【タイニーハウスデザインコンテスト2019審査会レポート】小さくても楽しい家、最優秀賞発表!小菅村×YADOKARI
2017年からタイニーハウスの取り組みを進めている小菅村は、山梨県にある人口730人の小さな村です。首都圏の水源である多摩川源流部に位置し、村の総面積の約95%を森林が占め、山あいに点在する8つの集落からなります。
そんな小菅村は、温泉や道の駅を整備してバイカーや観光客を呼び寄せたり、源流親子留学など都心部の子育て世代を対象にした取り組みを長年に渡って行なっており、その成果があって、移住者が増加しています。
直近では、元公民館だった建物を改修した「小菅村YLO会館」に、最新のデジタルファブリケーション設備(デジファブ)を導入してものづくり工房「小菅つくる座」をオープン。移住してきた若いアーティスト達が講師やスタッフとなって、村民達と家具などのものづくりを始めています。
その小菅村で、若い移住者たちへの住宅供給と、昔からの地域資源である森林の活用、村の賑わいづくりなどを目的として行われているのが、タイニーハウスデザインコンテストです。
プロアマ問わず参加でき、受賞作が村内にリアルに建築されるこのコンテストは、年を追うごとに応募者数が伸びつつあります。自然災害や金融危機をきっかけにタイニーハウスへの関心は世界的に広まっていることもあり、海外からの応募も増えてきました。
2019年のタイニーハウスデザインコンテストのテーマは「小さくても楽しい家」。そこには、いつの間にか富の象徴や投機の対象になり、高額ローンを組んで子どもを預けて夜遅くまで働きながら、一生をかけて求める物になってしまった「家」の、本来の在り方を問い直そうという、デザインコンテスト主催者の舩木小菅村長と村在住の建築家 和田隆男さんの想いが込められています。
今年の応募申込数は756組(提出260作品)で、昨年の約2.5倍もの数が集まりました。そのうち、いわゆる建築家や設計事務所などの建築のプロが35%、主婦層を含めた一般人が15%、中高生を含む学生や大学院生の応募が50%という割合でした。台湾や中国などから日本に留学して建築を学んでいる若者達からの応募も目立ちました。建築の専門家ではない方や若い世代が、自分なりに「楽しい家」を解釈した、自由度の高い個性豊かな作品が多数見られました。
小菅村のタイニーハウスプロジェクトの発起人であり、現在は村内のタイニーハウスと甲府で2拠点生活をしながら、このコンテストやデジファブなどの取り組みに尽力している和田さんに、今年のテーマである「小さくても楽しい家」について、お話を伺いました。
和田さん:「本来、家に決まった形はないんですよ。でも、いつの間にか固定観念で、家はこうでなくちゃ、という形に陥っているんですね。それを打ち破るところに家づくりの『楽しさ』があります。建物の間取りではなく、『どういう住まい方をしたら楽しいか』を考えることが重要です。今回の応募テーマ『小さくても楽しい家』は応募者にとっても審査員にとっても、その『楽しさ』はさまざまでしたが、間取りを考えただけでは家にはなりません。家をどう使うか考えることが大事だと思います。
住まい方で言えば、欧米人の方が部屋をディスプレイして楽しむことが上手ですね。海外の若者の部屋はキチッと整理されてセンスが良い。日本の若者は住まい方の経験が少ないから、なんだか物置に住んでいるみたいになる人が多い気がします」日本人の家に対する考えの表れではないでしょうか。
和田さん:「日本には茶室という文化があったのに、機能性重視で、床の間や花、掛け軸、雪見障子などが消えてしまいました。楽しい仕掛けですよね。日本の建築家は最近まで欧米を追っていた傾向がありましたが、今は、日本の最前線の建築家は“和”を意識している人が多いです。それが日本人のアイデンティティであると気がついたのかもしれません。“和”の木造建築は、日本の木工技術の集大成とも言えます。付随する焼き物(瓦)や和紙(障子)、土壁などにも日本文化のエッセンスが全て詰まっています。
そういう原点をもう一度日本の家に入れてアップデートして行く際に、現状を壊すためのきっかけになるのがタイニーハウスではないかと思っています。小さいサイズの家を考えることで、『住まい方』から発想することができます。また、小さいからこそいろいろなことを考えないと成り立たないわけです。
より文化的な生活を楽しむための装置が、タイニーハウスなんじゃないでしょうか」
そんな想いが込められた「小さくても楽しい家」のデザイン審査は、舩木村長と和田さんを筆頭に、小菅村のデジファブでものづくりと指導にあたる若手のお2人、YADOKARIのさわだ・ウエスギも加わり、例年同様2日間に渡って丁寧に行われました。
ウエスギ:「3年目にして、このコンテストの注目度が上がって来ているのを感じます。いろいろな自治体から小菅村のタイニーハウスデザインコンテストについて聞かれるようになりましたし、『タイニーハウスの村=小菅村』というのが定着してきたように思います」
さわだ:「『楽しい家』というテーマの下で応募作品を見ると、やはり『コミュニケーション』を重要視している作品が多いなと思いました。家なんだけど、1人でこもって楽しむのではなく、どう開いて人とつながるかを考えている人が多いんですね。
それから、遊具の延長のような家もあり、いわゆる『別荘』は大人向けではなく、子どもが遊んで楽しい家でもいいんだという発見もありました」
では、2019年の審査結果を見てみましょう!
【最優秀賞】森を浴びる家
●審査員の選評
六角形の基礎に放物線アーチを二重にかけた、2階建てのテントのようなしつらえのタイニーハウスの提案。家の要素は真ん中の浴槽と梯子段のみ。テントのように見えるが十分家である。建築の構造形式から建築素材や生活様式の提案、ダブルスキンによる断熱仕様、アーチの集まった個所を活用した浴槽等、住まいの構成要素をアイデアあふれる提案で表現している。未来の住宅を予感させる傑出した作品である。夜景の写真が楽しくもあり印象的であった。満場一致で最優秀賞に選定された作品である。
【特別賞①】散歩しながら暮らす家
●審査員の選評
この作品は部屋をドーナツ状に配置し、真ん中に中庭を取り込んだ案である。自然との融合を考えた案は多数あるが、ほとんどは外とのつながりを意識したアイデアが多い中で、内側に取り込んだ点が評価された。自然の中であってもプライバシーは必要である。また家族同士が向き合うように暮らせる点にも配慮されている。中庭も家の一部として機能し、小さな空間を補完する役目を持っている。小さいながら即実現可能であり、質の高い生活を与えてくれそうな楽しい家であるところが評価された。
【特別賞②】わたしをまとう
●審査員の選評
楕円形の大屋根の下、家具化されたキッチン、テーブル、ベッド、トイレなどの住宅機能を壁際に沿わせ住居を形づくる半地下の建物は、昔の竪穴式住居を連想させる。竪穴式住居の現代版のような建物である。住まいの原型を感じさせ、機能分化された現代住宅を考えるとこれでも十分ではないかと思わせる。建築と家具の境界を融合させた楽しい提案である。
【小菅村長賞】SA House
●審査員の選評
住空間と設備空間を分離し、住空間の床を自由に配置できるように考案された案。これまでの建築は壁・床・天井など固定された部位で構成されるが、住空間の両側に配置された棚のような構造体が、自由な床の配置をもたらす。用途を変えたり、住む人に合わせたり、状況の変化に自由に対応できる建築であり、フレキシブルな考え方が評価された。空間が変化する家を考えただけでも楽しくなる。タイニーハウスならではの提案である。
【YADOKARI賞】小さな余畳の家
●審査員の選評
住空間を畳1畳から1.5畳ほどに設定し、既存の空き家とドッキングすることで住宅としての機能を完結しようとする提案。住空間がカプセルのような小空間と言う設定が、タイニーハウスや未来の住まいを想像させる。住まいが固定された形式だけでなく自由に移動できる形式になったら楽しい生活が送れるのではないか。既存住居をステーションとして余剰の家と合体する発想が評価された。既存の家の一部を借りる、まさにヤドカリのような家の形態である。
【小菅つくる座賞】バケバケハット
●審査員の選評
大きな空間の中に、住宅の機能を家具化して配置、状況に応じて移動させさまざまな住空間を作りだそうとする提案。家具を移動させることにより、室内がリビングやダイニングや寝室に変化する。このように室内の機能を家具化させた提案は過去にもあったが、可動させたところが評価された。これからの住まいの形態を予感させる提案である。20年後にはこれがふつうの家の形態になっているかもしれない。
【奨励賞】木樽のような十二角形の家で
●審査員の選評
この案は中学生からの提案である。住まいの共用部を1階に、2階に寝室をシンプルに配した形状。平面形状をあえて円形状にしたところに新鮮さを感じるのと、共用部は一室空間として家族の一体感を促す仕掛けになっている。小さくてもこれだけのことが出来るよと提案しているようだ。どのような動機で応募してくださったかは分からないが、コンテストに勇気をもらった提案である点を評価し選定された。
審査会の最後に、舩木村長に今年の総括を伺ってみました。
舩木村長:「応募者の皆さんには、タイニーハウスを自分で建てたいという夢もあるんですね。小菅村が、その夢を叶える架け橋になれたらと思います。今年は建築目線ではなく、アイデア目線での作品も多く、中学生の子も応募してくれて、こういう気持ちや才能を伸ばしてあげたいなぁと思いました。エントリーした人の数が700人を超えているのを見ると、タイニーハウスに興味のある人は世の中に本当にたくさんいて、今、風が吹いているなと感じます。今後もぜひ続けたいですね。
私は小菅村を『村ごとタイニーハウス』にしても面白いんじゃないかと思っています。村内の各所にタイニーハウスを作って、村を一周できる観光や宿泊の拠点にする。現在取り組んでいる小菅村の関係人口・交流人口のスポットとして、これからも力を注いでいきたいと思っています」
小菅村YLO会館の「小菅つくる座」で講師と作家活動をしている、若手の地域おこし協力隊の酒井さんと折出さんにも、感想を伺いました。2人は小菅村内のタイニーハウスに実際に住んで生活している実践者でもあります。
酒井さん:「コンテストの応募作の絵を書いている人自身が、これが現実化したら絶対楽しいだろうと確信しているのが伝わってくるものを選びました。小菅村に移住してくる時に、家と仕事がセットになっていることを自分も重視していたので、職住近接をタイニーハウスで叶えたいという発想には強く共感します」
折出さん:「タイニーハウスは、住んでいる人が、住みながら考えて家を変えていくものだと思います。自分自身も経験があるのですが、住んでいるうちに、住まい方のリテラシーが上がっていくと、じゃあここにこれが必要だ、と何かを足したりして形が変わっていく。その変えていくための構造が組み込まれている作品が、興味深かったですね」
タイニーハウス暮らしの実践者のお2人にとっても、刺激と発見の多いコンテストだったようです。
小菅村ではタイニーハウスの取り組み以外にも、さまざまな先進的取り組みを行っています。移住者増による定住人口だけでなく、地域外から地域と関わりを深める「関係人口」に着目し、「分数村民」の考え方を導入。村内での買い物や施設利用、村外の加盟店やネットショッピングの利用に応じてポイントが貯まる、1/1村民カード、1/2村民カードを発行したりもしているんですよ。
小菅村の魅力は、豊かな自然環境だけでなく、その一方で、次世代にも共感性の高い未来的な取り組みに、積極的に挑戦・推進していることではないでしょうか。のびのびとした空気と美しい森や川、その中で実現する未来の住まい方を体感しに、ぜひ小菅村を訪れてみましょう。
コンテスト授賞式の様子
7/24から8/4まで開催された「森とタイニーハウスとものづくり展」の中で、タイニーハウスデザインコンテスト2019の表彰式、YADOKARIさわだ・ウエスギよる講演会、タイニーハウスコンテスト作品展示会、タイニーハウスオープンハウス、デジファブ体験など盛り沢山な企画展として多くの方々にご来場を頂きました。
(取材執筆:角舞子)