第6回:南アフリカ レインボーギャザリング(前編)|ニンゲンらしく、アフリカぐらし

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「レインボーギャザリング」という集まりを聞いたことがあるだろうか。
世界各地で行われているインターナショナルコミュニティで、人種、宗教、国籍を問わず非暴力で愛と平和な考え方を実現しようとしている人なら誰でも参加できる。
開催地はたいてい大自然の中でテントを張るのが一般的だ。参加者は非商業主義なヒッピーやシンプルな田舎暮らしをしている人が多い。

南アフリカではたいていケープタウンの近くの森で行われるらしいのだが、今年はなんと私の住むトランスカイで行われるというのだ。一度も訪れたことのないレインボーギャザリングだが、友人の話を聞くと興味深く、行ってみる価値がありそうなので、息子とまだ1歳の娘を連れて参加することにした。

小さな布切れの目印をたどって自然豊かなトランスカイの海岸沿いに連なる丘と丘を潜り抜けると、大きな川とその反対側には大きな海が見える場所が目の前に広がる。車はそこまでで、それから30分ほど歩く。

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大自然の中、テントが立てられている。そこには30人ほどの人たちが生活していた。彼らはお互いのことをファミリー、つまり家族だと呼び合う。彼らのほとんどが白人なのが目に付いた。やはり南アフリカのアパルトヘイトの壁はまだ深く残っているようだ。

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到着してすぐにみんなが「Welcome home family!」と挨拶してくれる。
一人一人が心から迎え入れてくれているのが暖かくて、すぐに自然体になれる空間だ。

大自然に囲まれておこなわれる

ギャザリングの儀式は月の周期の28日間行われる。新月から始まって、満月を祝い、新月まで行われるというのだ。

電気も、水もない。ケータイの電波もほとんど届かない、そんな場所だ。川がすぐ横を流れていて洗濯、水浴び、飲み水ととても恵まれた環境だ。トイレは大きな穴を掘っていて、トイレがすんだあとは灰を被せるという具合になっている。ギャザリングの後、自然をそのままの形で後にするいうのもレインボーギャザリングの自然を尊重したあり方だ。

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持込を禁止されている物は、犬、お酒、ドラッグ、肉、電化製品。

お酒が禁止されているのは、とてもいいことだった。日中ばらばらになっていたファミリーが日が暮れると料理の火、チャイの火、そして中央で絶えず焚かれている火に集まってくる。そしてお酒の力を借りずに顔と顔を合わせて真剣にいろんな話をするのだ。自分の経験してきた話、哲学的な話、健康の話、インディアンの考え方、旅の話、南アフリカの歴史・・・・

私はただ自然に身を任せて、来るもの拒まず、去るもの追わずのスタイルで一人一人と丁寧に話しをした。このギャザリングに参加した時から「心を開こう」と心に決めていた。全員と話せなくてもいい。縁を信じて心を開いて話をしよう。そして言葉を交わすたびにここに参加している人たち全員が心を開いて、心をシェアしようとしているように見えたのだ。

私が到着したのは満月の4日前。もう月は夜空に光を振りまいていた。その光と炎の明かりが話す相手の顔を照らし、とても心地良いムードが流れる。

知識をシェアできる貴重な体験

パーマカルチャー、田舎暮らし、ベジタリアン、ナチュラル生活・・・etc
主にこのギャザリングを主催している人たちの暮らしには見習うことが多い。今回のこのギャザリングに来た目的の一つに料理や生活の知恵を学びたいというものがあった。

レインボーのルールの中に肉を持ち込まないというのがある。いろんな習慣や宗教の人が来ても一緒に食べれるようにだ。私はベジタリアンではないけど、肉や魚は毎日食べず、野菜の日を増やそうと思っている。そして一緒に暮らす人にベジタリアンが多いこともあり、ベジタリアンのメニューにはとても興味があるのだ。とにかく子供二人が気持ちよく遊んでくれている時はたいていキッチンにいた。

手伝うことでいろんなレシピを学んだ。レインボーで出される食事はどれもおいしく、とても有意義な料理教室となった。持っている技術をシェアすることもこのギャザリングの目的の一つなのだ。

滞在中、オレンジの皮が大量にあるのに気がつき、オレンジピール洗剤を作った。キッチンを掃除したり、食器も洗える。誰でも思いつくできることは何でもできるのだ。

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これがレインボーキッチンだ

一つ年上のフリッパという女性と出会った。彼女は主に主催している人の一人でヒッピーだ。歌を歌うのが好きな彼女は歌をよく歌っていて、とても物静かな女性だった。腰まであるその長い髪はまだ若いのにほとんど白髪で、それが余計彼女を神秘的に魅せていた。

彼女にはサラダに入れるとおいしいスプラウトと呼ばれる豆が発芽したものの作り方や、ビーワックスでつくるマッサージオイルの作り方を教わった。養蜂をしている彼女の自家製の蜂蜜は今まで食べた蜂蜜の中で一番おいしかった。穏やかな彼女の愛が入っているかのように思われた。いつか小さな養蜂箱を作ろう、そんな刺激ももらった。西ケープ州に住む彼女の家にも遊びに行ってみたい。

量より質。南アフリカレインボーファミリー

ネットでアメリカのレインボーギャザリングの情報などを見ていたので、1万人程の人が集まる大規模なものをイメージしていたが、このトランスカイで行われたギャザリングは満月の一番多いと予想されていた時でも40人に達しなかった。世界中のレインボーギャザリングに参加しているというイノックは、今まで訪れたレインボーギャザリングのどれよりも規模が小さく、どれよりも内容が濃いといった。

「量より質だ。」口数の少ない彼だけど、話す言葉はいつも知恵があり、みんなが耳を傾ける。そんな彼は滞在中にむかえた私の誕生日にベテランヒッピーのおじさんと二人で私のためにチョコレートケーキを作ってくれた心優しい人だった。

ここではみんなが一緒に働く。この集まりではそれぞれの意思を尊重するということから人に指示をしたりすることはなく、自分が気がついたこと、必要とされていることをするのだ。

このギャザリングの儀式の間、絶えずに焚かれている中央にある火の番人。

川に水を汲みにいく人。森に薪を採りにいく人。薪を割る人。料理をする人。食器を洗う人。常に用意されているチャイの番人。ゴミの分別をする人。

やることはたくさんあった。男衆は力仕事を主にして、女衆は料理や台所周りに気を配る。それは本当の男女平等のように思えた。

Food circle! 食事の時間

「food circle now!」

キッチンからこの声が聞こえてきたらもうすぐ食事の時間だ。
みんな自分の皿とフォークを持って火の回りに集まってくる。

WE ARE CIRCLING
We are circling
Circling together
We are singing
Singing our heart song
This is family
This is unity
This is celebration
This is sacred

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これは毎日食事の前に歌われる歌だ。その他にもたくさんの歌があり、誰かがうたい始めたらそれに続くように始まる。手と手をつなぎ、火を囲んで輪を作り歌を歌う。その後に全員でハモる「om(オーム)」の声が和音となって、とても心地良い。そして祈りを捧げ、4人ほどが食事を配る。配る側は食べ物を中央の火に供えて、その後一人一人と言葉を交わしながらサークルの中を回り皿によそっていく。大自然の中で、火を囲み大勢で食べる食事。火で作られた料理はなおさらおいしい。ファミリーの愛がスパイスとなって私のお腹を満たしてくれる。

ここで食べる食事は本当においしかった。

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こうしてこのレインボーファミリーと共同生活をする中で、私も自然とレインボーになっていた。いや、私はそもそもレインボーなのだ。このギャザリングに来たことは自分の意思とは別に大きな力に導かれた気がしていた。

When the earth is ravaged and the animals are dying, a new tribe of people shall come unto the earth from many colors, creeds and classes, and who by their actions and deeds shall make the earth green again. They shall be known as the warriors of the rainbow,

-Hopi prophecy

訳)
この地球が荒れ果てて、動物たちも死にゆく時、新民族がこの地球に現れるだろう。彼らはさまざまな肌の色で、さまざまな宗教を持ち、さまざまな階級の人たちだ。彼らの行いにより、この地球には緑が再び戻るであろう。そして彼らは虹の戦死として知られるだろう。
アメリカ大陸の先住民ホピ族の予言から用いられたというこの文は、私の心を熱くした。そうだ、人種、宗教、階級に関係なく、ただシンプルに人間としてこの地球を愛し、自分と同じくこの地球に生まれた同士を尊敬し、自然に感謝と畏怖の気持ちを持てたなら、それはギャザリングに参加してもしなくても、虹の戦士と呼べるのだ。

このギャザリングで学んだことは数多い。
そして南アフリカのレインボーギャザリングには課題がたくさんあるような気がしてならない。この続きは乞うご期待ください。

 

(後編へ続く)