【特集コラム】第2回:アメリカの移動する家、モバイルハウスのある暮らし
世界中のモバイルハウスを通して、移動する住宅の可能性を考えるこのモバイルハウスの特集コラム。第1回目は、モバイルハウスの種類、機能、そしてメリット・デメリットについてお話ししました。第2回目の今回は、アメリカのモバイルハウスについてお話ししたいと思います。
キャンピングカーの歴史
最初に、モバイルハウスの原点でもある、キャンピングカーの歴史についてお話しましょう。キャンピングカーは、アメリカでは総称「RV(Recreational Vehicle=娯楽や余暇を楽しむための車)」と呼ばれ、長い間親しまれてきました。Recreation Vehicle Industry Associationの統計によると、現在、およそ900万人のアメリカ人がキャンピングカーを所有しているそうです。
そんな、アメリカ人の生活の一部といえるキャンピングカーが誕生したのは1910年のこと。当時、旅行と言えば、列車で行くのが当たり前だったので、好きなときに好きなところへ行けるキャンピングカーは、まさに画期的なアイディアでした。
Pierce-Arrowという会社が紹介した、Touring Landauという車がアメリカ初のキャンピングカーで、見た目は車そのものですが、後部座席を折りたたむとベッドになり、洗面所と携帯用トイレは運転席の後ろに設置してありました。長時間の移動のこと考慮した設備になっているのは、やはりキャンピングカーならではですね。
アメリカ初のキャンピングカー「Touring Landau」
Via: chron.com
さて、近年のアメリカのモバイルハウス事情はどのような感じなのでしょうか。第1回目でご紹介したように、最近では、キャンピングカー、バス、そして車の利用が、アウトドアや乗り物としての利用だけでなく、移動できる住居やショップ等として利用されてきています。それは、アメリカでも例外ではありません。
離れ家・オフィスタイプのモバイルハウス
最初にご紹介するのは、離れ家・オフィス仕様のモバイルハウスです。カリフォルニア州在住の建築家Matthew Hofmannさんは、ヴィンテージのAirstreamに魅せられた一人。以前に本ウェブサイトでも、MatthewさんがオープンしたAirstreamのホテル「Santa Barbara Auto Camp」の記事をご紹介しました。
Matthewさんは、1978年製のAirstreamを買い取って改装し、住宅兼オフィスにして住んでいます。借りた土地にAirstreamを設置して住んでいるので、賃貸料は土地のみ。その他に、光熱費や諸設備費がかかりますが、普通の家を購入するよりは断然安く済みます。
内装に使用した素材はこだわりにこだわって、なおかつエコフレンドリーになるように、リサイクルできる素材も使用しました。「自然に囲まれた場所に、自分でデザインして建てた家に住む」というのがMatthewさんの長年の夢だったので、小さいスペースながらも、「最低限の必要なものに囲まれて暮らす」という暮らしができて満足だということです。
Matthew Hofmannさんと自宅兼オフィスのAirstream
Airstreamの内部は、スペースを生かした構造になっています
Via: apartmenttherapy.com
次にご紹介するのは移動式ショップです。このカテゴリーで有名なのは、ランチや軽食を扱うケータリングカーではないでしょうか。そんな中、アメリカではモバイルブティックと呼ばれる、中古のトラックやキャンピングカーを改造した移動式ブティックが増えてきました。
現在アメリカには、350以上のモバイルブティックが存在します。数だけみるとそんなに多くないようですが、数年前までほとんど存在しなかったことを考えると、モバイルブティックの存在が認められつつあるのかもしれません。
移動式ショップ・モバイルショップ
ワシントンD.C.在住のSharlia Leeさんは、マーケティングの仕事を辞め、ずっとやりたかったという服飾関係のショップを開店しようと思い立ちました。しかし、店舗を借りてショップをオープンするには、自身の貯金だけでは到底足りませんでした。
Sharliaさんの最初の予算は、日本円でおよそ800万円から1,050万円。これは貸店舗の開店資金です。それをモバイルブティックでショップを開店したところ、中古のトラック購入資金を入れても、およそ200万円で収まったのです。
Sharliaさんのモバイルブティックは、よくある店舗のショップと違って町中を移動できるので、「好きなときに好きなところに行ける」のが利点。その上、道路脇からさっと入ってショッピングできるので、たくさんのお客さんに気軽に足を運んでもらえるのも、モバイルショップの長所だそうです。
Sharlia Leeさんとモバイルブティック「Street Boutique」
「Street Boutique」の内部
Via: npr.org
バスタイプのモバイルハウス
それでは、住宅型のバスはどうでしょうか。バスを改装して住むとなると、バス特有の縦長のスペースしかありません。それをどう工夫して広く見せるのかが鍵になるでしょう。
1978年製のBluebirdというバスを購入し、自分たちで改装したのはMikeさんとNatalieさん。二人の「必要最低限の物だけで暮らす」ことと、「枠にとらわれないライフスタイル」が一致した結果、バスに住むという選択に行き着いたそうです。
「Rosie(ロージー)」と名付けられた、広さがおよそ28㎡のバスは、リビングやキッチンなどに細かい仕切りを一切使用していません。お陰で、狭くなりがちな縦長のバスも、息苦しさを感じることのない空間へと生まれ変わったのです。
その他、メタル素材のバスのため、特に冬には内部が凍てつくような寒さになります。そこで、内部の熱が外に逃げないように専用の生地を天井に貼ることで、この問題を解消しました。
「家が大きく なればなるほど、物をため込みがち。小さいスペースに住むということで、よりクリエイティブになり、本当に必要な物だけで暮らせるということがわかるんだ」と、Mikeさんは語ります。
バスの内部には、限られたスペースならではの工夫があちこちに見られます
Via: misseleighneux.com
車タイプのモバイルハウス
最後は、Overlanders(オーバーランダーズ)として車を利用したモバイルハウスの例を見てみましょう。Overlandとは「陸路で」という意味で、overlander(s)は文字通り、「overlandする(陸路を旅する)人(達)」という意味です。 必要最低限の荷物を車に積み、国をまたいで旅行するoverlandersは世界各国におり、数ヶ月から数年と、長い年月をかけて旅をするのです。
2012年の夏、NateさんとSarahさんは、アメリカ北東部のメイン州から南米アルゼンチンまで車で旅をすることに決めました。ありふれた生活なんてまっぴら、短い人生の中、後悔のないように生きたい – そういう思いから、overlandersとして旅に出ることに決めたそうです。
旅の間、必需品を運ぶには場所が限られているので、車のかなりの箇所に改良を入れました。後部座席にベッドを取り付け、トラック後ろに棚を設置。車の屋根や横に、ルーフラックや小型のポケット仕様の物入れも取り付けました。その他には、携帯用の扇風機やソーラーパネルも一緒に積んで旅に出発しました。
途中、トラブルに遭ったこともありましたが、2014年の4月までに全行程をこなし、旅の総日数555日、走行距離45,450キロ、訪れた国の数14カ国と、2年近くの長旅に終わりを告げました。旅の間、世界中のoverlandersに出会い、異文化に触れ、車という小さな乗り物に希望を託した2年間は、二人にとって思い出深いものになったそうです。
最終目的地のアルゼンチン、ウシュアイアでのNateさんとSarahさん
アメリカ大陸縦断で訪れた数々の場所
Via: thelongwaysouth.com
今回の「アメリカの移動する家、モバイルハウスのある暮らし」はいかがでしたでしょうか。利用する乗り物はそれぞれ違いますが、全てに共通しているのは「クリエイティブになること」。
狭いなら工夫して広く見せる、無いなら自分で作る、といったことがモバイルハウスに住むのに必要な条件なのでしょう。それに、小さな空間に住むことによって、生活に必要なものが本当に必要な物なのか、ということを考えさせられる、良いきっかけになるかもしれません。
次回は、「アメリカ以外の世界のモバイルハウス事情」についてお話ししていきたいと思います。
Via:
smithsonianmag.com
statesman.com
thecurvygirldiva.weebly.com