【タイニーハウスデザインコンテスト2018 審査会レポート】今年は海外からの応募も!森と生きる小さな暮らしの最優秀賞は? | YADOKARI×小菅村
今年で第2回目となる「タイニーハウスデザインコンテスト2018」の審査会が、4/21〜22に山梨県小菅村にて行われました。
人口730人の小菅村がYADOKARIと一緒に昨年スタートさせた日本初のこのコンテストには、プロアマ問わず誰でも参加でき、受賞作品は村内に実物が建築されるのが特徴です。
今年の応募登録総数は365組、作品提出者は124組と昨年の2.5倍! 海外からの応募も複数ありました。力作ぞろいの応募作品から熟考を重ねて選び抜いた審査会の様子と、受賞作品についてレポートします!
多摩源流 小菅村ってどんなところ?
多摩川と相模川の源流部にある小菅村は、秩父多摩国立公園内に位置し、東西14km、南北7km。周囲を山に囲まれ、森林が総面積の95%を占める山間の小さな村です。
東京都を含む首都圏できれいな水道水が確保できるのも、ブナやミズナラの生い茂るこの森が100年以上にも渡って大切に守られてきたから。
人口が増加し続けている!
そんな小菅村の総人口は、5年前は690人。ところが現在は730人にまで増え、さらに約40世帯から問い合わせが来ているというから驚きです!
就任以来さまざまな仕掛けで村の魅力を高め、活気のある村づくりを行っている舩木村長にお話を伺いました。
「例えば山梨県内の他の町では、リタイアしたご夫婦の移住が多いケースもありますが、小菅村に移住してきてくれるのは、小さなお子さんのいる20代後半から30代のご家族が中心です。以前から源流親子留学などの取り組みをしていますし、都心から2時間という近さも、今の仕事を続けながらというスタイルが叶えられる距離なのかなと思います。働き方に対する理解も進んできていますしね」
定住にこだわるより関係人口を増やす
「一方で、恵まれた自然を生かした観光資源を中心に振興を図っていますので、村の中にも仕事がどんどん生まれています。『730人のなりわいづくり』が私のモットー。地域おこし協力隊や起業する人へのサポートを惜しまず、新しいチャレンジをしたい人が夢を実現できる村でありたい。人生のステージが変わってこの村から出て行くことになっても良いんです。定住にこだわるよりも、関係人口を増やすことを大切にしたい。
タイニーハウスは、移住してくる若い世代のための住居や、観光で訪れる人たちの宿泊施設として期待を寄せています」
タイニーハウスが村内に点在
昨年のタイニーハウスデザインコンテストの最優秀賞は、村の中で最も集客のある温泉施設「小菅の湯」と、国交省に新しく認定されたばかりの「道の駅こすげ」のある広々とした敷地内に設置されています。ツーリング客やキャンピングカーでの車中泊客も集まるこの場所は、タイニーハウスを知ってもらうのに効果的なロケーション。それ以外にも昨年の受賞作が複数、村のいろいろな場所に点在しています。
タイニーハウス小菅プロジェクトの発起人
小菅村タイニーハウスプロジェクトの発起人でもあり、このコンテストの責任者でもある建築家の和田隆男さん(小菅村地域おこし協力隊)にもお話を伺いました。和田さんは自ら、山梨市にある本宅と小菅村との2拠点生活をしています。
「タイニーハウスには4、5年前から着眼していました。建築を学ぶと必ず一度は小さな家がテーマになります。例えば茶室のような。小さいものを考えると、余分なものが削ぎ落とされて本質がより深く見えてくるからです。
単に小さい家というだけでなく、機能をうまく使って、小さいことのメリットを出していくのが大切。時代はもう変わっていて、住まいは財産という考え方から、住まいは日々過ごす場であるという考え方になっています」
タイニーハウスを考えると住まいの原点が見えてくる
「タイニーハウスを考えることは、これだけあれば十分と言い切れる住まいの原点を考えること。形だけじゃなくて考え方も大事にしたい。今までの大きい家って何だったんだろう?という気づきも含め、これからの新しい住まいを考える上での出発点が違ってきます。コンテストを通じて、こんなにたくさんの人がそれを考えてるってすごいことですよね」
小菅村の森林が抱える課題
今年のタイニーハウスデザインコンテストのテーマは「森林(自然)の活用」ですが、そこには小菅村のどんな想いがあったのでしょうか?
「やはり村特有の資源をどう活用するかは重要な課題です。森林は手をかければどんどん良くなるし、手をかけないとどんどん悪くなる。
“都会の視点”で見ればコスト重視で輸入した材木になるけれど、“地域の視点”で見れば地域の木を使うのが自然なこと。しかしその視点が、地方からはなかなか出てこないんです」
タイニーハウスが日本の問題解決に?
「タイニーハウスは地域の木を使う新たな供給先としての可能性があります。過疎地域でも声を上げて、1つで小さければ連携していけばいい。日本の国土の7割が山林なのに、今その資源を自らダメにしているっておかしいですよね。
特にこれから山間部の集落などでインフラが維持できなくなる時代が来た時、オフグリッドのタイニーハウスが活きてくるし、その住まい方は都市そのものの有り様への疑問にもなるんです。本当にそれは合理的なの?という」
デザインコンテスト2018の審査開始!
そんな思いが詰まった小菅村のタイニーハウスデザインコンテスト2018の審査会が、小菅村役場で行われました。1日目の第1次審査の様子です。
村役場の広い会議室いっぱいに並べられた124作品の応募資料(A3用紙2枚)を、審査員全員が一つ一つ丁寧に見ていきます。
審査員は昨年の受賞者のみなさん
審査員の顔ぶれは、舩木村長、和田さんを筆頭に、YADOKARIのさわだ、ウエスギ、相馬、そして北は青森から南は宮崎まで、全国から駆けつけた昨年のタイニーハウスデザインコンテストの受賞者のみなさんです。
「グラフィックの腕前に惑わされないようにしないとね(笑)」
プロアマ問わずの応募作品は、資料内のプレゼンの仕方も多種多様。その中から、小菅村の「森林(自然)の活用」のテーマの下、キラリと光るアイデアが盛り込まれたタイニーハウスを選ぶのは本当に大変です!
みなさんじっくりと資料を読み込み、メモを取りながら、時には近くにいる人と意見を交わしつつ、数時間かけて1次審査を終えました。
こうして1次審査を通過した作品が中央のテーブルに集められました! この中から翌日の最終審査で受賞作品を決定します。
この日は、審査員のみなさんは村の温泉で審査の疲れを癒し、旅館でイワナやヤマメなどの川魚や山菜たっぷりの郷土料理をいただいて労をねぎらいました。
いよいよ最終審査
さて2日目、再び村役場に審査員が集合し、1次審査を通過した作品の中から、最優秀賞をはじめとする各賞を決めるため、全員での検討が始まりました。
タイニーハウスの特性を生かす視点
評価のポイントとなったのは、まずはタイニーハウスならではのメリットがうまく出ているかどうか。
小さな空間を外部へ開いてその恵みを取り入れること、あるいは1つの空間・機能を多面的に使っていくつもの生活シーンを実現すること、暮らしに必要な機能を個別にユニット化し自由に連結して拡張・カスタマイズすることなどです。
小菅村の森林や環境を活用する視点
今回はこれらに加えて、コンテストのテーマとなっている森林との関係や小菅村特有の環境にも配慮したアイデアに審査員の注目が集まりました。
では、活発な議論を重ねた末、最終審査で選ばれた受賞作品をご紹介します!
最優秀賞
「タイトル:凸凹ハウス 森に開かれた細長い家/根岸 陽さん」
外界と一体になった小さなユニットの連結からなり、森の中にも傾斜地にも建設しやすそう、縦方向への拡張も容易にできそう、という点が評価されました。また、タイニーハウスの建設と植樹がセットになっており、既存の森の一部を開拓してタイニーハウスを建てつつ周囲に木を植えてみんなで育て、コミュニティ&里山を形成し山と町をつなぐという、大きなスケールでの森林との共生が考えられている点も秀逸です。
優秀賞
「タイトル:森に咲く家 森と踊る家/蜷川 結さん」
中央に何もない空間があり、四隅に設けたL字型の小部屋にそれぞれお風呂やキッチン、クローゼットといった生活機能が「収納」されていて、扉の開閉によって中央の空間とつながり、いろんな用途の部屋に変化するというユニークな発想が評価されました。気象や目的に応じて、外界との接点を開いたり閉じたりできるのも小菅村の環境にフィットしています。
特別賞-1
「タイトル:OFF-GRID LINK/高橋賢治さん・山本至さん」
10㎡未満のユニットを3つ組み合わせることで一つの住居になる他、複数を用いればコミュニティビレッジを形成することもできるアイデアです。リビング、キッチン&バスルーム、ベッドルームからなる3種のユニットは、それぞれの屋根が太陽光、雨水、腐葉土による熱を利用できる仕組みになっており、オフグリッドでの生活も可能。配置によっていろんな交流を生み出せそうですね!
特別賞-2
「タイトル:NAGA-HOSO HOUSE/塩島康弘さん」
森の中にガラス張りのこの建物があったらさぞ美しいだろうと思わせられるデザイン性が、高評価を集めました。日中の緑の中での佇まいはもちろんのこと、夜に灯が点った時の外側から見た感動が想像できます。タイニーハウスだからこそ、このような非日常的なデザインもより際立つのではないでしょうか。
村長賞-1
「タイトル:週末東京 仕事小屋付きオフグリッドタイニーハウス/田中健昌さん」
小菅村に住んで仕事をし、必要な時だけ東京に通うというテレワークの場としてのタイニーハウス。東京の仕事を田舎でこなしながら、家庭菜園やオフグリッドシステムも取り入れた健康的でコストのかかりにくい生活を送り、東京はたまに行く、という今までのセカンドハウスの持ち方とは逆の発想です。小菅村で過ごす日と東京で過ごす日のタイムスケジュール提案が具体的で、ソフト面のデザインが評価されました。
村長賞-2
「タイトル:ZOOM-IN INTO THE NATURE/Thet Su Hlaing(タスーライ)さん」
英語オンリーの提案書が、タイニーハウスムーブメントが世界的なものであることを雄弁に語っています!小菅村の地形と日の入り方がよく研究されており、傾斜地を利用して光と景色を最も効果的に取り込む配置が評価されました。丸太で基礎をつくるなど村の木材を生かす提案も盛り込まれています。
YADOKARI賞
「タイトル:SAUNA HOUSE 自然と遊ぶシェアするサードプレイスハウス/大西 洋さん」
森の中で薪炊きのプライベートサウナを楽しめる宿泊施設としての提案です。小菅村の木を薪としても活用し、多摩源流の水で熱くなった体を冷やす。ワーキングスペースも併設し、リモートワーカーもリフレッシュしながら働くことが可能。所有するよりハードルも低く、シェアすることで小菅村の関係人口増加にも貢献します。特産品の蜂蜜をサウナと絡めて商品化するアイデアなど、トータルでの具体的な事業構想が高い評価を得ました。(ちなみにYADOKARIさわだは大のサウナ好きでもあります。)
第3回の開催に向けて
審査会を終えて、審査員のみなさんからはコンテストの次なる進化に向けたこんなご意見も。
「今年は建築業界のプロからの応募が増えた印象なので、来年からは学生枠や一般枠などエントリーを分けてはどうか」
「タイニーハウスの魅力は、建築されるロケーションや地形とも密接に関係する。建てる場所・エリアなどをあらかじめ指定してもいいかも」
回を重ねるごとに、さらに面白くなっていきそうです!
自分の設計したタイニーハウスに泊まってみて
また、審査員を務めた昨年の最優秀賞受賞者である光賀さん、佐藤さん(アトリエデザインパレット一級建築士事務所)は、今回、自ら設計したタイニーハウスの実物に1泊するという体験もしました。その感想を伺ってみると…
光賀さん「とても贅沢な空間です!身体にフィットする安心感があり、狭いという印象はありません。とても短い滞在でしたが、都会に比べ、空の色や鳥の声、時間の移ろいに対し、積極的に自分の意識が向いている事に気づきました。それは単にプライバシーを意識する事とは異なる感覚です。僕たちの居室と水廻りを分棟とした案では、冬にテラスを行き来するのは確かに寒い(笑)ですがそのつかの間の体験をも”いいなぁ”と思えてしまう感覚でした」
佐藤さん「夜、歯を磨くために外に出たら、星空が一面に広がりとてもきれいでした。テラスを行き来するたびに、風や光、気温といったリアルな感覚を肌で味わえて、そこに留まりたくなりました。ふとした日常の中に触れられる豊かさがある、その価値を改めて感じました」
光賀さん「朝も良かった!外の明るさで自然と目が覚め、目を開けると空が飛び込んできました。コンパクトな空間に光が溢れ、とても清々しい気分でした。テラスに出て飲んだ目覚めのコーヒーは格別でした」
豊かな住まい方、コミュニティの在り方をデザインする
こうして2日間に渡るタイニーハウスデザインコンテスト2018の審査会は幕を閉じました。
改めて、タイニーハウスのデザインを考えることは、表面的な形状のデザインではなく、豊かな住まい方や、地域資源を含めたコミュニティの在り方そのものをデザインすることなんだと気づかされた2日間でした。
人の流動性が高まるこれからの時代において、タイニーハウスはミニマリストのための居住空間に留まらず、小さいからこそ外部に開かれた、多様な人々を呼び寄せ交流を生む場としての大きな可能性を秘めているのではないでしょうか。
このコンテストの授賞式の様子や、受賞作品の建築・活用についても随時お届けして行く予定です。続報をぜひお楽しみに!
▼ タイニーハウスデザインコンテスト2018
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