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オーナーインタビュー

移動式のホールがまちを訪れる!休館中の神奈川県民ホールが仕掛けるトレーラーハウスの音楽ステージ 「どこでも音楽便」

2026.07.14

2025年4月から、建て替えに向けて長期休館中の「神奈川県民ホール」。

ホールが閉じている間も、県民の皆様に文化芸術を届け続けたい。そんな強い想いから、2026年3月、ステージ仕様に変身したYADOKARIのトレーラーハウスが、鎌倉市の神社、二宮町の原っぱ、大磯町の港の3か所に出現。神奈川県主催、鑑賞無料の移動型コンサート「どこでも音楽便」を開催しました!

今回は、どこでも音楽便の企画運営を行う、神奈川県 文化スポーツ観光局 文化課の梶山さん、神奈川芸術文化財団の中野さんにお話を伺いました。

トレーラーハウスの「可動性」を活かし、地域の魅力をどうステージに表現したのか、そして高齢化社会やアクセシビリティといった社会課題へのアプローチといった側面についてまで、お話の様子をお届けします!

出演者と楽器を守るために。トラックじゃなくて「トレーラーハウス」だった理由

――今回の「どこでも音楽便」は、どのようなきっかけで始まった企画なのでしょうか?

梶山さん(以下敬称略): 県民ホールが休館となった中でも、引き続き県民の皆様に文化芸術をお届けする事業の一環として、こちらから出向いていくスタイルの演奏会を企画しました。ただ、ピアノを主体とした演奏会を考えていたので、どうしても「どうやって運ぶか」という問題が出てきて。

最初は「トラックピアノ」と言って、軽トラの荷台にピアノを載せて運ぶくらいの手軽さをも想定していたんです。でも、野外だと雨が降ってきたら楽器がダメになってしまうし、演者さんも天候に左右されてしまう。まずは出演者と楽器をある程度守らなければいけないなと考えました。

――そこでトレーラーハウスに目が留まったのですね!

中野さん(以下敬称略): 実は、私の家がYADOKARIさんの展示場のすぐ近くで(笑)。相鉄線の高架下にいつもトレーラーハウスが展示されているのを、普段の散歩のときや、子どもの通学路で見かけていたんです。「あ、そういえばこんなものがあったな」と頭の中で繋がって、問い合わせをしました。

ホールや建物のない環境でも、ナンバーをつけた「車両扱い」の空間ならどこへでも出かけていける。屋根も壁もあるから音楽家や楽器にとっても良いし、これを使ったらみんな驚くぞと思って、チームに「トラックじゃなくて、トレーラーハウスにしない?」と提案しました。

――野外でピアノを演奏するとなると、コンディションの維持も大変だったのではないでしょうか?

中野: そう、ピアノってすごく重いんです(笑)。前提として、本物のグランドピアノを運ぶのは、調律がズレてしまうという問題がありました。そこで今回は、県民ホールが所有していた電子ピアノを活用したんです。これなら移動にも耐えられるし、調律も不要です。

音楽家は通常の演奏会では、電子ピアノではなく、グランドピアノで演奏されることがほとんどです。「電子ピアノだけど許してくれるかな……」と思いながら出演者にお話ししたら、快くOKしてくださいました。普段はない、こういった試行錯誤も面白い体験でしたね。

3つのまちの魅力を、トレーラーハウスとともに演出。土地の特性を引き出す空間デザイン

――今回は鎌倉市・二宮町・大磯町の3か所で開催だったかと思います。会場はどのように選ばれたのですか?

中野: 私たちのミッションとして、神奈川県内にある33市町村すべてを事業で回るという目標があるんです。せっかく「どこでも音楽便」をやるなら、大きなホールを持っていない地域に行きたいと思い、大磯町が候補に挙がりました。

そして、各地、それぞれの土地のシンボルになるような場所を選びたかった。鎌倉市でやるならやはり寺社仏閣、そのなかから芸能に理解のある鎌倉宮がいいなと。二宮町は、持ち物である広大な原っぱで行われている「はらっぱマルシェ」に行きました。大磯は15年も続いている「大磯市(おおいそいち)」というイベントがあったので、そのイベントと同時に開催したいなと。私がイベントの最中に主催者を探して名刺交換して(笑)、泥臭くアプローチして絞り込んでいきました。

2026年3月1日(日)は、鎌倉宮境内にて。神奈川ゆかりの音楽家・小林美樹さん(ヴァイオリン)小林有沙さん(ピアノ)によるクラシックのコンサートを開催

3月7日(土)は、二宮町の東大果樹園跡地「みらいはらっぱ」にて。土屋朱帆さん(うた)とKOSEIさん(ピアノ)の童謡を中心とした演奏会を開催

3月15日(日)は、大磯町の大磯港内の広場にて。かもめ児童合唱団、kiss the gamblerさん(うた・ピアノ)、地元バンドの「春先のジャケッツ」さんらが演奏を披露

――実際にトレーラーハウスが現地に到着したとき、どのように感じられましたか?

中野: みんな「なんじゃこりゃ!」って驚いていました(笑)。鎌倉宮の皆さんも、すごく興奮してましたから。

というのも、全長9メートルもあるので結構大きくて。鳥居の真ん前の大通りをバスの運行の合間を縫ってハラハラしながら運び、宮内に入ってきたときにはみんなで「おー!」って感動しました。

ここの宮司さんご夫妻をはじめ、会場としてご協力いただいた方々がみなさんすごく理解のある方で、本当に恵まれました。出演者さんたちも地元にゆかりのある方で、終わってみればすべてが上手くハマって、出演者さんにもお客様にも喜んでいただけたステージになりましたね。

――それぞれの場所で、トレーラーハウスの使い方も変えたそうですね。

中野: 私たちがお借りしたトレーラーハウスはガラス戸がたくさんあって、景色全体が視界に収まるショールームのような車両だったんです。これが本当に渡りに船でした。

鎌倉宮はすごく静かな場所なので、ガラス戸が4枚の側をお客さんに向けて、アコースティックな生音に集中できるようにしました。ヴァイオリンのボリュームが境内に豊かに響いて、すごく気持ちよかったです。

逆に二宮町と大磯町は、開口部が広い8枚ガラスの側を表にして、後ろの背景がたくさん見えるよう開放的にしました。大磯港では、海の先にある灯台と一直線になるように建築家の方に入ってもらって配置をデザインしたんです。

サッカーの練習で使うカラーのマーカーコーンを客席とステージの緩やかな境界線として並べるなど、そういう小さな工夫も含めて、景色の中にステージが美しく収まる空間づくりを心がけました。マーカーコーンを、小さいお子さんが全部回収しちゃうかわいらしいハプニングもありましたけど(笑)

普段ホールに来られない人のもとへ。「押しかけていく」からこそ、届けられるステージ

――野外コンサートだからこそ見られた、素敵な光景はありましたか?

梶山: 通りすがりの方が足を止めて、途中で帰らずに最後までずっと見てくださるケースがかなり多かったです。

二宮町の原っぱでは、ピアニストがすごく柔軟な方で、その場で子どもたちからリクエストを募って一気にメドレーにして弾いてくれたんです。ホールだったら、小さいお子さんはじっとしていられなくて聴いていられないかもしれないけれど、芝生の上だからこそ、子どもたちが周りで遊びながら、お父さんお母さんと一緒にフラットに音楽を楽しんでいました。

中野:大磯町では、児童合唱団のメンバーが森高千里さんの『この町』というポップスを歌ったんですが、「この街が大好きよ のんびりしてるから 魚も安くて新鮮」という歌詞が、大磯のまちを盛り上げたい地元の人たちにハマって。みんな感動していましたね。

――3日間で合計3,500人以上の方が来場されたそうですね。事前準備もかなり大変だったのではないですか?

中野: 音が鳴るイベントなので、事前に近隣へ「ご迷惑をおかけします」と手紙を持って1軒ずつポスティングして回りましたが、地域の方とお話しする機会も多く、結果的に宣伝活動にもなりました。

私たちは今ホールがないからこそ、そこのまちにどんな方が住んでいてどんなコミュニティがあるのかというまちへの「解像度」をどんどん上げていく必要があると思っていて。ただ企画を行うだけじゃなくて、ポスティングを行いながら、実地に触れ、その土地と人を知っていこうとする営みは、私たちにとっても、すごく大事なことなんです。

――実施後、近隣の方からは、どのようなお声があったのですか?

梶山: 「最近足が悪くなってしまって、なかなかホールまでは音楽を聴きに行けなかった。でも、今回こうして自分たちの町で演奏会を開催してくれて非常に嬉しい」と仰ってくださったシニアの方がいらっしゃいました。それを聞いたときは、本当にこのプロジェクトをやってよかったなと思いましたね。

中野:「うちの町にも来てほしい」という声もたくさんいただきました。今の時代、こちらから出向いていくという公共ホールのあり方が、高齢の方や移動が不自由な方などを含めた、すべての人が芸術や文化にアクセスし、楽しむことができる「文化的アクセシビリティ」という社会課題に応える一つの手段になるんじゃないかと思っています。

すべてのホールがひとつずつ、可動式のステージを持てたら。まちへこちらが出向いていく、新しい公共ホールの形

――今後もこの「どこでも音楽便」は続いていくのでしょうか?

中野: はい、今年度もまた別の3箇所を回る予定で、今は各地の皆さんと調整を進めているところです。今度は夏や秋の開催になるので、夕方や夜の時間帯にお酒を飲みながら楽しめるようライティングも工夫したり、新しいことにも挑戦しながら、実験しつづけていきたいです。

将来的には、こういったステージとなるトレーラーハウスを、ホールの基礎設備としてあらかじめ持っておくような仕組みができたら面白いなと思っています。図書館が行っている移動式のブックトラックと同じように、ホールのコンセプトやメッセージに沿って装飾された車両が走っていること自体が、そのホールのひとつの表現になる。そんな新しい公共ホールの形を作っていきたいです。

「劇場に来てください」というだけでなく、これからはもっといろんな場所にお邪魔させていただき、「こんにちは」と顔なじみになれる関係を、神奈川のたくさんのまちや人と、つくっていきたいですね。

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次回の「神奈川県民ホールがやってくる!どこでも音楽便 in 厚木市」は、2026年8月29日(土)、厚木市音楽会館 正面玄関前で開催予定です。

開催時間は17:00~、18:30~で二組のアーティストが出演。夕暮れから夜へと移り変わる時間帯ならではの雰囲気の中で、春とはひと味違った「どこでも音楽便」を楽しめそうですね。ぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

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