JR is back in Rio!! 五輪で沸いたリオで手がけた大規模アートプロジェクト

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あなたの目をまじまじと見て、マジシャンの男がこう言う。”Now you see me.(確かにここにありますね)” そして次の瞬間、彼は手をひらひらさせて言う。”Now you don’t.(ほーら、消えた)” こう仕込むのがマジシャンの手口なら、アーティストのJR が手がけるのは、それと正反対だと言っていい。彼の使命は、普段隠れている存在を公にすることなのだ。 JRは1983年生まれのフランス人アーティスト。現在、世界で最もホットなアートを仕掛けるストリート・アーティストである。15歳の時から路上をカンヴァスにして、グラフィティを描く日々を送っていた。当時のことを彼は「社会に足跡を残して『俺はここにいた』とビルの上から伝える旅」だったと振り返る。それこそ、まさにJRの原点なのだ。

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やがて人々の写真を撮っては拡大し、それをストリートに貼ることに情熱を注ぐようになる。以来、JRは屋根から屋根へ飛び移るようなフットワークの軽さで、世界のどこへでも足を運んできた。イスラエルとパレスチナの国境、紛争や虐殺の起こった地域、世界各地の貧民街、震災後の日本。彼はそうした場所で、今も複雑な葛藤を抱えながら身を潜めるように暮らす人々と向き合い、写真を撮っては路上に貼り出していく。彼らの存在を肯定し、主張できる場をつくっていこうではないかと呼びかけるために。

リオデジャネイロでのプロジェクト in 2008

2008年、JRはリオデジャネイロでまだメディアが入ったことのない、プロヴィデンシアという危険なファヴェラ(スラム地域)に足を運んだ。きっかけは同年6月にここで起きた事件だった。3人の学生が身分証を持っていなかったため、軍に拘束された後、最も凶悪だとされる敵のファヴェラに連行され、切り刻まれたという。最大の麻薬組織が牛耳るこの地区は、ジャーナリストでもあまり入っていかないような場所だ。しかし、だからこそJRはWomens Are Heroesというプロジェクトの一環で現地に赴き、殺害された学生たちにつながりのある女性たちの話を聞くと同時に、彼女たちの巨大な顔や目のポスターをストリートのあちこちに貼ることにした。

住民がプロジェクトを理解してくれたおかげで、JRのチームは、ファヴェラ一帯に女性たちの写真を貼ることに成功した。プロヴィデンシアの当時の様子は、以下の動画でよく分かる。動画の最後はケニヤやインドなど、他の場所でのプロジェクトを映しているが、それ以外はほぼリオのファヴェラで撮られたものだ。

さらにJRは、彼のプロジェクトに協力してくれた人々に恩返しをすべく、翌年の2009年、プロヴィデンシアの頂上に黄色い家 『Casa Amarela』をオープンした。

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ここは子どもたちのための、小さな文化センターのような場所。現地の人やNGOが読み書きのクラスを開いたり、デザインや写真を教えたりするそうだ。館内には図書室もある。

リオデジャネイロでのプロジェクト in 2016

一時はプロヴィデンシアの再開発事業のため取り壊されそうになった黄色い家だが、その際は地元の人々が、JRのプロジェクトで使った写真を自分たちで壁に貼り出し、ただの市営住宅ではないことをアピールしたとか。そういうわけで黄色い家は無事に生き残り、実に7年間に渡ってさまざまな用途に利用された。しかし一方でいくぶん廃れてきたのも事実。そこになんと朗報が。

JRがオリンピックのアーティスト・イン・レジデンスに選ばれたため、再びリオでアートをする機会を得たのだ。 それならいっそのこと、オリンピックに向けてこの黄色い家もリノベーションしてしまおう。というわけで、家は改築され、屋上には新たに部屋として使える「月」が増設されたのだった。

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JRがリオで手がけた2つ目の試みは、彼が2011年から進めている世界最大規模の参加型アートプロジェクトInside Outだ。ルールは簡単。参加者が自分のポートレートを送ると、その大判ポスターが郵送されてくるので、これを街中に貼って自分たちの主張をアピールできるという仕組みだ。現在までに129か国、26万人以上が参加しているという。

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今回はさらにアートへの参加を容易にするため、フォトブース・トラックがリオの街を走り回ることになった。希望者は、このトラックに乗って写真を撮るだけでオーケー。30秒後にその場ですぐ印刷ができ上がる仕組みになっている。このムーブメントには、有名オリンピック選手から、ボランティアでオリンピック開会式を手伝った無名の人たちまで、大勢が参加した。

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しかし、これだけで終わらないのがJRのすごいところ。彼は超巨大版Inside Outプロジェクトなるものも展開したのだ。その名も《THE GIANTS》。規模が大きいため、紙ではなく布に印刷し、さらに足場を組んで作っている。

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写真のモデルは高跳び選手、ダイビング選手、それにトライアスロン・アスリート。彼らは誰も現段階でのオリンピックのスター選手ではない。その点でも、影に光を当てるというJRらしいチョイスだった。

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不可能を可能にする力

JRの活動を辿れば辿るほど、彼は世界の影を照らす太陽のような存在だと思える。写真という複製技術を用いながら、彼ほどにオリジナルなアーティストが果たして他にいただろうか。ギター無しで世界をこれほどロックさせる人物が、果たして他にいるだろうか。

JRの仕事は決して型にはまることはない。バレエダンサーに振付をしてみたり、あの大御所のハリウッドスター、ロバート・デ・ニーロを主演に迎えて短編映画を撮ってみたり。彼はもっと遠くまで行けると信じて、不可能にみえることを次々と可能にしてきた。そして今後も、これを続けていくのだ。彼の仕事に、大統領のような任期は存在しない。

ひとりの人間が社会にもたらす影響力が大きいと、その人物は人間という枠を越えて一つの現象と化すものだが、JRがすごいのは現象であり続けているところだ。彼の行為は一時の流行りではない。ファッションではないし、スポンサーがつくわけでもないのだ。それでも私たちがJRをカッコいいと思ってしまうのは、彼が美術批評家には批評できない特別な場所で、頼れる仲間とともに突き進んでいるからだろう。そこから見える景色はきっと、世界中の誰よりも自由に満ちたものに違いない。

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