【タイニーハウスに行ってみた】先駆者たちのタイニーハウス村(後編)
どんな世界でも、前例のない新しいことを始めるパイオニアには、苦労がつきものです。タイニーハウス生活も例外ではありません。前回の記事では、オランダのタイニーハウス・ムーブメントをけん引する女性、マリョレインさんと彼女が設立した住宅協同組合の活躍をお伝えしていました。
一見すると至極順調な彼女たちのタイニーハウス生活ですが、その存続すらあやぶまれる危機に何度も遭遇してきているのです。今回の後編では、彼女たちが乗り越えた危機の一部をご紹介したいと思います。
【危機その1】地元水道局からの訴訟
2018年3月にマリョレインさんと3名の女性たちが設立した住宅協同組合の「Tiny House Alkmaar」。マリョレインさんが既にアルクマールの空き地に2年住んだ実績を踏まえ、アルクマールの自治体は「Tiny House Alkmaar」に対し「最大5名のメンバーが、5年間その場所に住み続けることができる」という許可を下したのです。
けれど、それに対し思わぬ方向から横やりが入りました。それは、マリョレインさんたちのタイニーハウスのすぐ近くにある汚水処理施設からの異議申し立て。施設を管理する水道局(hoogheemraadschap)が、「汚水処理場の近くに人が住むと、その臭いに対してクレームが入るかもしれないから立ち退いてほしい」と、「クレームを未然に防ぐための訴え」を裁判所におこしたのです。見えにくいですが、その汚水処理施設の一部が上の画像のマリョレインさんの家の左奥に写っています。
その訴えに驚いたマリョレインさんたちでしたが、4月に実施された裁判には関係者全員で出席。現地メディアも取材に訪れ、オランダのタイニーハウス・ムーブメントの今後を左右すると言っても過言ではない裁判の行方を見守りました。
結果として、裁判所は水道局の訴えを棄却しました。マリョレインさんが既に2年同じ場所に住み、臭いに対する違和感を覚えていなかったということから、水道局の懸念する事態にはならないと判断されたのです
(私もマリョレインさんの住む場所を2度訪れましたが、異臭は全く感じませんでした)。
この裁判所の判断を得て、「Tiny House Alkmaar」はプロジェクトを継続できることになったのです。その結果を聞いた瞬間、マリョレインさんたちは涙を流して抱き合ったのだとか。
【危機その2】水不足で消防車出動
もうひとつの困難は、ライフラインの確保に関するトラブルでした。「Tiny House Alkmaar」の家たちは、基本的にすべてトレーラーハウスであり、オフグリッド・ハウスです。オフグリッドとは、電力会社が提供する送電網から離れ、主に自然エネルギーを活用し独自に発電をすることを意味しています。
電気のみならず、水に関しても上下水道から独立しているタイニーハウスたち。飲料水や生活用水も独自調達です。そのため、マリョレインさんたちはみんな雨水をろ過して使用しています。形は異なっても、全員が独自の水タンクを所有しているのです。
ところが、2018年春から夏にかけてのオランダは、雨が少なく降水量不足。そんな乾期に引っ越してきてしまったマリヤさんとマールースさんのタンクには、生活を営めるほどの水がなかなか溜まりませんでした。
そんな時に彼女たちの生活を支えてくれたのは、地元の消防団。水は生命維持にもかかわるので、要請があれば出動してくれるのです。心強いですね!
これは、マールースさんの貯水タンクに給水してくれている様子。彼女の家の雨水ろ過装置は家のサイドに収納されていますが、1200リットルの容量のある貯水タンクは床下にあるのです。
消防団のおかげで、とりあえずの生活を営めるだけの水を確保できた「Tiny House Alkmaar」の住人たち。けれど、オランダでは依然として降雨量不足なので、まだシャワーの使用には二の足を踏んでいるのだそう。ご実家や友人の家でシャワーを借りているのだとか。早く彼女たちの水不足が解消されてほしいと思います。
裁判も消防団への出動要請も、なかなか大変な経験ですね。けれど、オランダにおけるタイニーハウス生活のパイオニア的存在の彼女たちの苦労の経験は、「小さな暮らし」を夢見る人々にとってはこの上ない前例です。これから「Tiny House Alkmaar」に引っ越してくる予定の4人目と5人目のメンバーも共に、ぜひ全員で力を合わせて困難を乗り越えていってほしいと切に願います。そして「タイニーハウス・オーケストラ」も、彼女たちの活動を陰ながら応援していきたいと思います。