ロンドンの北西に位置する閑静な居住区に、近未来の住宅が現れた。その佇まいはジブリ映画の『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』をも想起させる。
「Sainsbury’s(セインズベリーズ)」という大手チェーンのスーパーマーケットが、カムデンタウンに新規店舗を出店する際、その隣りに集合住宅が欲しいと考えた。白羽の矢が立ったのが、Grimshaw Architectsというイギリスの建築事務所。議論を重ねた結果、工業デザインを住宅に持ち込むというアイデアを採用した集合住宅が完成した。
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筆者の夫はレストランが気に入ると、その店を様々な角度から楽しもうとして、ワイングラスを片手にあちこちの席に座る癖があった。この家を見たときに思わず彼のこの行動を思い出してしまった。やはり美しい眺めを眼の前にすると人はつい欲張りになってしまうのだろうか。
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自宅、ラグジュアリー、ダウンサイジング、アドベンチャー。これらのキーワードを全部かなえてくれる極上のトレーラーホームがアメリカ産の「ドレイク (Drake)」。2012年からトレーラーでの暮らしを続けてきた夫婦の実体験からの知恵と愛情が、その美しいデザインにたっぷりと注ぎ込まれている。
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子育て世代からの絶大な支持を得て利用者と提携保育園が増え続けている「保育園留学」。
このサービスを核に、自治体とも連携し100年先も続く豊かな地域づくりの取り組みも開始した株式会社キッチハイク代表取締役の山本雅也氏と、YADOKARIの上杉、保育園留学を家族で体験した河村による対談後編。
このサービスの先に待つ希望的な未来の社会の姿とは?


YADOKARI河村が娘を保育園留学させた「大森さくら保育園」は、島根県大森町の中心部に建つ武家屋敷の敷地内にある。広い園庭、歴史あるまち並み、豊かな自然とまちの人々の温かな見守りの中で暮らしと子育てを体験できる(写真提供:保育園留学)
「みんな違ってみんな良い」を地で行く地域の保育園の魅力
上杉: 河村さんは島根県の石見銀山のまちに保育園留学したんですよね?
河村: ええ。2023年11月、大森町という人口400人ほどの谷間のまちにある「大森さくら保育園」に約2週間、娘を留学させました。園から歩いて数分の所にほぼ留学専用の一棟貸しの宿泊所があり、そこに家族で滞在しながら。家自体も留学を想定されていますし、人やまちが暮らしの延長になっているため、子どもとの生活からリモートワークまで問題なく素晴らしい時間を過ごせました。
上杉: 娘さんは初日からなじめましたか?
河村: 初日は最初だけ僕ら両親も一緒に部屋に入り、娘が慣れてきた頃を見計らってそっと抜けましたが、その後隙間から覗いた様子ではめちゃめちゃ楽しそうに過ごしてました。初日の朝だけぐずっていたんですが、あとは総じてずっと楽しそうでしたね。受け入れ経験の豊富な園だったので安心して預けられました。
山本さん(以下敬称略): 子どもが楽しそうだったり、好奇心が湧いてきているのが分かると、親も楽しくなりますよね。未就学児にとっての留学、つまりふだんとは違うコミュニティや地域に飛び込むことは、僕らが思っているほど心配には及ばない気がするんです。小学生になると自我も出てくるのでストレスもあるかもしれませんが、未就学児にはまだそういうものもなく、意外と本人は楽しんでいる。
河村: まさに。連れていく前はあれやこれや心配ごともあったんですが、行ってみると園やまちのみんなとすぐ打ち解けていきましたね。未就学児は「留学でこれを学ぶぞ」みたいなスタンスで行っているわけでもないですし、気負わずでいいんですよね(笑)

熊本県天草市の「もぐし海のこども園」は、海のそばで子育てをする醍醐味を存分に味わえる。園内には既成の遊具はなく、子どもたちは五感を目一杯使って自然と戯れる(写真提供:保育園留学)
山本: 現在、全国に38の提携保育園(※2023年12月時点)がありますが、どこも自然環境が豊かだったり、園庭が広かったりと、まずハード面が恵まれています。
園の先生方の子どもへの向き合い方も素晴らしく、自然あふれる地域に流れている時間や、その環境の中で育まれてきた地域の文化が、そうした向き合い方につながっているように感じます。
例えば僕が最初に娘を留学させた北海道厚沢部町の保育園「はぜる」では園児の主体性を育てる保育を行なっていて、決まったカリキュラムをこなすのではなく、毎朝「今日は何をする?」から始め、子どものやりたいことを先生たちが実現していくスタイル。
ある時、子どもたちが「バナナを育てたい」と言い出し、普通なら「北海道では寒いから育たないよ」で終わりそうなところを、バナナの苗木を持ってきて育て方をみんなで勉強するなど、子どものとんでもない発想を実現していく先生方の柔軟性や遊び心がすごいと思いました。

岐阜県美濃市の「美濃保育園」は地域のお寺が運営。まちの面積の約80%が森林という美濃市は「木育」も盛んで、園の玩具にも地元木材が使われている(写真提供:保育園留学)
上杉: 子どもの自発的な好奇心を育てるような「先生の向き合い方」を、地域や自然環境が育んでいるのではないか、と。
山本: はい。保育園は本当に地域性が豊かだなと感じるんですよね。岐阜県の「美濃保育園」はお寺が運営していてとても大らかですし、新潟県南魚沼市の「金城幼稚園・保育園」は園の前が一面の田んぼで、みんなで田植えや収穫をしたお米をおむすびにして食べる体験ができます。熊本県天草市の「もぐし海のこども園」は、イルカもやってくるきれいな海の近くで、海辺ならではの遊びを存分に楽しめます。保育園留学の提携先は「みんな違ってみんな良い」を地で行く多様性があり、どこも全部良いなと思えてしまいます。実際、リピーターの約半分は同じ保育園を選び、後の半分は別の保育園への留学を選んでいるんですよ。
親にとっては、人生や家族の暮らしを見直す時間
上杉: 山本さんは保育園留学をきっかけに、その後北海道へ移住もされましたが、子育てだけでなく家族の暮らしにおいても何か価値観の変化があったんですか?
山本: 娘を初めて厚沢部町に留学させた当時を思い返すと、「人生を考え直す時間」だったという気がします。妻とも改めてゆっくり話せましたし、「もし、こういうまちに住んだらどうなるだろう? 都会での今の暮らしでいいんだっけ?」と抜本的に考える時間になりました。
抜本的でないことは都会の日常の中でも考えられるんですよ。例えば電動自転車を買うかとか、子どもの靴をサブスクにするかとか。そういう局所的な解は都会にあふれているんだけど、一つ一つの課題を個別の方法で解決しようとすると時間もお金もかかり疲れてしまうし、その解の耐用年数が意外と短かったりする。
保育園留学をした時点ではまさか移住するとは思っていませんでしたが、自然の中で、家族の暮らしを局所解のもう一つ上のレイヤーで見つめることができたのが良かったです。
上杉: そこから事業が立ち上がって…という背景もあったとは思いますが、実際に移住に踏み切った理由は?
山本: 都会の暮らしがプラスマイナスで見て、もうマイナスに振れてるなと感じたからです。希望の保育園の待機が10ヶ月も続いていて数年間このままの可能性もありましたし、排気ガスで娘が喘息気味でしたし、それなら引っ越そうと妻と決めました。娘の事情を最優先に決断しましたが、庭で焚き火をしたいとか、もっと大きな車で出かけたいとか、都会では制約があってできなかったことを、移住を機に思い切り楽しんでいます。
コロナ禍を経て社会は圧倒的に変わったのに、それまでのライフスタイルを地続きにズルズルとやってしまっていることに疑問を感じていたし、僕と同じように子育て世代は特に違和感を感じているんじゃないかな。保育園留学は、その解決の提案でもあったのかもしれない。「自分の子どもが保育園の間は違う地域に住んでみよう」みたいに、人生のステージに合わせた「やわらかな定住」は弾力性があっていいなと保育園留学をしてみて感じました。
河村: 親からすると「そうそう、こんな暮らしや子育てがしたかったんだよ!」を一時的にでもリアルに体験できるサービスですよね。僕も含め子育て世代が違和感を抱えているのは確かだと思うんですが、「でもね」と働く場所などいろんな制限がかかって重い腰が上がらない所に良いきっかけをくれる。2週間でリフレッシュするもよし、移住の検証をするもよし、家族や子供との時間を思いきり楽しむのもよし、企業で働く子育て世代だとなかなかできない部分を解放してくれるのも良い。いろんな使い方ができるサービスなので、個人的には子育て世代の旅は全て保育園留学に置き換えてもいいぐらいだと思っています(笑)
上杉: 保育園留学は高次元のソリューションアイデアなのかもしれないですね。自然の中へ飛び込んで本当にしたい暮らしにアジャストしたら、今まで問題だと思っていたことが問題ではなくなる。局所解ではなくもう一つ上の次元で変化のきっかけをつくりながら多くの問題を一撃解決してしまう所も、このサービスの面白さですね。

美濃保育園の近くにあるコワーキング施設。子どもを園に預けている間、Wi-Fiなどの環境が整った場所で安心して仕事ができるのも保育園留学の人気の理由の一つ(写真提供:保育園留学)
家族ぐるみで地域に入ることで生まれる価値
上杉: 東京生まれで都会の暮らしが長かった山本さんが、保育園留学や移住という形で地域に身を置いて、どんなことを感じていますか?
山本: 大きく二つあって、一つ目は、留学することが地域のためになっていると感じます。都会に住んでいると、少子高齢化が進んでいて地域の産業や文化、ひいてはまちそのものがなくなるという危機感が今ひとつ分からないのですが、地域に行ってみると本当に人がいない。厚沢部町の場合は子どもが毎年約10人ずつ減ってきていて、このまま10年も経つとほとんどいなくなる可能性がある。そういうことに気づけます。近年はSDGsなどの潮流もあり、一つ一つのアクションが誰の役に立っているかとか、誰かを不当に苦しめていないかということが物事の判断基準の一つになってきた中、保育園留学は関係人口や移住の増加という形で社会的なソリューションが組み込まれている事業なので、利用している方も気持ちがいいんです。「このまちに来てくれてありがとう!」って感謝されるとうれしくなる。
もう一つ感じるのは、地域の人が自分のまちに対する自信を高めるきっかけになっていること。地域の誇りやシビックプライドと言われるものです。留学する人たちから見ればすごく豊かなまちなのに、「うちの地域には何にもない」と思っている地元住民も多い中で、保育園留学の提携先になると、「こんなにこのまちを求めて来てくれる人がいるんだ、ここはやっぱり素敵なんだ」と確信できる。こうした自信がまちの未来にもつながるように思います。
上杉: 留学する側も、迎える側もシンプルですね。関係人口やソーシャルキャピタルが目的になるんじゃなくて、「行って良かった」「来てくれて良かった」と素直に感謝し合えているのがとても良い。
山本: 保育園が外部と地域とのハブになっているからでしょうね、家族ぐるみで自然体で地域に入っていけます。初めて保育園留学した時、娘とアスパラ農家で収穫体験をさせてもらったり、地元婦人会の方が開く郷土料理の教室に参加させてもらったりしたんですが、2回目に留学した時に僕らのことを覚えていてくれてすごくうれしかった。子どもをきっかけに新しい人と出会い、つながり、また会いたいと思う人が自然とできる。

(写真提供:保育園留学)
河村: 僕も保育園を起点に出会いが始まったなと感じています。大森町は約400人が谷地形の中に住んでいるというまちのサイズ感もあり、普通に暮らしているだけで地域の人とつながっていく感じがあります。子どもにとっても、ちょうどいい規模感のまちだと思いました。朝、保育園に娘を送っていく道中でお決まりの人に会って「おはようございます!」と大きな声で挨拶して、「今日は保育園?」みたいな会話が始まって。田舎だと手に職を持っている人が多く、保育園の保護者の中にカフェをやっているとか、自然農で農業をやっているとか、そこから「自然農ってどんな様子か畑見せてもらえますか?」とさらにつながっていく。
山本: 都会には人は大勢いるけれど挨拶したりしないですよね。地域だとお互いに名前と顔が一致していて、会えば挨拶もして清々しい気持ちになる。子どもにとっても、絵本みたいに全ての登場人物の名前が知れているというのは理解しやすい環境だと思います。
河村:人口が200万人、300万人のまちでは、地域をなかなか把握できないですよね。田舎に行くと、地名とその由来になった地形や歴史などが今もそのまま守られていて、地域の人たちもその範囲を共有していて、そういうことも自分が暮らしている地域を体感できる「手触り」につながっているのかなと感じました。
子どもの新しい可能性が見えてくる
山本: この流れで行くと「地域っていいよね!」「じゃあ、元々地域に住んでいる子どもは最高だね!」という話にもなりそうなんですが、そこは僕は少しねじれていると見ていて、保育園留学だからこそ意味があると思っているんです。つまり、自分がふだん暮らしている都会のまちやコミュニティを抜け出して、全く別の土地やコミュニティへ飛び込むことが、子どもにとって大きな意味をなしている。田舎の子の普通は、都会の子の特別。異文化交流のように、価値の非対称性からメリットが生まれている所がポイントだと思います。
河村: それはすごく実感しています。地元の子は「土」、留学で外から入ってくる子は「風」みたいな関係だなと観察していて感じました。大森の子は面倒見がよくて、留学できた子との付き合い方がうまく、さすがな土壌ができているなと。そこにうちみたいに新しい子が風としてやってくることでまた変化が生じて良い土、土壌が作られる。お互いにとってすごく良いサイクルだと思います。
それと、留学する側としては、園でいつもと違う先生が子どもを見てくれることで、セカンドオピニオンみたいに子どもの違う性質を見つけてくれるのも良い。違う環境では子どもの違う面が出てくるので多くの気づきがありました。娘は慣れていない場所が苦手だと思っていたんですが、先生からは「そんなことないですよ、初日からみんなと仲良くしてますよ」とか、引っ込み思案な面が強いと思っていたのが「すごいひょうきんですね」とフィードバックをいただき、娘の新たな一面を発見できた。元々いた場所も捨てずに、こういった違った視点で子供を見てくれる新しい環境も体験できるので、定期的に利用したいユーザーも多いだろうと思います。
山本: 子どもも子どもなりに意外と自己の一貫性を持っているから、急に昨日とは違う自分にはなれない所を、保育園留学すると全く違う環境や友達の中で「デビュー」ができて、新しい面が解放されるんですよね。都市部だと「あれダメこれダメ」の枠が強いですが、それがバーンと外れた環境と保育スタイルの中で、子ども自身が自分の枠も外して可能性を引き出している感じはあります。
上杉: みんな保育園留学に行って、我が子の可能性に気づきましょう(笑)。子どもの未来に制限をかけたくないと思っている親が多い中で、子どもの多様な側面や家族の在り方を改めて見つめ直すきっかけになっているんですね。
保育園留学の先にある、みんなが人生を謳歌できる未来
上杉: 保育園留学を通じて山本さん自ら暮らしが変わっていったりする中で、この事業の今後の展望や、地域とのこれからの関わり方については、どんなふうにお考えですか?
山本: 保育園留学は一言で言うと「希望」だと思っています。家族の未来、子どもの未来、地域の未来…そしてその先にもまだ何かがありそうな感じがするのが面白い。少年漫画の連載みたいに、続きがありそうな気がするんです。目線は100年先だと思って取り組んでいます。地域消滅など悲観的な話が多い中で、保育園留学とその周辺で起きていることに希望を感じています。
ふるさと納税の返礼品で保育園留学の費用の一部が払える「留学先納税」や、留学専用の子育て家族に特化した滞在施設「保育園留学の寮」、「ダイバーシティインストラクター」という外国人の先生を地域の園に登用する仕組み、子育て期間に中長期で地域に住む「やわらかな定住」を実現していく取り組みなど、保育園留学を起点にいろいろな方向へ可能性が伸びていくのが楽しみです。

(写真提供:保育園留学)
上杉: このサービスをきっかけに「生き方の再編集」をしようと思った人たちの周辺で提供できることが、これからたくさん出てくるということですね。それが100年先の地域や家族の在り方をつくっていくことにつながる。
山本: キッチハイクでは「人生を謳歌しよう」ということを、社員のスタンスとして思い切り言っているんです。「いろんなしがらみや制約がある中でも、“本当はこうありたいよね”をやってみるチャンスだよ」というのが、保育園留学の裏側にあるもう一つのメッセージかもしれません。みんなが人生を謳歌できる社会をつくっていくことを、僕らはやりたい。中でもまずは子育て世代に対するサービスを優先的に。なぜなら、子どもは未来そのものですから。
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保育園留学を通じて得られるのは、子どもの可能性を引き出すのびのびとした子育ての機会だけでなく、都会の日常の中でずっと棚上げしてきた人生や家族の在り方を根源的に見直し、人とのつながりの中で新たな生き方を試す時間でもある。自然に包まれながら家族ごと地域に中長期で滞在するうちに、地域が抱える問題に対する自分なりの関わり方も発見でき、ほしい未来を地域と共に創造していく一員にもなれる。
本当に謳歌したい人生を自ら描き創り出すためにも、このサービスを試してみてはいかがだろうか。
前編を読む>>
※今回の保育園留学記事は、観光庁による企業ニーズに即したワーケーション推進に向けた実証事業の一環として作成しました。

1〜2週間家族で地域に滞在する、子ども主役の暮らし体験「保育園留学」。
開始から2年を経た2024年1月時点で累計利用者数は大人・子どもを合わせて約1600人、450家族を突破し、多様な地域の保育園に留学しているという。
この注目のサービスの運営元である株式会社キッチハイク代表取締役の山本雅也氏とYADOKARIの上杉、そして保育園留学を家族で体験した河村が対談を行った。このサービスがつくる新しい世界とは? 前編では、サービス誕生の背景とその魅力に迫る。

画像提供:保育園留学
家族ごと自然豊かな地方へ留学
都市部で子育てをする人なら「子どもにとってこの環境は本当に良いのか」と、一度ならず疑問を感じたことがあるのではないだろうか。排気ガスや騒音、いくら待っても入園できない保育園、外遊びが不可能なほどの酷暑、近隣との希薄な人間関係…。コロナ禍を経て社会が変わり、通勤に縛られなくても良くなった今こそ、子育てや暮らしの新たな選択肢を本気で模索してみる好機かもしれない。
2021年11月に誕生した保育園留学は、こうした子育ての問題に画期的なソリューションをもたらすサービスだ。1〜2週間子どもが保育園にのびのび通えて、親は働きながら多様な地域に家族で滞在できる、「子ども主役の暮らし体験」である。
在園していない未就学児でも受け入れをしてくれるさまざまな地方の保育施設をWebサイトから選んで、子どもを通わせることができるだけでなく、保育園のある地域の公共施設等を活用した宿泊施設に家族で滞在し、親はリモートワークなどをしながら、その地域での暮らしを1〜2週間ほど一緒に体験できるのだ。
保育園留学サイト内の「
留学先一覧」から簡単に子どもの預け先・滞在先を選べる。園の特徴と共に、その地域での暮らしの環境や宿泊施設の概要、必要な予算も紹介されている。(画像:保育園留学Webサイトより)
子どもには、幼少期に大自然に触れて心身ともに健やかに育つ環境を。家族には、仕事も子育てもしながら多様な選択肢を。過疎地域には、子育て家族とのつながりと地域経済貢献をもたらす統合的な解決策であることも大きな魅力だ。
利用者は拡大し続けており、リピート希望率も90%を超えているという。提携先は2023年12月時点で、全国40地域にまで広がった。特に都市部で子育て中の30代・40代に圧倒的な共感を呼んでいるが、それもそのはず、このサービスはキッチハイク代表 山本さん自身の切実なニーズから生まれたのだ。

山本雅也さん/株式会社キッチハイク代表取締役CEO。1985年東京都生まれ。20代の時、450日かけて世界各国の見知らぬ家を訪ね一緒にごはんを食べる社会実験を行い「食と暮らしでつながる未来は豊かだ」と確信。その想いから2012年、共同創業者の藤崎祥見さんと共に同社を設立。同時期に創業したYADOKARIの上杉・さわだとは当時から刺激を与え合う仲。(写真提供:保育園留学)
山本さん自身の疑問から、娘を北海道の園へ
上杉: 保育園留学は、山本さんの実体験から生まれたサービスだそうですが、どのような経緯で始まったんですか?
山本さん(以下敬称略): 実は、このサービスが立ち上がる前の2021年春に、我が家の娘が北海道の保育園に留学したのが始まりなんです。当時は横浜駅の近くに住んでおり、市内の保育園を調べ尽くしましたが希望する園はいっぱいで、何ヶ月待っても空きが出ない状態。その間、園庭のない保育園に通わせながら、「このまま都会で子育てしてていいのかな?」と疑問が湧きました。週末はどこかへ連れ出すとしても、平日は難しい。でも娘にとって週5日間過ごす平日が生活の大半です。しかも娘に喘息の症状が出始めて、もっと良い環境はないだろうかと真剣に考え始めました。

山本さんが最初に娘を留学させた北海道厚沢部町の認定こども園「はぜる」。大自然の中の広大な園庭や地元木材の園舎、遊具で子どもたちがのびのびと遊べる。園庭の一角にある菜園では収穫体験も。(写真提供:保育園留学)
山本: そんな時、偶然インターネットで見つけたのが北海道厚沢部(あっさぶ)町の認定こども園「はぜる」の写真。雷に打たれたように、ひと目で「是が非でも娘をここに通わせたい!」と思いました。
一時預かり保育の仕組みを使えば、それが可能であることも調べ尽くして知っていたので、翌朝すぐに厚沢部町の役場に相談したところ、「制度上は大丈夫ですね」と。厚沢部町は過疎化がかなり進んでいて、この「はぜる」も2019年に移住定住の促進策の一つとして生まれた施設。周辺には移住のお試し住宅もありましたが入居者はいない状況だったので、「町としては前例のない滞在の仕方ですがいいですよ」と快諾してくださいました。それが全ての始まりです。

山本家が初めて留学した時の写真。大自然や、いつもとは違う仲間との遊びが、我が子のまだ見ぬ表情や可能性を引き出す。(写真提供:保育園留学)
滞在中に見えてきた地域の課題と事業の構想
上杉: 急展開ですね。それで実際にご家族で現地へ行ってみて、いかがでしたか?
山本: とにかく娘が楽しそうだった、という一言に尽きます。それが親としては何よりうれしかった。子どもが主役の留学だなと心底思い、「保育園留学」という言葉も自然に降りてきました。ワーケーションなどの切り口もあるけれど、親にとっては「我が子が楽しそう」ということに勝る理由はないと思いました。
上杉: 本当にその通りですよね。そこからどんなふうにサービスが形づくられていったんですか?
山本: 厚沢部町に滞在している3週間ほどの間、役場の担当者の方と何度もビールを飲んだり、ラーメンを食べたりしながらお話しするうちに、保育園留学が地域の未来を切り拓いていく大きな可能性を持っていることに気づいていったんです。
きっかけは娘ファーストでしたが、地域に実際に入ってみることで、事業の構想がクリアに見えてきました。そこで滞在期間中に事業計画書をつくって役場に提案したところ、「やりましょう!」と力強く賛同いただけて、動きが本格化していきました。

北海道厚沢部町の認定こども園「はぜる」の遊戯室(写真提供:保育園留学)
上杉: 偶発的に始まっていった、という感じでしょうか?
山本: そうですね、偶発的でもあり、必然的でもあったと思います。娘が生まれて半年後くらいにコロナ禍になり、他の子どもとの距離をとりつつ無理やり遊ばせるなど不自然な子育て環境に困惑する一方で、妻も含めて僕たち親の働き方も変わってきて自宅でフルリモートで仕事するようになった。「何かおかしい。同じことをもっと自然豊かな中でやれる方法があるはずだ」と思い始めました。こうした都市部の子育て側の環境や働き方の変化と、地域の過疎や少子化、移住促進などの流れがタイミング良く交わった所に、このサービスが生まれたと思います。

(写真提供:保育園留学)
保育園留学が未来に希望と価値を与え続ける
上杉: 事業開始から2年ほど経ちましたが、この先はどのような展開を考えていらっしゃいますか?
山本: はい、これから特に3つの取り組みに力を入れていこうとしています。1つ目は、保育園留学の体験価値を最大化して、その後の定住の検討にもつながるような「寮」を用意しました。
住宅メーカーのBESSさんの協力を得て、現在2棟の平屋を建設中です。設計にあたっては「はぜる」の子どもたちや保育士さんの声を取り入れて、例えば洗面台の高さを低くしたり、室内の仕切りをできるだけ減らして広々としたスペースを確保するなど、子どもファーストの空間づくりを行なっています。
保育園留学に来たご家族に、この寮でまずは1週間〜2週間ほど、地域での新しい暮らしに楽しくチャレンジしていただき、園や厚沢部町が気に入って「ここに住みたい!」と思うようになったご家族には、賃貸住宅としても使っていただけるようになる予定です。
例えば子どもが一定の年齢になるまではその地域に住んで、その先はまた住む街を変えるかもしれない。ライフステージやライフスタイルの変化に合わせて中長期で地域に住む「やわらかな定住」も、これからの僕たちの暮らし方の選択肢として十分あり得ると思うんです。

保育園留学の2棟の寮は、厚沢部町の特産品から「アスパラ」と「とうきび」とそれぞれ名前がついている。子どもを介してお隣同士の交流も生まれるかもしれない。(画像提供:保育園留学)

(画像提供:保育園留学)
山本: 2つ目は、留学先納税です。留学先納税は、ふるさと納税の制度を使い、返礼品で保育園留学の費用の一部を支払うことができる仕組みです。ご家族がより留学に行きやすくなり、同時にまちを応援することができるとりくみを始めています。
3つ目は、厚沢部町と一緒に次の100年を創造していく取り組みです。保育園留学を核に、関係人口を増やし経済効果を高めていくために、厚沢部町とキッチハイクは2023年8月に連携協定を結びました。地域、子育て、暮らし方。これら3つの方向の未来に価値と希望を与え続けるのが、保育園留学だと思っています。我ながら良い事業だなと(笑)。
上杉: 本当に、ジェラシーを感じるぐらい良い事業だと思います(笑)。ご自身の娘さんへの愛情から始まるストーリーも山本さんらしいし、自治体と一緒に未来をつくっていくのもキッチハイクさんらしいですよね。

後編はいよいよ、保育園留学を体験したYADOKARI 河村の現地での実感や、厚沢部町がすっかり気に入って2022年に移住してしまった山本さん一家のその後の様子も交えながら、3名が子育てと暮らしと地域の未来について対話を深める。
後編へ続く>>

自然の中の暮らしを実現するタイニーハウス「ROADIE」。
これまでと一味違う、三角屋根の温かみ溢れるデザインに仕上がったこのモデルは、自然の中での暮らしを誰よりも愛し、チーム内随一のキャンパーでもあるメンバー、石橋慎司さんが手掛けたYADOKARIのオリジナルタイニーハウスだ。
「こんな奥深い自然の中で暮らせる手段は他にない。タイニーハウスを通して自然の中での豊かな暮らしを多くの人に伝えたい。」
そんな想いからYADOKARIに入社したという石橋さん。彼がROADIEの製作に舵を切ったのは、入社してからわずか2週間後のことだったという。
今回は、ROADIEの企画から完成に至るまでの背景を石橋さんに直撃。
YADOKARIメンバーも知らない⁉ ROADIEの開発秘話をみなさんにご紹介しよう。
自然の中でこれほどまでにくつろげる空間は他にない。
コンセプト「自然×タイニーハウス」に込めた想い
「自然の中の暮らし×タイニーハウス」の企画が上がったのは僕が入社して2週間後、社内には「もうやっちゃおうよ!」という雰囲気と勢いがあり、僕がYADOKARIに入社してやりたかったことと、会社が新たにやりたかったこと、パズルのピースがぴったり合ったような感覚でした。
そんなYADOKARIのスピード感と周囲のサポートに背中を押され、自分が中心となって新たなタイニーハウスの企画・開発をスタートさせることになりました。

自然の中で暮らせるタイニーハウスを作りたいと思った背景は、これまでキャンプ場の開発やイベント関係の仕事を経験してきたことにあります。
まだ誰もキャンプした事がない場所でテストも兼ねてまずは自分でキャンプしてみてから空間づくりを考えてみるなど、仕事も遊びも境界線なく楽しんで取り組んでいました。その結果、都心で暮らす日常だけでは決して味わえない豊かで特別な時間を過ごす機会が非常に多くて、もっと多くの人にも体験して欲しいと常々思っていました。
タイニーハウスが身近なものになったのもこの時。その時はコロナで導入したばかりのタイニーハウスがなかなかオープンできず、もどかしい気持ちだったのですが「まずは自分でもちゃんと試してみよう。」と切り変えてしばらく滞在したところ、快適に長く滞在する事ができて、自然の中で暮らす事のイメージが持てたんです。

日光の光とともに目がさめ、外にでると緑あふれる豊かな情景がある日常。目覚まし時計をかけなくても自然と早く起きられるし、仕事もはかどります。週末は友人や同僚もやって来て賑やかに自然の中で過ごし、夜は焚き火囲みながら深い話もできたり様々な学びや気づきが得られた日々でした。毎日が充実していて、自然の中で暮らすことの豊かさを身をもって体感することが出来たように思います。
テントでの滞在も日光や風、木々のざわめきや鳥の声などの自然がダイレクトに伝わるので好きですが、タイニーハウスであれば、仕事や料理も不自由なく出来て、家族全員が快適に眠ることだって出来ます。より深い自然の中にこれほどまでにくつろげる空間をつくれる手段は、タイニーハウスの他にないんじゃないかって。
「奥深い自然の中での豊かな暮らしを多くの人に広めていきたい。」当時抱いたこの想いを、新しいタイニーハウスをつくることによって実現できたらと思ったんです。

YADOKARIがメインで企画しているのはトレーラーハウス型のタイニーハウスなのですが、市場にあるトレーラーハウスだと箱感、プレハブに近い質感イメージが強いと感じています。
僕が作りたいタイニーハウスはそれとは違う。人の手で作ったぬくもりが感じられる工芸品のようなもの、その場所で「暮らす」ということをもっと意識して、こんな暮らしをしたいという想いや愛情が、垣間見えるような丁寧な空間を作りたいと思いました。
自分の好きなビルダーさんのタイニーハウスを思い返したり、社内のみんなと「YADOKARIらしいタイニーハウスってどんなものだろう?」と話し合う中で、これまでのようなものではなく、切妻形状で赤い屋根、ウッド調で木の温かみが感じられるデザインに仕上げることに決めました。
数々のシーンを思い浮かべて生まれた、一人ひとりの居場所と自然とのつながりをつくる工夫。
内装を設計する上でまず重視したのは、タイニーハウスという小さな空間の中に、居場所となるような場所をたくさん作ることです。

まず、こだわった空間はリビング。ソファを置けるほどの広い空間と、大きな窓を設置しました。リビングにゆったりと座った時に外の景色が大解放で見えることも、自然とのつながりを感じられる重要な要素なんじゃないかと思っていて。
例えば焚き火をしているとき。窓がこんなにも大きいから、たとえ寒いからと室内に入ったとしても、引き続き暖を取りながら焚き火を見続けられるんです。そうやっていろんなシーンを楽しんでもらいたいです。
ROADIEにとって窓は、自然とのつながりを感じられる一番のポイントになっているようにも思います。

寝室となるロフトにも窓を設置。目覚めてすぐ、外の景色を見られることも外せないポイントでした。

あとキッチンにも外を眺めることの出来る窓を設置しています。窓は広く開けることが出来るので、中にいる人と外にいる人でもしっかりコミュニケーションが取れるし、お皿や料理を渡し合うことも出来る。そうしてタイニーハウスの中にいながらもアウトドア空間とつながることが出来る仕様にしました。
料理だけじゃなく、顔を洗ったり歯を磨いたりする時間にも外の景色を見られるからいいですよね。何気ない瞬間に、目の前が開けて外が見えると本当に気持ちがいいんです。

トイレとシャワーはそれぞれ別の空間の中に設置すると決めました。ユニットシャワーを活用している事例が多いけれど、そうすることによって生まれてしまうストレスが多くあるような気がしていて。
たとえば、どうしても臭いが残ることが気になったり、洗面台を長く使っている人がいて、トイレに入りたいのに入れないとか。「小さい空間だから、仕方ない。」と妥協せず出来るだけたくさんの居場所をつくって、ストレスなく安心して過ごせる空間に仕上げました。


あまり気づかないかもしれないですが、屋外コンセントを外側の窓付近に設置していることも工夫のひとつ。野外にいながらも、照明の電源確保や、スマホやパソコンの充電が出来たらいいなと思って。
あとは、冷蔵庫も外の窓からすぐ近くの場所に置けるように設計したことも僕のこだわりです。冷えたお酒を呑みたいけれど、わざわざ室内に取りに行くのが面倒、なんてこともよくあるじゃないですか。キャンプやアウトドアでの暮らしを経験されたことのある方なら、共感していただける方がきっと多いんじゃないかなと思います。
こうやって、自分が体験した自然の中での幸せなひと時だったり、ちょっとした不便を思い出しながら生まれたアイディアを詰め込んで作ったのがROADIEです。実際に見学していただいたり住んでみていただき、良さを分かってもらえたらうれしいです。

「ROADIE」っていう名前も、すごく愛を込めて名付けていて。
実は僕、ライブやフェスの会場、ステージをつくる仕事をやっていたこともあるのですが、バンドのライブやツアーなどで活躍する「ローディ」という楽器の運搬・設置・調整を担う人達がいるんです。
移動・設置というプロセスがタイニーハウスに暮らすまでのプロセスと一緒だなと思っていたのですが、今回僕が手掛けたタイニーハウスには「調整」の役割もあるんじゃないかって。その役割が、「私たちの暮らしと自然を接続させる」こと。
「このタイニーハウスに暮らせば、目の前の自然とシームレスにつながることが出来る。」と思えるような存在になってくれたらいいなと思っています。そんな想いから「ROADIE」と名付けました。
他のメンバーからもいくつかアイディアをもらったりもあったのですが、「ごめん、ちょっとこっちだわ。」っていう感じで・・・(笑) 譲れない想いがありましたね。

ROADIEは代表作であり、出発地点
ROADIEは僕自身にとっての代表作。お披露目会や見学会でも賞賛をいただくし、本当に作ってよかった。
今後は、以前から「ここに住めたらいいなあ」なんて気になっていた大自然の中にROADIEを設置したい。そうしてみなさんに、自然の中での豊かな暮らしを体験してもらえるような仕組みをつくれたらいいなと思っています。そうすれば僕だけじゃなくて、世の中にいる多くの人に自然の中でも暮らすことが出来ることを、こんな豊かさがあるんだってことを感じてもらえるんじゃないかって。
ROADIEは代表作だけど、出発地点。ROADIEを通して新たな暮らしを豊かさを提案していきながら、もっともっと豊かなシーンや暮らしが生まれる空間をつくっていけるよう、アップデートし続けていきたいと思っています。

https://www.e-architect.com/wp-content/uploads/2023/09/piil-treehouse-estonia-arsenit-270923-yl2_result.jpg
“一本足のツリーハウス”
ひっそりと、森林の中に佇むこの住宅は、そんな呼称がとてもよく似合う。
“Piil Tree House ”という愛称を持つこの住まいはエストニア語で「覗く/見る」を意味する“Piiluma”という単語にちなんで名付けられた。
エストニアの森林内に建設された高さ4.25mに及ぶ“一本足”を持つこの住居は名前の通り、窓から緑豊かな大自然を一望できる。これは、見晴らしの良い場所に建てられる事の多いエストニアの展望台から着想を得て、建設されたという。建物全体を構造的に支える骨組みに鋼鉄を使用し、トラス状(三角形の骨組み)にすることで耐重性を上げたことが“一本足”の実現を可能にしているのだという。
ツリーハウス内部の洗練された空間
住居部分へと繋がる「脚」としての機能を持つ一本足には階段が内包されている。地上のドアから一本足を上った先にあるドアを開くとそこにはおよそ19㎡の洗練された空間が広がる。

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インテリアはモダンな白のオーク材で統一され、室内にはベッドルームや、簡易キッチン、収納スペースにシャワールームなど基本的な設備は一通り備わっている。
高台にあるベッドルーム、そして開放的なオープンエアのリビングルームから見渡せる広大な自然の景色は、自分が本当に宙に浮かんでいるかのような錯覚を覚えそうだ。さらに、キングサイズのベッドルームは、住居自体に高さがあることでプレイバシーの確保につながる他、大きな窓や天窓によって木々に囲まれながら安らぐ気分にさせてくれるという。
また、大きな窓の手前にあるスペースは机や椅子、あるいは展示スペースとしての活用など、多用途に使用することが可能だ。

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他にも、ベッドルームの脇の階段を登った先にあるのは中2階。ここはハンモック仕様になっているため、森を眺めながらうたた寝をしたり、読書をするなど日常と非日常の間で溶け合うような時間を過ごすことができそうである。

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中2階に上がる階段自体も収納スペースとなっており、モデルルームような「見せる収納」ならぬ「魅せる収納」を自宅内に作ることができるのも、このツリーハウスの魅力のひとつだ。

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時が経つほどに味わい深くなるツリーハウスの外観
これまで、内部空間の特徴を挙げてきたが、魅力は住居内にとどまらない。周囲の景観に馴染む木目調の外観は、メンテナンスがほとんど必要ないという。

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木目調の外観を生み出す外壁に使用されているのはパイン材。時が経ち、風化すると、シルバーグレーの色合いになり、周囲の森林に違和感なく溶け込むという。むしろ、時が経つごとにさらに周囲の景観と交わり味わい深くなるというのだから驚きだ。
心地良い温度感を保つために施された工夫
周囲が自然に囲まれているとあって、室内の温度が気温に影響されることを懸念する声が上がるかもしれない。しかし、心配御無用。
Piil Tree Houseには、MVHRシステムと呼ばれ、淀んだ空気の熱を取り出して、給気した新鮮な空気と交換し、室内全体を最適な室温と新鮮な空気で満たす熱回収の仕組みが導入されている。この仕組みによって、年間を通して暖房・冷房・換気・給湯が行われ、住人が快適かつ心地よい温度感で過ごせるような工夫が成されているという。

さらに、外壁の凹凸は先に述べた美しい調和の取れた外観を生んでいるのみならず、建物内に光や空気を取り込む機能も果たしている。使用されているパイン材も熱伝導率が低いことから、熱を逃がしにくく温度が高いので保たれるような役割をもつ。
森林と調和する住居内に広がる研ぎ澄まされた空間。時が経つほどに味わい深くなる外観。そして、そこでの最上の時間を心地よく保つ温度工夫。まるで、おとぎ話の主人公になって緑豊かな景観を自分だけが味わっている、そんな贅沢な気持ちに浸れそうである。
【参考文献】
Piil Treehouse: The Peek into Nature’s Sublime Elevation | stupidDOPE
Piil Treehouse, Estonia building design – e-architect
Arsenit nestles one-legged “treehouse” in Estonian pine forest
The Piil Treehouse is an Ethereal Abode, Hidden in the Estonian Wilderness
Piil Treehouse Adorns a Multi-Level Layout, Swings a Hammock Mezzanine Mid-Air
arsenit’s prefabricated treehouse suspends over a terrace in the estonian wilderness
Piil Tree House Retreat / Arsenit | ArchDaily
世界の専門家が注目する、サステナブルな住まいづくりのかたちとは? | Houzz (ハウズ)
カナダのオンタリオ州に、ブルースペニンシュラ国立公園という公園がある。そこは、五大湖の一つであるヒューロン湖に突き出た半島に位置し、とても自然が豊かな公園。今回ご紹介するE’terra Samaraは、そんな公園にある5つ星のエコリゾートなのだ。
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オランダの南部ドメル川沿いにある工業都市・アイントホーフェンに、建築家が母親のために建てたガーデンハウスがある。ダグラスの木を基調に建てられており、のどかで素朴な家のように見える。
大きさは45.0スクエアメートルだが長さは状況次第で変化するという。なんとこの家、伸びたり縮んだりすることができ、伸びた時は最大12m、縮んだ時は6mの長さになる。TPOに応じて調節できる家というコンセプトで建てられたという。
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“あなたは自宅のベランダやバルコニーでどんな時間を過ごしますか?”
そんな問いかけをすると、いやいや、過ごすも何もベランダは“洗濯物を干す場所”という認識だ。と答える人がきっと殆どだろう。戸建てでない限りは、洗濯物を干す以外の活用方法があったとしても、せいぜい小さな家庭菜園を行うと答える人が大半のように思う。

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しかし、北欧の人々の暮らしを覗いてみると、私達の認識とはやや異なり、ベランダやバルコニーでの時間を思い思いに楽しんでいる。洗濯物を干す場所に留めるだけではあまりにも勿体ない彼らのベランダ時間の過ごし方や空間づくりについて紹介していく。 (ベランダ/バルコニーは屋根の有無で区別する)
北欧におけるベランダの位置づけ

photo by Michiko Endo
そもそも、スウェーデンを始めとする北欧の人々にとって、ベランダに対する認識は「室内」の延長であることが多い。私達が自宅の部屋を1LDKなどと表記するように、彼らにとってベランダも部屋の1つという感覚なのである。そんな、「室内」若しくは「半室内」として部屋の延長線上にあるベランダは第2のリビングとして活用している人が多い。そんな彼らのベランダ時間を覗いてみよう。
北欧の人々のベランダ時間を覗いてみる
⑴ベランダ時間での過ごし方
第2のベランダとあって、テーブルとチェアを置く工夫はよく取り入れられている。

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テーブルでゆっくりと食事をしたり、読書をする。あるいは、甘いものとコーヒーを片手に大切な人と時間を過ごす、北欧独自のコーヒー文化「Fika(フィーカ)」をベランダでゆっくりと行うのも、ベランダ時間の過ごし方の1つである。また、家庭菜園として植物を育てる人もいるという。
こうした昼間のベランダ時間の過ごし方に対し、夜間にはロマンチックな過ごし方も出来る。お酒を片手に、星を眺めながらその数を数える。秋の夜長に大切な人と…想像するになんと素敵な過ごし方だろう。

photo by Michiko Endo
⑵ベランダ時間を過ごすための設計の工夫
ベランダ時間を、まるでリビングでくつろぐかのように楽しむ北欧の人々。そんなベランダ時間を過ごすための工夫として、彼らが自宅のカーテンを閉めることは少ないという。そもそも、リビングはパブリックな空間という観念を持っている事に加え、窓から自然光を取り入れるために彼らはカーテンを開けて過ごすのだという。
さらに、設計上の工夫として集合住宅の場合、凹凸のある作りとなっている事が多い。

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思わず、目を惹かれるような外観。凹凸があることで、より一層光を取り込みやすくなるのだそうだ。他にも、ベランダ全体がガラスで覆われた作りも人気が高いという。

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ベランダの手すり上部にガラスを設置し、ガラス窓は開閉できる仕組みとなっている。そのため、春や秋の少し肌寒い時期には閉めて利用し、夏の時期には開放して利用するなど季節や気温に応じた過ごし方が可能となる。
なぜ、彼らはベランダを最大限活用するのか
北欧では、白夜で知られるように日照時間が長い夏と、反対に極端に短い冬の季節がある。日光が貴重な彼らにとって、なるべく太陽の光を浴びて過ごす時間は大切であり、そうした時間を設けるための工夫を行うのである。

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さらに、気温面から考えても、25度を超える日本でいわゆる「夏日」として考えられる気温の日は年間で1ヵ月程度しかない。なるべく春や秋の期間も含めたより長い期間を、すこしでも自然光の下で過ごすために、ガラス窓を設けることで室内と室外の中間の気温でベランダ時間を過ごそうという訳だ。
このように、北欧の人々のベランダでの過ごし方を見ると、そもそものベランダに対する価値観の違いから、その大きさが日本ほど小さくない。もしくは広いのでは?と思ってしまうかもしれない。しかし、実際はスウェーデンのベランダも集合住宅であれば、日本と同じくらいの大きさだそうだ。つまり、限られた空間をいかに楽しむことができるかの違いだという。
もちろん、北欧では共用のランドリースペースがアパートにあることが多いという点で、ベランダが洗濯干しの場所をとらない側面はあるかもしれない。また、全体がガラスで覆われていることが少ない日本では、ベランダ時間が気温や天気に左右される事は仕方ない事なのかもしれない。
しかし、天気と気温のいい日にはイスを置いて少し本を読んでみる。初夏には、手軽に出来るハーブを育ててみるなど少しずつベランダ時間を豊かにすることが出来そうだ。そんな私も、ベランダを楽しむ彼らに感化され、干し柿を仕込んでみた。

photo by writer
つい先日までただ洗濯物を干して取り込むだけだった場所が、思いがけず愛着を感じる場所へと様変わりした。ベランダ時間。悪くないかもしれない。貴方だけのとっておきのベランダ時間の過ごし方を探してみるのはいかがだろうか。
【参考文献】
意識を変えてもっと自由な空間に!スウェーデン流《バルコニー活用術》 | キナリノ
「森のしあわせ通信」一年で最高のシーズン
スウェーデンの洗濯事情。 – 北欧のいなか暮らし
第20回 北欧でよく見る、窓、ドア、ガーデングッズ | 北欧住宅事情(フィンランドから)
第24回 ガラスバルコニー | 北欧住宅事情(フィンランドから)
第34回 フィンランド住宅のインテリアトレンド|ハウジングフェア2020(その3)
フィンランドで人気!「ガラスバルコニー」でおうち時間を楽しむ | 北欧fika | 特集記事 | Replan(リプラン)WebMagazine
https://www.okuta.com/blog/i057/%e5%8c%97%e6%ac%a7%e3%81%ae%e9%9b%86%e5%90%88%e4%bd%8f%e5%ae%85/
【デンマーク便り】建築探訪③ オアスタッド(Ørestad)の住宅|hanauta
北欧旅行3 : バカの大足 KOETALO日記
「自然の中で完全にオフラインに。体内時計のリズムに戻りましょう」。
短い滞在のリトリートで、メールやSNSを忘れる“デジタルデトックス”を提唱するのは、南オーストラリアのタイニーキャビン「CABN」。都市生活の“末期的な忙しさ”からスローダウンして、ただ生きていることを実感できる宿泊施設だ。
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一面に広がる岩山と砂漠の荒涼とした風景。
象たちが地下水脈を求めて、懸命に黄土色の砂地を掘っている。アフリカ南西部のナミビアに、1年の内に2月と3月に現れるホアニブ川。この季節河川の谷間にあるのが、地域コミュニティとキリン保護団体による合弁事業、ホアニブ・バレー・キャンプ(Hoanib Valley Camp)だ。
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