家具デザイナーと料理好きの二人がガレージ付き賃貸を劇的リノベ!「Adam and Evan’s Brooklyn Loft」
日本でも自分の「好き」を生かして本業のかたわら小商いや新しいビジネスを営む人が増えているようです。ニューヨークのブルックリンに住む建築と家具デザイナーのAdam Finkelmanさん 、音楽療法士で料理と楽器演奏が趣味のEvan Garfieldさんの二人も、お互いの得意分野を持ち寄り、DIYで改装した自宅で賃料を補てんするための飲食ビジネスを始めました。
住まい選びの基準を定めれば、さえないワンルームもお宝物件に!
バスルームとキッチンがあるだけの横に長い65㎡のワンルーム。間取りを見ただけなら二人で住むには不十分とあっさり却下しそうなこの物件にAdamさんとEvanさんは大きな可能性を感じました。それは二人が新居探しにあたって重視していた4つのポイント全てを満たしてくれそうな理想の物件だったからに他なりません。
その4つのポイントとは
①賃料が安い
②治安も良い
③人をもてなすのに十分なスペースがある
④それぞれの寝室に窓がある
という部屋でした。しかし、最初からこの物件が全ての条件を満たしていた訳ではありません。特に65㎡の限られた空間で人が集まる空間を広く取れば、他のスペースが犠牲になることは目に見えています。そこで二人は「家でやりたいことをすべて叶える」ため家主に改築の許可をもらい、優先順位の低い場所はできるだけ小さくしました。
寝台列車のようなおこもり感が居心地バツグンの寝室
AdamさんとEvanさんが部屋づくりで重視したのは大勢のゲストをもてなすための広いリビングとキッチンを確保すること。そのため寝るだけの寝室はベッドが収まるギリギリのサイズに納め、マットレスの横幅に合わせた約2.3m×2.3mの超コンパクト空間としました。
この狭さは建築や家具のデザイン、リノベーションのプロデュースなどを手掛けるYorkwood Co.の主催者Adamさんの綿密な計算に基づいています。
夜寝る前にしたいことを考えたらこうなったという足元の壁面収納には、本とテレビを収納。ロフトベッドの欠点である息苦しさを感じさせないよう絶妙な高さに計算された天井には、Craiglist(不用品の売買や求人、地域のイベント情報などの掲示板サイト)で探し出した無料のカラフルな廃材をリズミカルに貼り、無機質になりがちな寝室に視覚的な安らぎを与えています。
寝室のデッドスペースを利用して作りつけたデスク下の細長い収納棚のように、必要な収納を考える過程でできる限り効率的でスマートなデザインを心掛けたことで、結果として寝室にこれ以上のスペースは必要ないことに彼らは気付きます。
「今まで暮らした部屋の中で一番狭いけれど、これ以上にサイコーの部屋はないよ」という二人の言葉からも、体験した人にしかわからない、この部屋の持つ特別な居心地の良さが伝わってくるようです。
寝室の収納をコンパクトに収めた結果、はみ出てしまった厚手の衣類や趣味の道具、靴などの収納は廊下の長さを利用したオープンクローゼットに集約。独立した寝室を作ることでできたリビングの壁にはEvanさんのギターをディスプレーし、その下に大きなコーナーソファーを配置することで適度に仕切られたオープンなリビングコーナーが出来上がりました。
一番長い時間を過ごすキッチンには男のこだわりが満載
家具や空間のデザインはAdamさんが担当する一方、趣味が高じて今ではネットで予約したゲストに料理をもてなすビジネスを始めたEvanさんはキッチンの構想で主導権を発揮します。
おもてなし好きの母と孤児院のボランティアを務めていた父を持つEvanさんは、子供の頃から人に分け与えることや人と人とを結びつけることを喜びとする環境に育ちます。学生時代に「食」を通してその二つを実現できることに気付いたEvanさんは、次第に仲間同士からさらに多くの人たちへと自身の料理をふるまう対象を拡げていきました。
そんな折に見つけたのが夢を実現できそうな今回の物件。しかし改装前のキッチンは、大量の料理を調理するにも、Evanさんがこれまでに買い集めた調理器具を置くにも充分とはいえない広さと動線でした。
そこでルームメイトのAdamさんは集成材を調理に最適な奥行きと形にカットし、キッチン両側の壁に新たに設置しました。既存のキャビネットも一度取り外し、使いやすい高さに付け直しました。
使いやすさと動線にとことんこだわったキッチンの収納の中でも、特に秀逸なのはシンクの真上に取り付けた水切り用ラック。既存のキャビネットの底板をくり抜き、IKEAのディッシュラックと市販のトレーを組み合わせ、洗い終わった食器の水がシンクに直接流れるように考えられています。
元ガレージをDIYでライブの聴けるオシャレなレストランスペースに
Evanさんの料理がお目当てのゲストが食事を楽しむのは、キッチンのドアと繋がるレンガ壁がオシャレな元ガレージ。通りに面した開口部を防音シートで塞ぎ、ジャズのライブやセッションを聴きながら食事が楽しめる空間へと二人によってリノベーションされました。
ゲスト用の大きなダイニングテーブルとベンチは通りで廃棄されていた船のパレットを再利用して作ったもの。アイアンがアクセントになったラフな質感が魅力のこちらの家具もAdamさんの手によるものです。
この家の改装に使われた資材の多くはCraiglistの無料コーナーや近所のお屋敷の解体で出た廃棄物でできています。捨ててしまうには惜しい立派なドアや窓などの建具が手に入れやすい立地だったことも、コストが厳しい賃貸の改装には好都合だったようです。
材料費の大幅な軽減と二人の得意を活かした労働力の投入で、これだけの大がかりなリノベーションながら、結果として物件の一カ月分の賃料と変わらない金額でリノベーションの費用をまかなうことができました。
それぞれの「好き」を持ち寄ることで膨らむ可能性
AdamさんとEvanさんのケースでは、二人が好きなことに焦点を絞り、それを実現するための理想的な空間を貪欲に求めた結果、家賃の一部を補填できる副収入への道が開けました。またこのビジネスはニューヨークのような大都市では希薄になりがちな人と人とのつながり作りにも一役買っているようです。
もとは一人一人の趣味や仕事から始まった小さな活動が、やがて周りの人をも巻き込んで当初予想もしていなかったような夢や人とのつながりを生んでいく。常識やお金に縛られない、これからのライフスタイルのお手本のような二人の住まいは、どこから見ても新鮮な驚きと楽しいアイディアに満ちています。
(文=伊藤愛)
Via:
yorkwoodco.com
eatfeastly.com
huffingtonpost.com
treehugger.com