
夕方になると、保育園帰りの親子が人工芝でおもちゃを広げて遊んだり、学校帰りの中高生がチョークで落書きをしたり、TikTokを撮ったり。
2026年春、東京都足立区・竹ノ塚駅高架下にオープンした「たけのつカー&パーク」。長年フェンスで囲まれていたまちの余白に、YADOKARIのトレーラーハウスがお目見えし、新しいまちの風景が誕生しました。
アンケート用紙には決して書かれない「まちのリアルな声」と、トレーラーハウスが掛け合わさることで生まれた新たな屋外空間が誕生した背景について、仕掛け人である足立区SDGs・協創推進課の小宮舞子さんにお話を伺いました。
リアルの声を集めたい。駅前“架空のスナック”から始まった高架下空間の活用
――「たけのつカー&パーク」とは、どのような場所なのでしょうか?
小宮さん(以下敬称略): 実はそれが一番苦手な質問で(笑)。一言で枠にはめてしまうのはもったいないなと思っていて、あえて特定のイメージは作っていません。ルールに縛られず「来てくれた人が思い思いに使ってほしい」、そんな思いのある場所です。
夕方に保育園帰りの親子がおもちゃで遊ぶ横で、中高生がチョークで落書きをしたりTikTokを撮っていたりする。こちらが使い方を決めるのではなく、そこに来た人が自分なりの過ごし方を見つけてくれている、そんな光景が日常になっています。
――来てくれる人に、この空間の使い方をかなり委ねているのですね!
小宮: ある程度は委ねてますね。最初からがっちり規制とかルールを設けると、何だか場の可能性を狭めてしまっているようで楽しくないなと思っていて。だから実際に使ってもらいながら、「こんなこともできるんだ」、「ここまでいくとあまりよくないな」というのを場の様子を見ながら決めています。
たとえばこの前、男の子の兄弟がボール遊びを始めた日があって。一般的な公園ってボール遊び禁止のところが多いですけど、たけのつカー&パークは今は特に禁止していないんです。でも、上に蹴り上げると電車が走っているから危ないということもあり「蹴り上げるのはやめようね」などと声をかけながら、一緒にこの場所の使い方を考えています。
私はこの場所はを「スルメ」だなと思っているんです(笑)。ビジュアルは無骨かもしれないけれど、噛めば噛むほど、行けば行くほどに味が伝わってくるような場だなと思っています。
――この空間を作ることになったのには、どんなきっかけがあったのでしょうか?
小宮: もともと私たちのチームが、足立区の綾瀬エリアで4年ほど住民さんの活力や賑わいを生み出すコミュニティづくりの取り組みをやっていて、ありがたいことに「他のエリアでも展開してほしい」という声を多くいただき、竹の塚でも挑戦することが決まりました。
さてどこか場所はないかなと探していた中、支柱が多くて建物を建てるには難しく、ずっとフェンスで覆われたまま眠っていた高架下の広大なスペースを見つけました。

足立区・YADOKARIが運営に携わる綾瀬の高架下空間「あやセンターぐるぐる」
▼小宮さんをゲストにお迎えし、足立区のまちづくりをテーマに開催したトークイベントのレポートはこちら
【イベントレポート】未来サンカク会議 vol.5 ~逆境のまちづくりで、ひとが輝く!?~〈仕事終わり、飲み会前 誰もがサンカクできる実験場〉
――この場所との出会いをきっかけに、この施設の企画がスタートしていったのですね!
小宮:はい。でも、この場を使わせてほしいと言っても、すぐにOKとはいかないので、約2年前の秋から駅前で私ともう一人の職員が「架空のスナック」を開いてまちの声を集めることにしました。机と椅子だけ置いて、すれ違う人たちに声をかけて「このまちにあったらいいものは何ですか?」って毎週水曜日の夕方にたくさんの方にお話を伺って。怪しまれないように、芸人が頑張ってる風を装いマリオとルイージみたいなオーバーオールを着て、15回くらいやりましたね。

――「架空のスナック」! 紙のアンケートではなく、対面での会話にこだわったのはなぜですか?
小宮: 紙のアンケートって、書く時間があるからみんなちょっと「かっこつけた意見」を書いてしまいがち(笑)。だから私はあんまり信用していなくて、だったら生の声を聞こうと。
そうやって突撃して声を聞き始めたら、やっぱりみんな人と集まれる場を求めていたんです。面白かったのが、学生から「家のキッチンは親に怒られるから自由に使えない。みんなで集まって、でかいプリンを作りたい」っていう声があって。紙に「でかいプリンを作りたい」なんて書けないじゃないですか(笑)。そういうリアルな声が、場所づくりを行うにあたっての一番の証拠になりました。
建物が建てられない高架下。「プレハブじゃない何かで…」の先にあったトレーラーハウス

――トレーラーハウスの導入を決めてくださったきっかけは何だったのでしょうか?
小宮: 広いスペースではあるのですが、通常の建物を建てようとすると建築基準に引っかかってしまい、スピーディーに場をつくることができなくなってしまう。でも、プレハブ小屋じゃあまりにも味気ない。そうやって選択肢を削ぎ落としていった先に浮かんだのが、以前から「あやセンター ぐるぐる」など、綾瀬でのまちづくりの仕事を通じてご縁のあったYADOKARIさんのトレーラーハウスでした。
ナンバーをつけた「車両扱い」にすることで高架下のハードルをクリアする。このアイデアを投げたときは、上司から「また突拍子もない提案を持ってきたな」って言われましたけど(笑)、私たちのやりたいことと条件がバチっと一致したのは、非常に助かりましたね。

まちの方も使用可能なキッチントレーラー

事務所・相談ブースとして活用予定のトレーラーハウス
――実際に完成した空間やトレーラーハウスを見て、どのように感じられましたか?
小宮: まず感じたのは「安堵」。本当にスケジュールがギリギリで、終わるのかどうかずっと不安に思っていたので。
あとは、実物を見たら思った以上に広くて驚きました。完成するまで「トレーラーだから狭いんじゃないの?」って声が多かったんですが、実物を見てみんな「思った以上に広い」って驚いていました。キッチントレーラーもデザインが可愛いですし、大人3〜4人で作業してもすれ違うのが苦にならない広さで、すごく使いやすいです。
――設計や設置の段階で、大変だったことなどはありますか?
小宮: 「男女別のトイレが一基ずつほしい」との要望があり、限られたスペースにどう配置するか、パズルみたいに柱や電柱の位置を計算して本当に大変でしたが、ご対応いただけてありがたかったです。

あと、トレーラーの周りに設置した階段の高さが当初完成した際は高すぎて、急遽取り換えをお願いしたりもしましたが、ぎりぎりのスケジュール中で、一週間くらいで奇跡的にやり替えていただけて。本当にすべてが奇跡的で、皆さんに支えられて完成しました。

お披露目の日には、たけのつカー&パークに多くの方が集まりました。
「いらっしゃいませ」ではなく「こんにちは」。まちの人とと、場をつくる仲間になっていけたら
――オープン後、地域の方からはどのようなリアクションがありましたか?
小宮: 以前はフェンスで囲まれていたこの場所に「一体何ができるんだろう」と心配する声もありました。 でも、トレーラーハウスができて芝生が敷かれ、一気に雰囲気が明るくなって「できて本当によかった」という声をたくさんいただいています。
特に驚いたのが、わざわざ電車やバスに乗って遠方から子どもを遊ばせに来てくれる人がいること。話を聞くと、フェンスのおかげで飛び出す心配がないし、普通の公園のように酔っ払いや串など鋭利なゴミに怯える必要もない。常にスタッフがいて声をかけ合える環境に、すごく安心感があるという声もいただきました。
――ただの公園ではなく、人が見守ってくれる安心感があるのですね。屋外公民館のような感じですね!
小宮:そうですね。スタッフが常駐してコミュニケーションを取ることで、まちの方の声やニーズをその場ですくい上げられるのは、こちら側にとっても大きな強みになっています。
例えば、お母さんがお子さんを抱っこして手を洗ってあげていたとき、声をかけてお話を聞くと「子どもには少し高いので踏み台があればすごく助かる」と言っていただきました。それもやっぱりこちらでは気づかない視点なんですよね。本当にありがたいなと思うのは、皆さん、クレームのような要望ではなく「ここがもっと良くなるためのアイデア」をくれること。
よくチームのみんなと、「施設と利用者の関係を『いらっしゃいませの関係』ではなく、『こんにちは』って言い合える関係になりたいね」と話しています。対等な目線で、一緒に場を良くしていく仲間になれたらいいですよね。
40件以上の相談。まちの人の夢を叶えるチャレンジキッチンと相談スペース
――今回、キッチントレーラーを導入されたのには、どんな思いがあったのですか?
小宮:やっぱり「食」って強いなと思ったんです。食べることが嫌いな人っていないし、知らない人同士でも同じご飯を食べれば不思議と繋がれるじゃないですか。竹の塚は外国籍の方も多いので、交流の場にはぴったりだと思いました。
それと、駅前で「架空のスナック」をしていたときに聞いたリアルな声も背景にあります。将来お店を出したいけれどまずはここで試してみたいという人や、駅から離れた場所にある良いお店を駅前で出店してもっと知ってもらいたいという声、そんなニーズが見えていたので、まちの夢を応援するためのキッチンスペースとして使ってもらえたらいいなと考えました。

2026年3月22日に行われたお披露目の日には、キッチントレーラーを活用し、ウェルカムドリンクが提供されました。
――キッチンがない方のもうひとつの空間はどのように活用しているのでしょうか?
小宮: 半分はスタッフの事務所で、もう半分は打ち合わせや相談スペースにしています。この「やりたいこと相談」が受付開始から1ヶ月で40件以上いただいています。
これも面白い特徴があって、公園として日常利用するのは10代〜30代の若い層なのですが、挑戦したいことの相談に来てくれるのは40代後半〜60代の高齢層。年代が上の方たちは、仕事だけでなく趣味を活かして明確にやりたいことが見えてくる頃なのかなと、ぜひ応援したいです。

2026年3月22日に行われたお披露目の日には、事務所トレーラーの中で来場者の皆さんの「やってみたい」を付箋に書き、まちの声を集める企画が行われました。
――これまでに、どのような相談があったのか気になります。印象に残っている相談があれば、教えていただけますか?
小宮: 家で持て余しているミシンで教室をやりたいという60代の女性や、高架下の広さと支柱を活かして、水鉄砲で撃ち合う「ウォーターバトル」をやりたいという提案など、本当に幅広いです。
特に印象的だったのは、普段は空手道場をやられている男性の相談です。1年かけて全国を巡ってスパイスを厳選し、クラフトコーラを開発したのですが、試飲させてもらったら、甘さ控えめで後味すっきりで本当に美味しくて。それを道場の卒業生の子たちと一緒にここで販売したい、というお話でした。一人ひとりの熱い思いを聞くのは本当に面白いですね。
――皆さんの熱い想いを受け止める場所になっているのですね。どんな方が応募できるのでしょうか?
小宮: 利用者の条件や住んでいる場所のエリア範囲は全然決めていなくて、どこに住んでいる方でもOKです。利用料も当面の間は無料にしています。
ただ、無料の代わりの対価として「このまちに何を還元してくれるのか」ということは、面談でしっかりとお聞きしています。お互いにギブ・アンド・テイクで、このまちを一緒に面白くしていくパートナーとしてこの場所を活用してもらえたらいいなと思っています。ぜひ、多くの方に活用していただき、このまちを一緒に面白がっていけたら嬉しいです。

行けば行くほど味がでる、「まちの新しい居場所」に
かつて暗く閉ざされていた高架下に、YADOKARIのトレーラーハウスが温かい明かりを灯しました。
ルールに縛られず、人の体温と会話だけで編み上げられていくこの場所は、行けば行くほど楽しみ方が増えていくような、小宮さんの言う通り「スルメ」のような空間。
竹ノ塚にお住まいの方も、そうでない方もぜひ、ご自身のサードプレイス、そして新しい挑戦の場として、たけのつカー&パークに足を運んでみてはいかがでしょうか?
施設情報
所在地 〒121-0822 足立区西竹の塚二丁目8番
アクセス方法 東武スカイツリーライン「竹ノ塚駅」より北へ徒歩約3分(東武ストア竹ノ塚店の裏)
営業時間 平日(火曜日から金曜日)11時から18時
土日 10時から17時
定休日 月曜日・祝日・年末年始(12月29日から1月3日) 施設の都合で臨時休館あり
▼たけのつカー&パークの最新情報はこちらから
Instagram: https://www.instagram.com/takenotsucar_park/