最高にヒップ!ストリートフードの聖地として生まれ変わった巨大倉庫「PAPIRØEN」
コペンハーゲンの港沿いに位置する劇場ロイヤルプレイハウス周辺は、観光客だけではなく地元民にも人気のスポット。魅力のひとつは、開放的な建物から港の対岸を一望できることだ。橋を挟んで少し先の対岸には、有名な教会や立派なオペラ劇場などが並び、さすが首都といった壮麗な面持ちだ。
しかし面白いことに、その中でただひとつだけ、ロイヤルプレイハウスと港を挟んで対称の位置に、かなり大きくて無骨な建物が、でん、と構えているのである。なにもかもがオシャレなコペンハーゲンの中心部らしからぬ「殺伐とした産業工場の跡地」といった風情だ。
このエリアは通称「PAPIRØEN」。英語で「Paper Island」、直訳すると「紙の島」である。そう、つい最近までデンマーク国立メディアがプリント紙を保管するための倉庫として使っていた地域だ。
パイプが外に張り出した白い大きな建物に、汚れた赤いシャッターが不恰好だ。港の景観など一切気にもせずに、どん、と長い間居座ってきたが、2012年にその役目に終止符が打たれた。国立メディアが市との賃貸契約を打ち切ったのである。
無残な姿のまま、市の所有物として取り残されたPAPIRØENだが、そこはさすがのコペンハーゲン。次の一手が早かった。開発計画を長々と考えることなく、建物を分割してすぐに民間に貸し出した。
建築事務所、サイエンスミュージアム、デザイン系コンサルタント会社などクリエイティブな事業者がオフィスを次々に移転させた。そして、最も立地の良かった港側のホールは「ストリートフードの聖地」として開放されることになった。
ストリートフードの聖地、と聞いてもいまいちピンとこないかもしれない。
簡単に説明すると、打放しコンクリートのだだっ広い倉庫のホールが、25台のフードワゴンに占領されているのである。今後の開発が未定なため、長期契約のレストランを入れるよりも、一時滞在が自由自在の「ワゴン」の誘致を選択をしたのだ。
しかも、ひとつひとつの店舗つくりが非常にクリエイティブ。無骨な建物全体の雰囲気を補ってか、どの店も独自の外観つくりに力を入れており、カラフルな看板や客用のテーブル、インスタレーションなどは見ているだけで楽しいし、とてもつい最近越してきたばかりには見えない。コーヒーやスイーツはもちろん、ハンバーガーや中華料理、ベトナム料理まで楽しめる充実度だ。
外に出るとコペンハーゲンの港が広がっている。公共のベンチが並んでいて、誰でも、いつでも、仲間との時間を楽しむことができるのだ。使われなくなった倉庫を大掛かりな都市開発で取り壊すのではなく、柔軟な発想で、開かれた場所として様変わりさせたコペンハーゲン。今回も、あっぱれ!である。
(文=杉田真理子)