第3回:1分に1度の流れ星!そんな星空、見たことがありますか?|スゴイ!が日常!小笠原

スゴイが3
「勝負しよう。流れ星を先に10個見つけたほうが勝ち!せーのっ――」
そんな合図ではじまった、僕とカメラマンとのふたりの夜。

「あ!流れた!」
「うそ!?」

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「……っと、流れた!」
「なにっ! 」

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「流れた!!」
「流れた!!」

ふたりの声が夜空にハモる。勝負は劇的な混戦にもつれこみ「9対9」へ。「次の流れ星を先に見つけたほうが勝ち」という嘘みたいな展開に。
「絶対に負けられない!」と息巻いて、くまなく夜空を見渡そうとする。が、目の前の水平線から背中まで、星空のドームにすっぽりと覆われていて、目が4つあっても視界におさまらない。

そう世界は視界より圧倒的に広いのだ。置いてきた仕事の悩みなんて、どれほどちっぽけなことだろう。会社に人生を閉じ込めるなんて、どれほどもったいないことだろう。宇宙を前にすると、人は少しだけ謙虚に、それでいて自由になれる。

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とにかく、全方位、高濃度。
流れ星を見つけようにも、渋谷のスクランブル交差点で行き交う人たち全員の姿を追うことができないように、文字通り「目星」をつけることもできやしない。それでも。浅く、広く、なんとなく見渡しているだけでは、いつまで経っても流れ星は見つからない。「ここだ!」と当てずっぽうでも狙いを定めたとき、不思議なことにそれは必ず降ってくる。

思えば、都会には星の数くらい「人生の選択肢」が散らばっている。「ほんとうにやりたいことがわからない」と言う人も多い。でも、それは全体を見過ぎているせいかもしれない。チャンスは流れ星のように絶え間なく降りそそいでいる。だから、狙いさえ定めれば、自然と捕まえられるものではないだろうか、と、そのとき!

「流れたっっ!」

決着の星が流れる。勝負は、僕が勝った。時計を見ると、開始の合図から15分しか経っていない。
ふたりが同時に見つけた星、どちらか片方が見つけた星、それらを延べにすると、ふたりで15個は見つけている。つまり、1分に1つの星が流れていた計算になる。本当の話なのですが、僕たち自身が未だに信じられないぐらいです。

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天の川が見られる大都会がつくれたら。

この夜が特別だったわけではありません。毎晩と言ってもいいぐらい“100点満天”の星空が続いていました。贅沢な話、それに飽きてしまって、こんな勝負を持ち出したぐらいです。

天の川も、肉眼ではっきり見えます。夜空に虹がかかっているかのようなアーチは、星の雨で川が氾濫したかのように豪快です。天の川を見るのに、人里離れる必要も、車で山を登る必要もありません。それを象徴するのがこの写真。これは母島のメインストリートで撮影したものです。人が暮らしている町の、ど真ん中でこの星空。

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「都会の明かりと引き換えに、星空を失った」なんてウソだ。無駄な電気さえ使わなければ、都会でも天の川が見られるのかもしれない。そのかわり、小笠原は店は少ないし、閉まるのも早い。それでも、コンビニの種類が選べる便利さより、天の川が毎日見られるほうがいい。そう思わずにはいられません。

ちなみに、母島には“ガジュ下”と呼ばれるディープスポットがあります。商店はたったの3軒、飲食店も4軒ぐらいしかない母島では、お店が閉まったあとは、メインストリートの“ガジュマルの木の下”で飲んでいる人が多いという。二次会はカラオケ、ではなく、天の川の下で。なんともうらやましい話です。

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東京の夜空は、青かった。

小笠原に2週間もいると、夜空を見上げるクセがつく。その習慣は、東京に帰ってきてもしばらく続いた。そのとき、ふと気づいたんです。「東京の夜空って、こんなに青かったっけ?」と。

真っ黒だと思っていたはずの都会の夜空は、街の明かりで驚くほど青いのです。当然、星はほとんど見えない。「流れ星だ!」と思っても、飛行機だったりする。
次第に、夜空を見上げる習慣も、誰にも気付かれなかった流れ星のように消えていったのでした。

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スゴイ!が日常!小笠原の「星」。
小笠原の星空スポットは、父島なら「小港海岸」と「洲崎」、母島なら「旧ヘリポート」がおすすめです。前も後ろも遮るものがほとんどない中、天然のプラネタリウムが楽しめます。
とはいえ、島の中心部でも、天の川までしっかり見える。それが小笠原の凄みなのだと思います。