ホーチミン発、人と木のためのシェアハウス「House for Trees」
巨大なキューブの上に青々と茂る木々が風に揺れている。巨大な植木鉢にも見えてしまうこの建造物。これがベトナムの都市部の将来を担うかもしれない。
ベトナムと言うと、小説家、開高健がベトナム戦争を描いた「輝ける闇」の中で描かれる光景を思い浮かべてしまう。
「こちらの窓のかなたには塹壕と地雷原、それをこえてゴム林、国道、とり入れのすんだ水田などが見える。あちらの窓のかなたには水田、叢林、ゆるやかな丘、そして果てしないジャングルである。ジャングルは長城となって地平線を蔽っている。その蒼暗な梢に夕陽の長い指がとどきかけている。農民も子供も水牛もいない。謙虚な、大きい、つぶやくような黄昏が沁みだしている。その空いっぱいに火と血である。紫、金、真紅、紺青、ありとあらゆる光彩が今日最後の力をふるって叫んでいた」(開高健著「輝ける闇」より)
この光景が心に深く刻まれているせいか、ベトナムで思い浮かぶのはどこまでも続くだだっ広い平地に広がるゴム林や水田やジャングルの姿を代表する青々とした緑だ。
ところが、昨今のベトナムはだいぶ様相が変わったようだ。ホーチミン市は急速に都市化が進み、木々の占める面積がたったの0.25%に過ぎない。過剰なバイクの交通量や毎日の交通渋滞が深刻な大気汚染の原因となっている。その結果、都市部に住む新しい世代は自然とのつながりを完全に失ってしまっている。
そこでベトナム人建築家であるグエン・タット・ダットは人の住まいと木々の住まいを同化すべく、その名も「House for Trees」なる住宅を建築した。この建物はホーチミン市の中でも非常に人口密度の高い、小さい家屋がひしめき合っているタンビン地区に3人家族向け家屋として建築された。
場所は、歩行者通路からしか侵入できない住宅密集地区だ。屋根の上に植えられたのは、パンダンの木。パンダンはあまり根を深く張らないため、適していたからだ。また、重い土、樹木などを十分に支えるだけの強度の高いコンクリート材が採用された。都市部の組織のように、この家も小さな断片を寄せ集めたようなデザインになっている。周りを典型的なベトナムの低層住宅に囲まれた「House for Trees」はまるで、都会に出現した緑のオアシスのようだ。
5つのボックスからなるこの家は、中庭を囲むように建てられている。建物の中庭に面した側には大きな窓やガラス扉があり、庭が見渡せて、広がりを感じさせる。反対に、中庭と逆の面の壁面には防犯のため窓は最小限しかない。1階は書斎、ダイニングルームや共有スペースがあり、2階はプライベートとして、ベッドルームやバスルームのボックスが配されている。2階部分はメタルの橋が取り付けられ、行き来が楽にできるようになっている。
建築家は語る。「『House for Trees』は緑がどんどん失われていく状況を変えるための試みとして建築したプロトタイプとしての家です。156,000ドルと言う限られた予算の中で、人々がひしめき合って暮らしている人口過剰な都市部に大きな熱帯の木々を植えて、緑化させることが、このプロジェクトの目的でした。5つのコンクリートのボックスは大きな樹木を植える植木鉢のような役割を果たしています。これらの植木鉢の土の層は大きな樹木が植えられるように1.5メートルもの十分な深さがあり、雨水の貯留として役立ちます。将来的に「House for Trees」が増えていけば、それぞれの家屋が一定量の雨水を保持することが可能になり、洪水対策にもなる可能性があります。」
果たして実際に洪水にもなるような水量の場合にそのようなことが可能なのかはまだ未知数ではあるが、家の屋根にこれだけ大きな木々を乗せた家でホーチミン市が多い尽くされる姿は是非とも観てみたい。現在、ホーチミン市の郊外にあるタンビン地区にしかない「House for Trees」、今後どのような広がりを見せていくのか実に楽しみだ。
Via:
Vo Trong Nghia Architects
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