空間を探求したらこうなった。立方体と球体が組み合わさったコンパクトな家

via: stevenholl.com

スティーヴン・ホール・アーキテクツが、2年に渡って広大な土地を開発する中で完成させた「Ex of In House」という住宅。個人のゲストハウスやアーティストが使用するために設計された住宅であり、ニューヨーク州のラインベックという小さな街にある森の中に建てられた。「Ex of In House」の設計では、「空間」という言葉を探究しているという。周囲の自然環境と一体化するような住宅において、内部空間に存在するエネルギーをターゲットとして探究し、現代にはびこる建築用語や大量生産方式を問い質したいという想いが根底にあるという。

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樹木で覆われ岩が露出する約34,000坪もの郊外の土地。ここは元々、住宅用地として5つの区画に分けられる予定だったが、自然保護区として保存されることとなった。そして、2014年6月から同社が、ここで「Explorations of “IN”(「内側」の探究)」という研究開発プロジェクトを進めることとなり、その中で建てられたのが「Ex of In House」である。そのような広大な田舎の土地で、この住宅の敷地面積はわずか約25坪。現代では、都心を離れて郊外で広めの家を建てるという考え方が浸透しているが、そのような考えへの代替案として「Ex of In House」が設計された。つまり、コンパクトかつ住宅内部の空間を大切にした家だ。

この「Ex of In House」というプロジェクトは、家の内側の空間を活かすため、四次元立方体と交わる球体から創り出される空間という、独特で複雑な幾何学的配置によって定義付けられている。また、「Explorations of “IN”(「内側」の探究)」にあたってのマニフェストとして以下の7点を挙げている。
1.建築は目的ではない。建築を研究する。
2.建築の原点から「IN」を探究する。
3.「IN」、全ての空間は神聖である。
4.建築における「IN」では、空間によって空間を支配する。
5.本来の「IN」は、官能的な美という絶大なる力をもつ。
6.現在「IN」が無用であっても、将来有用となる。目的が「IN」を見出だす。
7.「含んでいる」ものは「含まれている」ものではない。

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外観は、見る角度によって建物の形が異なり、それぞれの面が特徴的で幾何学的である。住宅の内的空間の容積がどのくらいになるかを試すために設計され、複雑な形から構成されている。球面が交差するという不思議な幾何学的形状は、玄関の入り口から感じることができる。

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ダイナミックな空間の重なりで壁も複雑な形状をなし、内部空間に変化を作り出す。まず、メインとなる空間があり、その周りに2階にあたる開放的な空間がある。キッチンが中心にあり、その周りの空間は考え方次第で自由自在に使うことができる。いわゆるベッドルームは設けられていないが、それでもこの家で5人は眠ることができる。眠るための空間は仕切りなどで区切られているわけではないが、空間構成要素の垂直方向への重なりによって自然と仕切られている。

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化石燃料を使う代わりに、家は地熱で暖かく保つことができるようになっている。送電線からの電気の代わりに、太陽から電気エネルギーを得る。SoloPower社製の薄膜太陽電池は、Sonnen社製のエネルギー貯蔵システムに接続されているため、電力会社に依存せずに暮らせる。照明設備は、PLAというコーンスターチを主成分とするバイオプラスチックで3Dプリントされている。

ガラスや木材にはこの住宅の周辺で得られる原材料が使用されている。マホガニー材でできた立体的な窓や戸枠や階段、そして樺の合板でできた壁など、ほぼすべて既製品を使用することなく原材料から作りあげられた。

球面の交差スペースは曲面状の薄い木の層で巧みに作られている。内部は石膏ボードなど使用されておらず、天然油脂加工を施した木材と合板で仕上げてある。大きな円形の窓は、屋外の森へとあたかも空間的につながっているように設けられている。

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木のインテリアによる暖かみのある雰囲気の内部、球体と交差する不思議な空間、木製の円形をした窓枠から絶えず感じられる周囲の自然。1960年代にイタリアで興った、さまざまな素材どうしの結びつき、環境との結びつきを通して表現を行ったアルテポベラという芸術運動に通ずるものがある。もしくは、質素や静けさを追求する日本の侘び寂びに通ずるものがあるともいえる。

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(提供:#casa