コンテナとバレエの不思議な融合

コンテナのなかで、なにやら不思議なダンスが始まる。潮風に吹かれたトウシューズが、異空間への幕を開ける。

この作品をつくったアーティストJRは、実はピナ・バウシュ並みの振付家でも、ダンサーでもない。彼は今、世界で最もホットなアートを仕掛けるストリート・アーティストである。

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17歳の頃から、人々の写真を撮っては拡大し、それをストリートに貼ることに情熱を注いできた。彼は世界のどこへでも足を運ぶ。紛争や虐殺の起こった地域、リオの貧民街、震災後の日本。JRはそうした場所で、今も複雑な葛藤を抱えながら身を潜めるように暮らす人々の存在を肯定し、主張できる場をつくっていこうではないかと呼びかけるのだ。(下は、ケニヤのスラム街に貼った写真を上空から撮影したもの。)

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TED Prizeを受賞した2011年からは、新たにInside Outというプロジェクトを開始。
参加者は自分のポートレートをアップロードすると、その大判ポスターが送られてくるので、これを街中に貼って自分たちの存在を主張できるという仕組みだ。

そして2014年7月。JRは、フランス北西部の湾岸都市ル・アーヴルで開かれたフェスティバルの一環で、面白い試みをした。それが、先に紹介したコンテナ作品である。

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隙間なく積み重なる赤と緑のコンテナには、寂しそうにしている一人のバレリーナの写真が貼られている。彼女は自由に羽ばたきたいけれど、それを抑圧された状態にある。まさに暗い鳥かごの中の、あるいは眠れる森のバレリーナといったところか。その様子は、JRがこれまでカメラに収めてきた人々の象徴とも受け取れる。

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そしていくつかの開いたコンテナでは、実際にダンサーたちがパフォーマンスをおこなった。そこには、民衆を率いてきたストリートの名手が、いきなりドガの世界に飛び込んだかのような斬新さがある。

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コンテナとは、まるでチョコレートの箱のようだ。開けてみるまで、中身の正体は分からない。しかしだからこそ、私たちが勇気をもって扉を開いていけば、世界は少しずつ変わっていくのかもしれない。JRがコンテナから羽ばたかせた鳥のバレリーナは、自由の象徴であり、未来への希望なのである。

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余談になるが、彼の活動の様子はInstagramで覗くことができる。近年はNYCバレエから声を掛けられたことがきっかけで、ダンサーとのコラボレーションにも意欲的なJRだが、その創作過程の舞台裏などもアップされている。なかなかビートの効いた面白い記録になっているので、ご興味のある方はぜひチェックしていただきたいと思う。

Via:
http://www.jr-art.net/
http://goo.gl/nuLZil
https://vimeo.com/socialanimals1/videos
http://hypebeast.com/2013/4/jr-inside-out-new-york-city-recap