人々の暮らしを写す、屋内で撮影されたような、屋外の写真「Set in the Street」
ニューヨーク、ブルックリン、カルフォルニアに現れたそのセットSet in the StreetはスタイリストGozda Eker と写真家Justin Bettmanのアート作品である。ズームした写真からは全く想像がつかないが、引いた写真を見るとそのロケーションに驚かされることだろう。屋内で撮影されたかのような写真はすべて、屋外で撮影された作品なのだ。
Justin Bettmanは、もともと衣料品会社を経営していたという。会社の宣伝のために写真を撮るうちに、写真の魅力にはまり、写真家としての活動がメインになっていく。現在は広告会社での写真家として仕事の傍ら、芸術活動もしている。
そしてスタイリストのGozda Ekerと出会い、表現したい世界が似通っていることに気付き一緒に作品を創ることを決めた。
若いアーティストの問題はお金がないこと。撮影スタジオを構える、借りるのにはお金がかかる。彼らは自分たちのアートを表現するうえで、なにが必要なのか話し合いを重ねていく。そうして出たアイデアは、必要なのは壁と床。予算も限られているので、無料で使える屋外の公共の場所で撮影をすること。撮影の邪魔になる車の駐車スペースがなく、ごみの収集場所でもない、人がたたずんでいても邪魔にならない、などの細かい条件をクリアした場所を見つける必要があった。彼らはロケ地探しにはグーグルマップを利用したのでロケ地を探し回る、ということはする必要が無かった。
彼は普段、仕事の時にはマラソン通勤をしていたのだが、そのルートを日々変えることにより必要な小道具を見つけることができた。これらは不法投棄された家具やごみ収集所などから集められリサイクルされた物だ。色を塗り替えたり、ソファーやいすはダニ防止スプレーが念いりに使われる、などの工夫がなされ、生まれ変わった。
初めての撮影後、セットは全て取り払われ、片付けられた。しかしその撮影を観る人々の関心の高さに、友達の一人が彼らに言った。「このセット、そのままにして置いてみない?」
彼らはそのアイデアに賛同し、インスタグラムでその楽しみを共有することを思いついた。彼らは「このセットを使って撮影を楽しんだら、インスタグラムに投稿して。」と言うメッセージを置いてその場を後にした。
その後の人々の反応も興味深い。投稿された写真は100件を超え、様々なメディアで話題になった。撮影後のセットからは紛失したものもあったが、新たに加わるものもあったという。インスタグラムの投稿写真からは人々が撮影を楽しむ様子が見て取れ、まるで家の中のような光景に、それぞれの生活を想像してしまう。
普通、家の内部は住まう人にしか見えないが、写真からは撮影者達のライフスタイルが垣間見え、その違いが面白く、興味深い。
暮らすとは何か?家族とは何か?そんなことに想像を膨らませてしまう。
偶然が重なり始まったこのアートは、人々を巻き込みながら、これからも増え続けるのだろう。
(文=加藤聖子)