スペイン、みんなで建てるわらの家|ナチュラルビルディング×暮らし

naturalbuilding

皆さんは「ナチュラルビルディング」という言葉をご存じでしょうか?

ナチュラルビルディングとは、その土地にある自然の材料を使い、できるだけ環境に負荷をかけない方法で家を建てることを言います。

「ナチュラルビルディング×暮らし」シリーズでは、ナチュラルビルディングに魅了された筆者が、いくつかの国を旅して見た家づくりとそこに住む人たちの暮らしをご紹介します。第1回は、スペインでストローベイルハウス(わらの家)を建てている家族の話です。

わらの家を建てよう

舞台はスペインの北部。澄んだ空気とビスケット色の家々と大地が特徴の、人口約500人の小さなアングエス(Angüés)という村です。

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歩いて15分で周りきれる小さな村

村の外れでストローベイルハウスを建てているディエゴとマイの夫婦と娘のドゥナの3人に出会いました。彼らは建築士や大工の友人のアドバイスを受けながら、すべての工程を自分たちで進めています。といっても、1軒の家を建てるのだから、人手は不可欠。彼らの取り組みに賛同し、ストローベイルハウスに興味を持った人たちが国内外から訪れ、家づくりに協力しています。

ストローベイルハウス。手前は家庭菜園
ストローベイルハウス。手前は家庭菜園

ストローベイルとは、家畜の飼料用に使われるブロック状に圧縮されたわらのこと。このわらと土を材料にして家を建てます。わらのブロックを積み上げて壁や構造体をつくり、上から土を塗って固めます。

わらは、防音、断熱、調湿性に優れた建築素材。上から土を塗ることで、それらの性能がより発揮され、さらに強度も高まります。わらの家としての強度や居住性は土の質や環境によって変わりますが、アングエスの土は粘土質のため、乾くととても強くなります。年間を通じて比較的乾燥している気候も、ストローベイルハウスに適しています。

柱、梁、屋根は木造。壁にわらブロックを積んでいく
柱、梁、屋根は木造。壁にわらブロックを積んでいく
壁の中に瓶を埋め込んで装飾兼採光に
壁の中に瓶を埋め込んで装飾兼採光に
強度を上げるために、土と水に少しのわらを混ぜてこねて壁に塗ります
強度を上げるために、土と水に少しのわらを混ぜてこねて壁に塗ります

村給村足、物々交換

エコフレンドリーな家づくりをするディエゴファミリー。家だけでなく、彼らの暮らし方にも魅力がありました。

普段の食事も食材もできるだけ自分たちの手で作ります。建設中の家の前には同時進行で作られている畑があり、日々の食卓に並ぶ野菜や、ハーブ類。果樹にサボテンが育てられています。そこで採れた食材は、家族で使う分と、友人や近隣、作業を手伝ってもらったお礼に渡すのだとか。

「時間はかかるけど、少しずつ種類を増やしていきたいね」そう話しながら、広々とした自慢の菜園を紹介してくれました。

今日採れた野菜たちを使って夕食を作ります
今日採れた野菜たちを使って夕食を作ります

ある日「今日は、友達を手伝いに行くから作業はお休みね」と言われ、ディエゴと一緒についていくと、そこには小さなワイン蔵が。その日は友人のワイン作りを手伝って、帰りに友人が仕留めた猪で作った自家製チョリソーをもらって帰りました。

その夜は、そのチョリソーを持って別のお宅への夕食会に参加。特別なことがなくても、家族ぐるみで一緒に夕食を食べたりすることがよくあるのだそうです。

友人が作った自慢のトルティーヤ(スペイン風オムレツ)とチョリソーとワインを味わいながら、夜が更けても話は尽きません。とても豊かな時間が過ぎていました。

ゆっくりと過ぎる時間
ゆっくりと過ぎる時間

有機的な関係の中で生まれる家

家づくりに協力するために、これまでここを訪れた人は数えきれないほど。筆者が滞在した1週間のあいだにもさまざまな人が訪れました。

訪れた人たちはその日の作業を無償で手伝います。その代わり、青空の下で食べるおいしい昼食や、建築に関する知識、人との出会いを得ることができます。金銭の交換こそないけれど、手伝う方も手伝ってもらう方も多くのものを得ています。実際、ここでの1週間はとても楽しく充実していました。多くの人が泊りがけで手伝っていくのも納得です(ちなみに宿泊も無料!)。

作業で体を動かした後のお昼は特別おいしい
作業で体を動かした後のお昼は特別おいしい

ストローベイルハウスという有機的な建築は、それと同じくらい有機的な人間関係の中で作られていました。家づくりを通じて生まれた人々の繋がりは、きっと家が完成した後も続いていくでしょう。

(Photo=佐野 達哉)