【タイニーハウスに行ってみた】最先端のグリーン浄水システムを搭載した「Tiny TIM」

(c)Föllmi Photography

みなさま、こんにちは。オランダ在住ライターの倉田です。オランダに住んでいると、ふいに近所にタイニーハウスが現れるという幸運に巡り合えます。今回は、筆者の住む街に突然やってきたタイニーハウスのお話をしたいと思います。

可愛らしい外見とは裏腹に、世界初の技術を駆使した家だというこのタイニーハウス。しかも、家の一部には昔ながらの日本の知恵も採用されているのだとか。一体どういうことなのでしょう。

日本由来の「焼杉板」という技術を使った黒いタイニーハウス

事の起こりは、2016年末。以前ご紹介した、オランダのタイニーハウス・ムーブメントの先駆者であるマリョレインさんが運営するサイトを読んでいたら、筆者が住む地域に期間限定でタイニーハウスのモデルハウスが設置されるという情報を発見しました。

(c)Naoko Kurata

それほど遠くない場所の公園だったので、見学することに。すると、緑の芝生の上に建つスタイリッシュな黒いタイニーハウスを発見しました。

(c)Naoko Kurata

今まで見学した「Tiny House Shirly&Roy」や「Marjolein in het klein」が木材の色をそのまま生かした色調だったので、この外見はインパクトがありました。

タイニーハウスに住む人、造る人の多くがそうであるように、この黒いタイニーハウスを手掛ける「Tiny TIM」も環境保護に気をかけており、持続可能な環境を保護されている森林から伐採された木材を使用した「アコヤ」(Accoya)を採用しているのだそう。アコヤとは、オランダのタイタンウッド社(Titan Wood)がアセチル化処理という独自の方法によって製造している天然木材のこと。とても水に強く耐久性があり、50年は腐食しないと言われています。その丈夫なアコヤをドア枠、窓枠に使用していました。

(c) Föllmi Photography

そしてこのタイニーハウスの黒さの秘密は、火で加熱処理をされているから。木材に火のエネルギーが加わったせいか、気が滅入るような曇天の下でも家からは不思議な力強さと存在感を感じました。

木材(壁部分はアコヤを不使用)の表面を焼いて炭化させることで、耐候性・耐久性が増すのだとか。ちなみにこれは、もともと「焼杉板」と呼ばれる日本由来の技術で、Tiny TIMもそれを参考にしたのだとか。今でも香川県などでは現役の製法だそうですが、それが遠いオランダでも活用されていて非常に驚きですね。それを知り、このタイニーハウスに一気に親近感を覚えました。

ちなみにこの焼いた木材はそのままでも使用できるそうですが、Tiny TIMでは表面コーティングを施して服などが汚れないように配慮しているのだとか。住むとなると外壁も毎日身近にあるので、そういう気づかいはありがたいですね。

ひとつはタイニーでも、組み合わせ自在のフレキシビリティ

(c) Föllmi Photography

残念ながら筆者が訪れたタイミングでは室内は見学できなかったのですが、Tiny TIMのご厚意で内部の画像を貸していただけました。黒い外壁とはうって変わって、室内は木材そのものの色味を生かした明るい雰囲気です。

(c) Föllmi Photography

奥には、トイレとシャワーのプライベート空間も確保されています。そしてその上にはロフトが。

(c) Studio Nuance

そしてこの室内も、実はただいま進化中。Tiny TIMのメンバーが、デザイン・スタジオからはこのような提案があがってきているのだと教えてくれました。キッチン下に、ベッドが収納されているのが見えますね!

(c) Studio Nuance

このデザインならキッチン下からベッドを引き出せるばかりではなく、ソファー部分もベッドに変形させられます。ゆったり眠れるのに、日中はスペースを有効に使えそうですね。

(c) FARO Architects

そしてこの家単体はシングルやカップル向けの大きさですが、家の向きや組み合わせで、さまざまな需要に対応できそうです。

かつて特集コラム『ムーブメントの未来を映すコンテスト「Bouw Expo Tiny Housing」』でご紹介したように、オランダのタイニーハウス・ムーブメントの重要なキーワードの中に「Tijdelijk」(一時的)という言葉があります。その時々の需要や都合に対応していける、タイニーハウスの柔軟性を表現する言葉です。このタイニーハウスも、設置の工夫次第では、学生寮や仮設住宅、さらには観光地でのレジャーハウスなどにも活用できそうですね。

完全オフグリッド!世界初のグリーン浄水システム

(c)Naoko Kurata

そしてもちろん、Tiny TIMはオフグリッド・ハウスでもあります。屋根の太陽光発電パネルはもちろんのこと、風力発電用の風車まで備えているという徹底ぶり。

(c)Naoko Kurata

さらにさらに、このTiny TIM最大の特徴はこの壁面ガーデンの内側に隠されています。実はこの6㎡の壁面ガーデンは、世界初の技術を採用した浄水装置になっているのです。

(c) Föllmi Photography

このガーデンの内側には3つのタンクがあり、雨水はもちろんのこと、この家から出たシャワーやトイレの排水も3回植物のフィルターを通すことで再利用可能な清潔な水に変わるのだとか。

(c)Naoko Kurata

トイレから出る排泄物は尿と個体(紙を含む)に分けられ、尿は浄水システムへ回り、個体は1、2カ月かけて乾燥処理されるのだとか。このシステムを採用することで、Tiny TIMに住むための生活用水はすべて雨水で賄うことができ、1人あたり年間1万5千リットルの節水になる計算なのだそう。

さらにTiny TIMはこのシステムを経た浄水は引用も可能だと自信を見せていますが、現在はオランダの水道局的組織のHHNKでの検査を依頼している段階。気になる人のためには、キッチン部分に水道水を貯められるタンクを別途設置することもできるそうです。これまた、柔軟性に富んでいますね。

(c)Naoko Kurata

ちなみにこの「Tiny TIM」のTIMはTimber(木材)、Independent(独立)、Mobile(持ち運びできる)の頭文字をとったプロジェクト・チームの名前。建築家のみならず建築と風景を専門とする写真家や、アムステルダム大学の学生たちも中心メンバーとなって運営しています。そこにオランダ国内のさまざまな専門家が参加して、このタイニーハウスは完成したのです。

オランダが生み出した木材を使い、さらには世界初の浄水システムも兼ね備える「Tiny TIM」。まさにオランダ製の最先端のタイニーハウスと言えるのではないでしょうか。そしてそこに、日本発の焼杉板という技術が加えられているということにも何かの縁を感じます。今後も、Tiny TIMが生み出す技術に注目していきたいと思います。

Via:
tinytimhouse.nl
facebook.com
ic4u.org
faro.nl
studionuance.com