3つの棚でワンルームが変幻自在!舞台装置のような家「All I Own House」
家族の人数や持ち物の量でほぼ自動的に決められている3LDKなどの「部屋数」。でもそのお部屋、一日のうちでそれぞれ一体何時間使われているか考えてみたことはありますか?
ALL I OWN HOUSE by PKMN Architectures from PKMN [pac-man] on Vimeo.
必要な時に必要な部屋をつくる
スペインのデザイナーYolanda Pilaさんのご自宅は、祖父母の住まいだったというマドリード北部の1942年に建てられた小さな平屋です。広い庭はあるものの、家自体は50㎡とコンパクトな広さ。この限られた空間の中で、住居と自身のデザインスタジオを併設させることがこの家の課題でした。そこでリフォームの設計を依頼されたPKMN Architecturesは、家の半分に図書館の書庫のような可動式の収納ユニットを3台設置し、まるで舞台の背景のようにそれぞれのユニットを移動しながら必要な時に必要な部屋をつくるという、新しい部屋のあり方を提示してみせました。
コスト対策に安価なOSBボードで製作されたこの3つの収納ユニット、中身はYolandaさんの持ち物の種類によって明確に区分されています。一列目はキッチン側に折りたたみ式のダイニングテーブル兼作業台と食器の収納、反対側の背面にはミーティングのアイディアを書き留める円形の黒板を配置。二列目は本棚と反対側に格納式ベッド、三列目も本棚と雑多な物の収納、反対のバスルーム側はクローゼットとして使用されています。
固定された部屋を手放すことで拡がる空間の可能性は無限大
これまで小さな家や狭い部屋に住む場合、物を極力減らしたり部屋数を諦めて兼用するなどが良く見られるセオリーでした。でもこの家の場合、書籍や資料など仕事柄必要な物は壁代わりの収納ユニットに確保し、それぞれのユニットを移動させることでその時必要な部屋を瞬時に創り出すことが可能です。よく考えてみれば、ご飯を食べ終えたらキッチンも使わないし、仕事中にベッドがなくても何も困りません。部屋はいつも同じ場所にあるという固定概念を手放すことで、趣味に没頭するスペースや友達とおしゃべりを楽しむスペース、仕事に専念するスペースなど、欲しいと思った空間を自分の手で引き寄せることができるのです。
このプロジェクト名のAll I Own Houseには、クライアントの所有物を一か所にまとめることで可視化し、棚に収納された物によってその空間が定義されるという意味だけではなく、「必要な空間は全て持っている」、そんな建築家の隠れた意図も感じられるようです。部屋数に対するこだわりを一旦リセットしてみると、得られる空間や使える予算は想像以上に大きい物かもしれません。