【特集コラム】第1回:本当の豊かさとは何か? 北欧「夏の家」に学ぶ、暮らしのヒント

pptu3

「世界一幸せな国」のヒントを探る —「夏の家」文化の背景とは

世界一幸せ、と言われる北欧諸国。北欧の雑貨や家具は日本の雑誌などでも頻繁に取り上げられ、「北欧スタイル=おしゃれ」というイメージが浸透していますが、北欧で暮らす人々のライフスタイルは、実際どのようなものなのでしょうか?

北欧諸国に古くから根付いている文化のひとつに、「夏の家(サマーハウス)」があります。
その名の通り、夏の休暇を過ごすためのセカンドハウスなのですが、日本の「別荘持ち=お金持ち」というイメージはちょっと違い、都会に暮らす人の多くが田舎に自分の「夏の家」を持っているそうです。
実は、YADOKARIの「ミニマルライフ 世界の小さな住まい方」にも、「夏の家」が何度か登場していました。

例1:スウェーデンの島で、一夏のエルミタージュ「weekend cabin」
例2:バケーション滞在に最適!スウェーデンの夏の家「MOMO」

© SEPTEMBRE
© SEPTEMBRE

MOMO_0
大自然に包まれ、無駄なものをそぎ落としたシンプルな佇まいには、心惹かれた方も多いのではないでしょうか。
こうした「夏の家」が根付く背景に、夏の休暇が長いこと、あまりお金をかけずに休暇を楽しむことなど、北欧諸国の社会制度や風習などの文化が見えてきます。
今回この連載では、「夏の家」を切り口として、北欧諸国の社会的・文化的背景を読み解き、豊かな暮らしとは何かを考えていきたいと思います。

「世界一幸せ」のヒントとは

国連が発表した「世界幸福度報告書2013」で、世界幸福度ランキングの堂々1位に輝いたのはデンマーク。2位ノルウェー、5位スウェーデン、7位フィンランドと、北欧諸国がBest10にランクインしています。日本は43位、アメリカは17位です。
経済的な豊かさとは必ずしも結びつかないこのランキングですが、「1人当たりGDP」「頼れる人の存在」「健康寿命」「人生の選択の自由度」「汚職のなさ」「寛大さ」の6項目から算出されています。「頼れる人の存在」というのは、国の社会保障サービスなども含めて、将来への安心感についての項目です。日本との点数の分かれ目がどこにあるのかを考えてみると、「頼れる人の存在」や「人生の選択の自由度」というところに満足度や幸福度のヒントがありそうです。
world_happiness_report_2013

将来も安心、充実した社会福祉と教育の制度

北欧諸国は税金が高い代わりに、一生安心して暮らせるほど社会福祉が充実している、という話は耳にしたことがあると思います。
国民が所得のうちどれだけの税金や保険料を支払っているかの指標である「国民負担率」*を見てみると、デンマークが67.8%、フィンランドが57.9%、ノルウェーが55.4%、スウェーデンが58.9%。つまり所得の6割を国に納めているのです!日本は38.5%なので北欧諸国と比べると低いですが、これに加えて住宅費や教育費、医療費などの生活に必要な費用がかかってくるので、実質的な負担は変わらない、もしくは多いくらいかもしれません。
というのも、北欧諸国は教育費や医療費が無料だからです。教育費は小学校から大学まですべて無料で、9年間の義務教育期間は給食も無料、教科書も支給。医療費も、乳児や高齢者だけでなくすべての世代の費用を国が負担してくれます。
税収の負担が大きい分、保障が厚く将来に安心感が持てる。その仕組みがうまく成り立っていて、国民もそれに満足しているということですね。
国民負担率比較
*国民負担率とは、国税と地方税を合わせた租税額の国民所得に対する負担率(租税負担率)と、年金など社会保険料の国民に対する負担率(社会保障負担率)を合計したもの。

自分の人生は自分で選ぶ! 人生の選択の自由度

では、「選択の自由度」という点ではどうでしょうか?
教育費が無料ということは、すべての子どもに均等な教育を受ける機会が与えられているということ。家庭の事情によって人生が制限されることが少なくなります。また、フィンランドやデンマークでは高校を卒業後、「ギャップイヤー」をとることができます。ギャップイヤーとは、進むべき道を考える猶予期間のようなもので、知識を蓄積したり、さまざまな経験をして自分を磨く時間でもあります。日本でいう、受験に向けてひたすら勉強する浪人期間や、ニートと呼ばれるようなモラトリアムとはだいぶイメージが違うようです。人生を考える上で自由な時間を持つことが国として認められている。個人の意志を尊重する気風が制度として整っているのです。
結婚に関しても自由度が高く、同棲しているカップルにも夫婦と同じ権利が認められています。離婚が多すぎるための措置でもあるようですが、制度に縛られず身軽に動けることも「選択の自由度」の高さを表しているのではないでしょうか。

休暇もしっかり! メリハリをつけて働くのが北欧流

これだけ個人が尊重される制度が充実している北欧諸国ですが、高い税金を納めるためには、それなりに稼がなくてならないのでは? 働き方についても気になります。北欧諸国の労働基準は週37時間前後。日本は40時間ですが、膨大な残業時間が上積みされているのが実態です。北欧諸国では仕事後に自分の時間を持つのは当たり前で、残業はほとんどしません。その分、上司が部下をサポートしながら短時間で効率的に仕事を進められるよう配慮しているそうです。夫婦共働きが一般的で、夫婦揃って保育園に子どもを迎えに行くことも珍しくないとか。日本ではあまり考えられないことですね。
また、休暇が長いことも北欧諸国の大きな特徴のひとつ。夏の休暇は4〜7週間続けてとるのが一般的で、その間は病院であれ公共機関であれ、皆が休みとなってしまうことも。少し不便な気もしますが、そこまで徹底していることで、皆が心置きなく休める環境が整っていると言えます。

「世界一幸せ」を支える暮らしの基盤

北欧が世界一幸せであるヒントはどこにあるのかを探ってみましたが、やはり「充実した社会保障による安心感」と「個人を尊重する自由さ」が大きな鍵となっているようです。それが仕事と休暇のメリハリを生み、長い休暇をゆっくりと過ごす文化を培ってきたことも分かります。
元々、北欧諸国は冬が厳しく、日が出ている時間も短いため家の中で過ごす時間が長くなり、住環境を重視する文化が育ったと言われています。家は、仕事後の時間や休暇を楽しむための暮らしの基盤でもあるのです。
「夏の家」もまた、北欧の人々のライフスタイルを支える基盤のひとつ。都会に住んでいても、長い休暇を自然の中の「夏の家」で過ごし、リフレッシュするというスタイルが、北欧の人々の暮らしを豊かにしています。

シンプルに、自分らしく豊かに暮らす。その価値観は「夏の家」そのものではないでしょうか?
第2回では、「夏の家」の建築のタイプやインテリア、そこでの過ごし方などについて具体的に見ていきたいと思います。

© Torben Petersen
© Torben Petersen

© SEPTEMBRE
© SEPTEMBRE

[参考]
財務省『OECD諸国の国民負担率(対国民所得比)』
2013年版世界幸福度報告(World Happiness Report 2013)
Average annual working time – OECD iLibraryr
『LESS IS MORE』 著者:本田直之 発行:ダイヤモンド社
ワークライフバランスの森 
Summerhouse in Denmark / JVA