【特集コラム】第1回:小さな家でシンプルに無駄なく生きる。|小さな家で豊かに暮らす、タイニーハウスムーブメントを紐解く
皆様は「タイニーハウスムーブメント」という動きをご存知でしょうか?
「マイホームを買うという事は人生で一番大きな買い物であり、とてつもなく大きな決断と覚悟を伴う。もちろん大きければ大きい家の方が断然良いに決まっている。」今までなら、かなりの方が肯定する意見だと思いますが、アメリカを発端に世界に広まっている「タイニーハウスムーブメント」は、これまでの常識とは反対に、「小さな家でシンプルに無駄の無い生き方を楽しもう!」という動きの事なのです。
タイニーハウスムーブメントの歴史を紐解く
このムーブメントのブレイクのきっかけはなんでしょう。少し歴史を紐解いてみましょう。
●1997年にアメリカの建築家 Sarah Susanka が小さな家で暮らす生き方「スモールハウスムーブメント」を提唱。
●1999年にアイオワ大学の美術教師 Jay Shafer が約10㎡(約6畳)のスモールハウスを建造。入り口のデッキを含めて4.2×2.3mというサイズは、偶然にも日本の建築基準法では建築確認申請がいらない大きさであった。「The ELM」と名づけられたこの家は翌年の2000年に雑誌で賞を受賞。その存在は一気に全米に知られる事となる。
●2005年ハリケーン・カトリーナの被災地に建築家 Mariannne Cusato が、小さく機能的で快適さを追求したカトリーナコテージを製作。これが多くの建築家から評価を受け、多方面に影響を及ぼす事に。
●2007年のサブプライムローンをきっかけに起こった世界同時不況。シンプルで無駄の無い生き方が広く注目されはじめ、ついにアメリカ合衆国で建てられる家の平均面積が減少する事となる。
あらためて考えさせられる事となった「本当の幸福」とは?
アメリカでサブプライムローンを組めば、さほど裕福でも無い人達も新築でマイホームを建てる事が現実的になったのですが、バブル崩壊と共に起きたリーマンショックを引き金に多くの人が住む場所を失うことに。
それまでは大きな家に住む事や沢山の物に囲まれる事こそが幸せだと信じて働いていた人達が「本当の幸福とは何か?」を考えるきっかけになりました。
例えば大きな家を30年ローンで購入し、ローンを返済する為に働き続け、支払い終えた頃には家も老朽化が進み、更に改修工事の為にローンを組む。大きな家を買ったことがきっかけでその家の為に死ぬまで働き続けるという現象が発生して、自分の人生を生きているのか、家の支払いの為に生きているのかよくわからなくなってしまいます。
ならば「家なんて買わない方が良いのか?」と思った人もいると思いますが、発想を変えて「そんなに大きな家に住む必要があるのか?」と考えた人達もいました。
タイニーハウスのメリット、デメリット
・安く建てて浮いた予算で細部までこだわれる。
・エアコンや照明などのコストを大幅に減らせる上に、電化製品などの初期投資も減少。
・メンテナンスや修繕、税金などの費用を大きく削減できる。
・モバイルハウスという車輪をつけたタイニーハウスであれば、法律に触れること無く自作することも可能。
・使用木材や建材も少なく済むので環境負担も少なくエコロジー。
ここまで聞くと良いことだらけに聞こえますが、小さな家で暮らす以上は収納などを工夫するにしても限界があります。いきなり小さな家に住むにしたって、これまでの沢山の荷物はどうするんだ?という意見も聞こえてきそうですが、これは、ずばり捨てます。
捨てると聞いてびっくりされた方も多いかもしれませんが、実際に暮らしの中で必要な物というのは案外限られるもの。だったら本当に必要なものだけを残してシンプルに生きる方が良いのではないかという考えの方がアメリカでは増えているのです。
実際に物を持たずシンプルに生きてみると余計な物を買う機会も減るし、何か買う時にでも本当に必要か真剣に考えて、いざ買う時には本当にいい物を長く使うように考える習慣がつきます。
ちっちゃかわいい家のアイデアと可能性
小さい家と聞くと掘建て小屋やプレハブの様な簡素な物をイメージする方もいらっしゃるかもしれませんが、タイニーハウスは「ちっちゃかわいい」家なので外観も中身もそれぞれいろいろな工夫やアイデアに溢れ、とても個性的なものばかり。立地条件や景観も様々で、中にはソーラー発電システムや水車を搭載したオフグリッドなタイニーハウスなんかもあります。
小さな家だからこそ大きな窓やサッシを沢山採用して開放感とお昼の採光を十分に取ったり、ロフトを併設して寝室を工夫したりベッドを壁や小上がりの下に隠したり。あこがれの暖炉や薪ストーブの暮らしも夢ではありません。
お値段のほうもコンテナを改造したものやプレハブタイプのものなら100~300万円で十分なタイニーハウスが確保できます。
タイニーハウスムーブメントがもたらすライフスタイルの多様化
小さい家に暮らすということは、決して我慢しながら暮らすということではなく、むしろ住まうことで金銭面や時間、そして心に余裕が出来るのです。
つまり、住まいの形を変えるということがライフスタイルそのものに変化をもたらし、更に生きる為に働く、ローンの支払いのために頑張る、居場所を守るために仕事するという今までの常識を根本的に覆すきっかけになる可能性を秘めているという事に繋がるのです。
「でも、そんなサイズの家じゃ家族で住むには小さ過ぎる。」という意見もあります。なのでタイニーハウスは子供がまだ居ない方や、子供が既に大きくなった世代の人達に広まる傾向にあります。もちろんカップルの中には「子供を授かったら更にタイニーハウスを追加で造るよ。」という意見の方も。
生き方や住まい方の選択肢は多いに越した事はないという事実
タイニーハウスムーブメントについてご紹介しましたが、いかがでしょう?なんだかわくわくしませんか?
「収入も結構あるし、捨てたくない物ばかりに囲まれているし興味ないなぁ。」なんて人もいるかも知れませんが、ライフスタイルは人それぞれ。
今までは「暮らす」「幸福」といった物に対する選択肢がとても少なかった気がします。でも生き方や幸福に対する考え方の多様化で「こういう手段もあるんだ!」「そっか、べつに大きい家じゃなくてもいいじゃない! 」という選択肢が広がることは社会的にも意義のあることだと思います。
毎月の支払いが大幅に減れば生活にも余裕が出て、もっと趣味や食事や旅行にその分を充てる事もできますよね?
私達は決して我慢するために生まれた訳じゃありません。視点を変えたり、優先順位を変えたりして選択肢を増やすことによって、同じ収入額であっても心豊かに毎日を楽しく過ごせる可能性もあるのでは無いでしょうか。
家は前より小さくなったのに前よりも、のびのびと暮らせてるなー、なんて思えるような、小さな家での大きな暮らし方。そんな選択肢もあるのです。
第1回目の【小さな家で暮らす。シンプルで無駄の無い生き方】、いかがでしたでしょうか?
このコラム企画は全4回の構成となっております。次回は日本におけるタイニーハウスムーブメントの影響について書いていきます。第2回もお楽しみに。