【後編】100年前の銀行が書店に。ロサンゼルスで見つけた「世界で最も美しい本屋」

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ロサンゼルス、ダウンタウン。歴史的な建物が残るエリアの一角にある「ラスト・ブックストア」は、築100年の銀行から生まれ変わった「世界で最も美しい本屋」の一つだ。大きな柱に、高い天井、頑丈な金庫が荘厳な雰囲気を残しつつ、自由でアートな気分が漂っている。

前編では、本でできたレジカウンター、書庫になった金庫を発見した。後編ではさらに奥へ。「ラビリンスの入口」から、本の迷宮へと進んでいこう。

前編はこちら⇒ 100年前の銀行が書店に。ロサンゼルスで見つけた「世界で最も美しい本屋」【前編】

本棚から本が飛び立っていくアート(左)、タイプライターから原稿が踊りだす
本棚から本が飛び立っていくアート(左)、タイプライターから原稿が踊りだす

本でできたレジカウンター、元金庫を活用した書庫を見つけ、いよいよ2階を探索しよう。エレベーターを降りると、真っ先に大掛かりなアートが目に飛び込んでくる。本がバタバタと音を出して飛び立っていきそうな不思議な本棚。その前にある机には地球儀、本、タイプライターがのっている。タイプライターから文字を打った紙があふれ出し、天井まで舞い上がっている。アイデアの泉を掘り起こし、原稿を書く勢いが止まらない、と、悲鳴が聞こえてきそうだ。

ラビリンスへの入口。本でできたトンネルがアーチを描く
ラビリンスへの入口。本でできたトンネルがアーチを描く

ラビリンスへの入口

本の世界なら実現しそうなシーンが、アートとして目の前に現れる。まるで本と現実の間に迷い込んでしまったようだ。けれど、それもあながち間違いではないのかも。その証拠に、「ラビリンス(迷宮)」と書かれた看板が掛かっている。早速入口のトンネルをくぐる。本でできたトンネルだ。1000冊近い本が、本棚と壁を美しいアーチでつなぐ。本は読むだけでなく、トンネルやレジカウンター、ランプの土台になると知った。電子書籍ではこうはいかない。紙の本がなくならなければ、本でできた本屋ができるかもしれない。

2階の金庫にはホラーが集まっている(左)、ラビリンスの中。古い本棚に古書が並ぶ
2階の金庫にはホラーが集まっている(左)、ラビリンスの中。古い本棚に古書が並ぶ

迷宮へつながる暗いトンネルを抜け、ラビリンスへと足を踏み入れた。緑、赤、金色で装飾された天井。その天井まで届く大きな本棚が壁を埋める。

フロアには、木でできた古い本棚が、迷路のように不規則に並ぶ。何の本が置いてあるのだろう。「前まで1階に置いてあった歴史、文化、宗教、旅行、外国語、ビジネス、スポーツはラビリンスに移動しました」。親切な迷宮案内が書いてあるので、慌てる必要はない。『スター・ウォーズ』『スター・トレック』は、端が色あせた初期の本も揃う。古書も豊富なラビリンス。本好きにはたまらない。古い本独特の匂いに導かれ、時間を経つのも忘れて本の世界に迷い込んでしまった。

ピアノとアコーディオンが合体
ピアノとアコーディオンが合体
窓を覆う大小の虫メガネ
窓を覆う大小の虫メガネ
カラフルな糸屋さんも
カラフルな糸屋さんも

ライブ、ディナー、ウエディングにも

不思議な空間は、ラビリンスを抜けても続く。アートギャラリーが軒を連ねる2階では、鍵盤の一部がアコーディオンと連結しているピアノ、100個近い虫眼鏡が窓を覆う部屋など、日常生活では目にしない代物に出会う。なぜかカラフルな糸屋さんも営業している。

古書を買い取りするカウンター
古書を買い取りするカウンター

本屋の領域を大きくはみ出したラスト・ブックストア。ライブ会場として音楽を楽しんだり、ウエディング会場として永遠の愛を誓ったり、ディナー会場としておいしい食事をしたり……。もちろん、本屋らしく、著者を呼んでイベントを開くこともある。100年前の銀行という、ミステリアスで格式高い建物は、「本」と「空想」のエッセンスが加わることで、他にはない独自の空間を生み出している。どんなに電子書籍が便利でも、この空間、この雰囲気は紙の本だけが作り出せるもの。どうか、恐竜のように絶滅はしないでほしい。

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Photo: Yumi Mizukoshi