建築家のいない建築。イラン・石の家と土の家|ナチュラルビルディング×暮らし

ナチュラルビルディングとは、その土地にある自然の材料を使い、できるだけ環境に負荷をかけない方法で家を建てること。本連載では、各地にある自然素材の家づくりと、そこにある人々の暮らしを紹介しています。
★連載第1回⇒スペイン、みんなで建てるわらの家
★連載第2回⇒インドネシアのバンブーハウス
第3回目の舞台は、イラン北西部。渇いた大地に建てられた、石の家と土の家のお話です。
ヴァナキュラー建築
『ヴァナキュラー建築』という言葉をご存知でしょうか?
その土地の気候風土に合わせて生まれ、培われてきた、土着的・伝統的な建物。例えば、東南アジアの高床式住居や、トルコなどにある洞窟住居などが、ヴァナキュラー建築です。
デザイナーがデザインしたものではなく、建築家が設計したものでもありません。そこに住む人たちが、何百年と営まれてきた暮らしに合わせ、自分たちで建てた家。それは、意図されなくても、ナチュラルビルディングになっています。
石の家
イランのヴァナキュラー建築。
ひとつ目は、石の家が立ち並ぶパランガン村(Palangan)。首都テヘランから西へ600km、イラクとの国境に近いクルディスタン地方にあります。
川を挟んだ渓谷の両側に、地形を活かした家が建ち並びます。家の壁は石を積み上げてつくり、屋根を支える梁は木製です。
斜面に沿って建てられている為、下の家の屋根が、上の家の庭になります。夕方になると、村の人たちは下に建つ家の屋根に出て、おしゃべりをしたり、景色を眺めたりと、ゆっくりと時間を過ごすのです。
美しい渓谷の村に、流れる川の音と子供たちの遊び声、そしてときどきロバの鳴き声が響きます。




土の家
続いて、土を材料にしたヴァナキュラー建築を紹介します。
テヘランから南へ300km、荒野の中に現れる緑豊かな渓谷、その中にあるアブヤネ村(Abyaneh)。そこにも、ヴァナキュラー建築があります。赤土で出来た日干しレンガを積み上げ、その上からさらに土を塗り固めた壁。窓枠や、柱、屋根を支える梁、内装の一部などには、木材が使われています。
この村だけではなく、イランでは、日干しレンガを材料にした家がよく見られます。土に水と藁を混ぜ、枠に入れて整形し天日で固めて作る日干しレンガは、乾燥した土地に適した、シンプルな材料です。



ヴァナキュラー建築の村に暮らす人
イランの人たちは、ホスピタリティーに溢れています。村を歩いていても、「ウチにおいでよー」「チャイ(お茶)でも飲んでいきな」という具合によく声を掛けられます。
お言葉に甘えて家の中に招いてもらうと、外観からの想像以上に快適な空間が広がっていました。下の写真のお宅は、古い家の内部を改装して新しくしたそう。コンクリートや鉄筋を使っています。村を歩いていても、完全に自然素材でつくられた家は実は少ないのです。
時代の流れと施工のコストに合わせ、無理のない程度に、家づくりの伝統を守っている。そんな印象を受けました。


自慢の果樹園も案内してもらいました。
「何も手入れしなくても美味しいのが山ほど採れるんだよ」
クワ、アンズ、サクランボ、スモモ、アーモンド。どれも美味しく、自然の恵みを感じます。



長い間自然と共存してきた暮らしは、本人たちが意識していなくても、持続可能な営みです。それが時代の流れによって、少しずつ村の暮らしも変わってきているようです。
これからどのように歩むのか、見守っていきたいと思います。