あなたの物語を教えてください。移動する本屋さん 「Tell a Story」

日本でもよく見かける移動販売車といえばケータリングを主流としたキッチンカー。ランチやスイーツを販売している車だ。欧米でもこの手の移動販売車は人気で、ランチする場所がないオフィス界隈やイベント事がある場所でよく遭遇する。そんな中、ポルトガルの首都リスボンに出現したのがちょっと変わった移動販売車。販売しているものは食べ物ではなく本。1975年製のヴィンテージのルノーでリスボン市内を廻るこの移動本屋さんは「Tell a Story」と呼ばれている。

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Tell a Storyは、Francisco Antolinさんと彼の友達であるDomingos CruzさんとJoao Correia Pereiraさんの3人によって考案された。このアイディアが生まれるきっかけは、ふとしたことからだった。ある日のこと、本が大好きな3人は、ポルトガル語を話せない友人にプレゼントしようと、他言語に翻訳されたポルトガルの作家の本を探しに町へ出かけた。が、あちこち回ったのにもかかわらず、ほとんど見つからないうえに作品の数も限られた。そこで思いついたのが、偉大なポルトガル作家の翻訳本が少ししか売られていないなら、自分たちで売ればいいじゃなか、ということ。

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最初は普通の書店にしようと思っていたのだが、Cruzさんが中国で文房具や学校用品を売る移動販売車を見かけたことで、本の移動販売のアイディアが浮かんだ。これなら場所を限定されずに色んな所で本を売れるのでは、という今までにない発想は良かったものの、案の定、市からの理解や許可証の発行やらに時間がかかった。それでもめげずに1年弱、無事に許可を得て夢の本の移動販売を始めることができた。

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そんなTell a Storyの客層はほとんどが観光客 。ポルトガルの文学を通してポルトガルの文化を知ってもらうためだ。多くの観光客は旅行中にポストカードを買う。切り取られたポストカードの風景が、情緒豊かな旅の思い出を彷彿させるからだ。Tell a Storyで販売されているポルトガルの文学作品は、そんなポストカードと似た役割を担っている。Antolinさんは、「本を通して学ぶことって色々あると思うんだ。その国の文化もそう。僕達は、もっとたくさんの人にポルトガルの作品を通してポルトガルのことを知ってほしいんだ」と話す。

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一度来た客がまた訪れ、前回購入した本について会話に花が咲くことも度々ある。「お客さんから読んだ本について教えてもらうことも色々あって、こちらも学ぶことがたくさんある」そう。普通の本屋では生まれない交流も、文学を通して広がっていく。

今日もヴィンテージのルノーは、ポルトガルの風景や文化を彷彿させるような本を乗せて、リスボンの街角に佇む。文章と文章の間に垣間見えるポルトガルの風景は、どのように人々の心に映るのだろうか。

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