エコかっこいいドームは「再生」のシンボル(上)
ロックフェスを思い出した。訪れての第一印象だった。巨大なテントと、まるっこいフォルムのドームのイメージに引っ張られたからだろう。周囲にあったテント村も影響している。巨大テントの中にはバーやステージ、多数のテーブル席が並ぶ。まるっきりフェスである。ドームの直径は6mほどで、天井がない。内部には竹の階段と、竹で組んだロフトがあるだけで、あとはがらんどう。どうやって使うのだろう、不思議な空間だ。
正体は復興支援の拠点
フェスに似た熱気も残っていた。ポジティブな空気感、前向きな力だ。そんな風に感じるのは、この場所の役割を知ったからにちがいない。ドームが建てられているのは熊本市の崇城大学キャンパスの一角。熊本地震のボランティアが寝泊まりするキャンプサイト「ボランティアビレッジ」なのだ。
各地からのボランティアを受け入れるだけなら、雨風をしのげる宿泊用のテントがあれば事足りる。にも関わらず、バーがあったり、ハンモックが並んでいたりと遊び心がある。リラックスしてもらおう、楽しんでもらおうという意図が浮かんでくる。遊びの利いた空間なのは、熊本の有志でつくる「チーム熊本」が運営していることと関係している。自らが被災しながらも、復興に向けて活動を続けている。住む家を失ったメンバーもいたが、自分たちの日常生活を後回しにして、震災からわずか2週間で大学から用地を借り受け、ビレッジを立ち上げた。
「被災した自分たちだからこそ、やらなければいけない。それに、わざわざ来てくれた人たちには楽しい思い出も持ち帰ってほしい」
求めたものは復興支援+α
中長期にわたってボランティアに携わってもらうには、参加者がまた来たいと思える仕掛けが必要になる。SNSや口コミで新しい参加者を募るにも、リピーターの存在は不可欠だ。そのための場づくりが必要だとTeam熊本は考えた。
また、ボランティアの作業内容は家屋の解体や引っ越し作業、炊き出しなど幅広く、慣れない土地での作業は心身を疲れさせる。なのに、作業を終えて帰った先が、テントだけでは気分転換もままならない。リラックスできる空間も求められていた。はっきりとした方向性が当初から示されていたことで、おのずとビレッジのデザインは決まっていった。
日が暮れて、ボランティア参加者が戻ってきた。巨大テントに集まり、夕食を取る。笑顔で語らう姿があちこちにあった。
体験したことを共有することで、感じたことや考えを深化させることもできる。悩みや戸惑いを打ち明ける人もいた。自分の感じたことだけではなく、誰かの思いを知ることで、持ち帰って伝えることのできる情報は格段に増える。交流を促す場として、ビレッジはとてもうまく機能していた。
ドームもそのための装置のひとつである。イスを持ち寄って中で語り合うのだ。ドアすらないので、だれでも入りやすい。壁のつくりは土の入った細長い袋を積んだだけ。厚みがあるので、昼間に強い日が射していても内部は涼しい。もちろん、夕暮れ以降もだ。この日も30℃超えていたが、中に入ると暑さを感じなかった。
機能的なだけでなく、ドームは施設の中央で存在感を放っている。造形の面白さだけでなく、建築工法と完成までの道のりも独特なのだ。そうした特徴をもっていることが、ドームをビレッジの象徴たらしめている。
素人でもできる!?アースバッグ工法
特色のひとつが細長い袋に土を使う、アースバッグ工法だ。作業はいたってシンプル。指導できるスタッフが1人いれば、あとはみんなで袋を積み上げていくだけで、複雑な設計図はいらない。
ビレッジのドームは、日本アースバッグ協会のスタッフが講師に入ったほかは、地元の若者とボランティアの手でつくられ、10日ほどで完成した。素人仕事なうえに、のべ100人が入れ替わり参加したにも関わらず、作業に大きな支障はなかったことからも、工法の優秀さが分かる。
地震に強いアーチ構造とはいえ、主材が土とあって強度が気になるところ。完成後も余震が頻発しているものの、びくともしていない。台風にも耐えられるといわれ、土壁なので火災とは無縁である。
そして、シンプルな工法は災害の現場でこそ生きてくる。震災後は物資の供給が滞りがちになる。交通インフラがダメージを受けていると、重機を使用できないこともある。アースバッグであれば、マンパワーで全てを賄うことができる。だからこそ、ドームが立っていること自体が、象徴的なのである。特別な技術がなくても、どこにでもある材料で築ける。それも、みずからの手で。自分たちの力でまちを再生させられるのだ、と土の壁は静かに語りかけてくる。