第6回:たった2週間の休みもない人生を続けられますか?|スゴイ!が日常!小笠原

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小笠原に来てからというもの、夕日を毎日楽しみに待っています。
「今日は、まあるい夕日が見れるかな?」「水平線にきれいに落ちるかな?」「空はどんな色に焼けるかな?」そうやって、一日の終わりをワクワクして待つように迎える時間って、なんて大切なんだろうと思うのです。

都会で忙しく働いていると、朝から満員電車で席取り合戦、命からがら会社に辿り着いたら、帰る頃には外はもう真夜中。いつ夕日が落ちたのか、なんて知る由もないまま一日が終わっていく。ひどいときには、いつのまにか夏がまるごと終わっているではないか。小笠原にいると、そんな暮らしが正しいとは思えなくなってきます。

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僕だけではありません。小笠原の夕日スポット「ウェザーステーション」には、毎日たくさんの人々が集まります。
メインストリートから急激な坂道をノンストップで登り続けること5km。踊り場のようなスペースに大きな展望台があり、観光客や地元の方々で賑わう声が聞こえてきます。「小さな島にこれだけたくさんの人がいたのか」と驚かされるほどです。

次々と「また会ったね」と交わされていくハイタッチ。そして、きょう一日の出来事を語り合いながら、夕日が落ちていくのをみんなで待つ。そして、その日もまた最高の一瞬が訪れます。
太陽が水平線と重なるその瞬間、あたりがシン――と静まりかえるのです。上映が始まった映画館みたいに。

思えば、夕焼けの空より壮大なシアターはありません。それに、たくさんの人が思い思いに夕日を見つめているこの空間はとてもあたたかな一体感があります。教会やモスクに集まってお祈りするのに似ているのかもしれません。悩んでいるのは自分だけじゃないこと、ひとりじゃないこと、言葉にしなくても、やさしさに包まれるような空間。そんな時間がウェザーステーションにはあるのでした。

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「グリーンフラッシュ」を知っていますか?

夕日が見たくなるもうひとつの理由。それが、「グリーンフラッシュ」です。
グリーンフラッシュとは、夕日が沈む直前、その一瞬だけ緑色にまたたくように光る現象のこと。ちょうど太陽が去り際にウィンクするみたいに。それを見るには、水平線が見渡せること、大気の透明度が高いことなど、いくつかの好条件が重なる必要があります。ここウェザーステーションは世界有数のグリーンフラッシュの名所でもあるのです。

あまりに一瞬であるため、カメラにおさめるのは至難の業。現地の人たちでさえ、グリーンフラッシュが見られた日は大きなどよめきが起こると言う。「カップルで見られたら永遠に結ばれる」なんて言い伝えもあるぐらいです。僕の2週間の滞在では見ることができませんでしたが、毎日表情を変える夕日は、それだけで十分に美しく思えました。

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休みは、取れないんじゃない。取らないだけだ。

小笠原には「1航海」という単位があります。
乗って来た船で帰ることを「1航海」、次の船で帰ることを「2航海」と数えます。時期にもよりますが、島に行く船は1週間に1度。25時間かけて父島に到着し、そのまま3日間ほど停泊してから帰港します。

つまり、1航海でも最短でも1週間が必要で、それだと島にいられるのは実質3日程度。「ぜんぜん足りない!もっといたい!」そう思っても、次に船が来て、それが出発するのはそのまた1週間後。全部で2週間の休暇が必要になってしまうのです。

日本人が2週間の休みを取ることが、どれだけ難しいか。実際ほとんどの人が1航海で帰っていきます。それでも。1航海は、1後悔。3日間で旅するには小笠原は魅力が多すぎます。きっと、あそこも行きたかった!あれもやってみたかった!と思うはず。往復で50時間以上かかるのだから尚更です。

だからこそ思うのです。 「この先の人生、たった2週間の休みもない人生を続けられますか?」と。
会社勤めだとしても、いや、会社勤めだからこそ、代わりを頼めるし、島で仕事をしてもいい。それに、2週間ぶんの仕事くらい、残りの50週間で取り返せないわけがないはず。小笠原への旅をきっかけに、2週間の休暇取得にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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どれだけカメラが進化しても、目で見る景色にかなわない。

最後に、もうひとつの夕日スポットを紹介します。
それは中山峠。小港海岸から40分ほど山を登ったところにあるのですが、見てください、この絶景。

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この日は、片道3時間かかるジョンビーチを目指して、いくつかの山を越え、汗だくでたどり着いたその足で海へとダイブ。ひとしきり泳いだせいで、さらにヘトヘトになった体で帰ること3時間。
「暗くなる前に山を降りなきゃ」と急ぐ中山峠での出来事。「ここまでこれば安心だ」というところで、人生史上最高の絶景に出会えました。

目の前には、神様のアコーディオンみたいな巨大なダブルレインボウ。「お…!」と驚きの声がこぼれるのを無理やり飲みこんで、「みんな、あれを見て!」と仲間を振り返ると、背後には雲ひとつない水平線に落ちゆくまんまる夕日!
「おお…!!」と感動の声をあげながら騒いだ後に、もう一度虹を見ようと前を向く。すると、空が見たことがない色に焼けている!ありとあらゆる色彩があふれだしていて、ステージのクライマックスを大いに盛り上げていたのです。
「おおお!!!」と声をあげたきり、それからは全員が声を失った。夕暮れの空による圧倒的なLIVEに、ただただ身を委ねました。

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スゴイ!が日常!小笠原の「時間」。
それは、夕日を待つ時間がある暮らし。太陽が出ている時間に汗を流したあとは、ウェザーステーションへ。沈む夕日をみんなで見届けたら、あとは家族と過ごす時間と趣味の時間。そんなスイッチが自然に入る毎日。小笠原には、そんな人間らしい暮らしが残っています。