するような、自然の営みに寄り添う農を伝えていきたいと思いました。
ー”サステイナー”というオリジナルの肩書きには、どのような思いが込められているのでしょうか?
循環と多様性が生まれて、未来につながることが私の農の目指すところであり、それが私の思うサステナブルです。一般的な農家のやり方は、畑の外から肥料を持ちこんで投入し、収穫物を持ち出しては、また肥料を投入するサイクルで収量を保ちます。
一方で、家庭菜園では台所で出た野菜くずを土に還すなど、自分の生活の中で循環を作れます。暮らしの一部に農があることで、生活圏内に循環と多様性が生まれるのです。
「自分の口に入る食べ物を、少しでもいいから自分で作る暮らし」に対する思いも、常に活動の根底にあります。現代の生活は、”生産者”と”消費者”で線引きされていて、消費者は食の安全を生産者に委ねる形になっています。

そういう中でも、自分が食べる物をほんの少しでもいいから自分の手で作ってみる。そこから、「食べるとはどういうことなのか」、「食の安全とはなにか」、食について考える糸口が掴めると思うのです。
都心部だと難しいですが、町田周辺はやろうと思えば叶う環境です。やってみようって人を少しずつ増やせたらと思っています。
ーたしかに、自分の食べる物に対して意識を向ける瞬間って、あまりない気がします。現在のご活動はいつから始められたのですか?
民間企業の貸し農園で、パートのアドバイザーになったのが10年前です。

貸し農園の利用者には、農家みたいに綺麗な野菜を作りたい人もいれば、自然の営みや生き物に寄り添いながら野菜を作りたい人もいらっしゃいます。
利用者のニーズに応じて適切なアドバイスができるよう、アドバイザー向けの講習会をさせていただくようになり、その頃に「サステイナー」の屋号を名乗るようになりました。
だんだんと、地元町田を拠点に自然の営みに寄り添った野菜づくりを伝えたいと思うようになり、2023年からは町田市小野路町の「あした農場」にて、体験農園のアドバイザーをしています。
ー町田での暮らしは長いのですか?
もうすぐ20年になります。都心に住んでいたこともありましたが、今の落ち着いた暮らしが気に入っています。
ー町田の特徴を挙げるとしたら、どんな点がありますか?
町田市は市民を主体とした、生活に密着した取り組みに積極的ですよね。市民の生活を豊かにするための新しい試みに、挑戦しやすい風土があると感じます。例えば、2007年に100名を越える市民によって組織された「ごみゼロ市民会議」により、ごみの減量や資源化の提言がされた取り組みなどは特に印象に残っています。今後は農の文脈も盛り上げていきたいですね。
また、里山が残されているので、農業をはじめ生物の多様性など、自然の営みに関心を寄せて活動されている方も多いです。地元の豊かな土地をきちんと継承していこうっていう想いが、市民の方々の中に感じられます。
居場所や防災、さまざまな価値となり得る団地の農空間
ー「みのり“農”のある暮らし」のプロジェクトが生まれたのは、どのような経緯だったのですか?
“自分の育てた食べ物を口にできる暮らし”をまちに増やすためには、徒歩・自転車の移動圏内に市民の使える農空間がたくさんあるという状態が、まちづくりの計画に組み込まれることが理想です。
自治体に働きかけるのはハードルが高かったのですが、近所にあるURの団地を歩いていた時に「敷地内に農空間があれば、団地自体の価値にもなるのでは」と考えて、話を持ちかけました。

暮らしのそばに食べ物を育てる場所があって、自然の営みと寄り添いながら、生き物の多様性を大事にできる。それは環境に対する学習、保全にもつながります。また、居住者の方々の居場所づくりの選択肢にもなりますよね。多世代が交流できて、顔見知りが増えれば災害時にも心強いです。
さらに、非常時に物流がストップした時、徒歩圏で食糧を確保できることも、危機管理としての大きな価値になります。
多岐にわたって団地の価値になるというお話をして、この山崎団地にて実現できることになりました。
ーそこから、今年(2025年)9月にスタートしたのが「エディブルまちやまガーデン」ですね。
当初は4月にスタートするつもりでした。ただ、そこから気温が上昇して梅雨に入ると、雑草が繁繁しますし、近年の猛暑で熱中症のリスクもあるので、せっかく始めたのに「家庭菜園って大変…」と感じて挫折しやすいんです。そこで、暑さのピークが過ぎてからのスタートにしました。
9月スタートのメリットは他にもあります。春から夏に育てる野菜は、実を食べるものが多いんです。つまり、赤ちゃんから大人になるまで育てる期間が長いので、失敗のリスクが大きくなります。一方で秋冬の野菜は葉っぱを食べるものが多く、収穫までの期間が短いので、初心者の方にもおすすめなんです。
ー現在はどのようなメンバーで活動されていますか?
今は団地住民の方々が参加してくださっていますが、周辺地域の方もご参加いただけます。現役でお仕事している方もいますし、主婦の方、定年退職された方など様々です。これから少しずつ、多くの方に知っていただけたらと思います。
初年度に参加する方々は、「一から畑を作る」ことを経験できます。 今は固定の活動日は決めておらず、メンバー内で週一回ほどのペースで日程調整をしています。見学や体験もできますよ。


ー最近はどのような活動をされましたか?
エディブルまちやまガーデンのエリアは、一面にチガヤという長い地下茎を持つ在来の雑草と、メリケンカルカヤという外来雑草に覆われていて、まずこれらの雑草を取り除かないといけないんです。
それを一気にやろうと思うと気が遠くなるじゃないですか。なので、9 月から 10 月にかけてはちょうど葉物野菜のタネまき時期だったこともあり、「私の一平米プラン」と名付けて、自分の持ち分と決めた約1m×1m のエリアの草を抜いて、肥料を入れて、各自がコマツナや青梗菜などの葉物野菜のタネを播きました。1㎡程度の広さであれば、2時間程度でタネまきまで終わらせることができます。
今月(11 月)に入ってからは、育ってきた葉物野菜の手入れや収穫をしながら、さらに広い面積の雑草を取り除いたり低木を掘り起こしたりしながら、ムギやエンドウ類など越冬するもののタネを播きました。一般的には除草剤をまくなどして草を枯らして一度植生をリセットしてから畑にするのが一般的ですが、私の思う「自然の営みに寄り添う農」とは、いろいろな生物が共存できるように植生を完全にリセットすることなく、そこの植生を生かしつつ野菜が採れる場所に変えていくことです。子供たちが虫捕りを楽しめるような空間にもなればいいなって。
規格にとらわれない、自分好みの育て方を探せる
ー他の植物や生物と共存しながら育った野菜は、生命力が強そうですね。
他の生き物とも関わり合いながら大きくなるので、生育はゆっくりでも強いと思います。味の好みは主観的なものになりますけど、私は化学肥料を使わない方が美味しく感じるんですよね。

あとは、どの段階で収穫するかっていう点もあるんですよ。農家の場合は出荷時に規格サイズから外れると、等級が下がって安くなっちゃうんですよね。 でも私は、小松菜は小さい方が柔らかくて好みだったり、逆にきゅうりは少し太くしても美味しいなと思ったり。
だから、家庭菜園の楽しみの一つとして、自分好みのサイズや成熟の度合いを見つけられる点がありますね。
育ち過ぎちゃったから捨てるという方もいますが、「スーパーのサイズだけが正解じゃないから食べてみて」と伝えると、それを気に入る人も多いです。
ー今後はどのような活動を予定されていますか?
先週はエンドウ類の種まきをして、この後はソラマメの苗を植えます。土が肥え始めるであろう来年度には、玉ねぎなどもやりたいですね。
冬の間に低木は抜こうと目標を立てていて、その作業を進めたいです。冬は野菜を育てる農作業があまりないんですけど、畑を育てるための大切な期間です。

少し話が飛んじゃいますが、昔の畳の中には稲藁(いなわら)が詰まっていることを知っていますか?この稲藁が、畑ではいい資材になるんです。産業廃棄物として処分すると、費用もかかるし燃やされて二酸化炭素を放出するだけですが。
ーそれは知らなかったです!もったいないですね。
古畳の稲藁をばらして土の上に置いておくと、分解されて土に還るしミミズが増える。だから、畳のリサイクル業者さんがもったいないからって、畑に持ってきてくれることがあります。この山崎団地でも畳が手に入れば、みんなで畳ほぐしをしたいですね。
定期的に栽培についての講習会もあるので、お気軽にご参加いただければと思います。
そこにあるものを生かして、循環をつくるモデルケースへ
ー今後やってみたいことや、目標を教えてください!
今はまだ立ち上がりの段階なので、私が中心となって参加者のみなさんと相談しながら活動しています。ゆくゆくは、それぞれがやりたいことに自由に挑戦いただけたら嬉しいです。
山崎団地では刈り取った草を他の場所で処分していますが、団地の中で循環させる仕組みも作れるといいなと。刈った草がその場所で土に還っていけば、そこで育つ植物の栄養となって、循環していくはずなので。

もう一つは、この山崎団地をモデルに、他の団地でもやりたいって声が出てくれたらいいですね。
「敷地内の農空間は団地の価値となる」という話をしましたが、草刈りの管理においても重要です。
そこに住んでいる人たちが自発的に管理できれば、食物という形で返ってきて、緊急事態の備えにもなる。日本は空き地を管理しなければ、植生がどんどん進んでいく風土ですが、その草も生えなくなってしまえば、日本の環境は終わりなんです。自国の持つ豊かさを、ちゃんと生かして付き合っていける場所としても、団地の価値を育てたいです。
今後人手不足の問題が表面化してくる前に、団地における畑のモデルを確立していけば、一つの解決策になっていくと思います。
ー最後に、エディブルまちやまガーデンに興味を持たれる方へメッセージをお願いします!
多様な生き物と関わりながら、一緒にエディブルまちやまガーデンを育てませんか?見学や体験、いつでもお待ちしています!
